新NISAブームの裏で浮上する「大増税」…凄腕FPが明かす”勝ちパターン崩壊”の実情

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「貯蓄から投資へ」という国を挙げた大号令のもと、新NISAの口座開設数が急増している。世間は空前の投資ブームに沸いているが、そのブームの裏で密かに近づいてきているのが「金融所得課税の強化」をはじめとする大増税だ。

ターゲットとして狙い撃ちされるのは、一部の突き抜けた大富豪だけではない。年収1000万円〜3000万円クラスのアッパーミドル層から富裕層も、容赦なくこの増税のターゲットに組み込まれつつある。

これまで「稼いで、投資して、増やす」というサイクルで資産を築いてきた高所得者たちの「勝ちパターン」は、今まさに歴史的な転換点を迎えているのだ。

高所得者層はこの事態にどう立ち向かうべきか。数多くの富裕層・高所得者の家計相談に乗ってきたファイナンシャルプランナーの鳥海翔氏に、現代の資産防衛の実態と生存戦略を聞いた。

勝ち組のはずが…高所得者に迫る三重苦

連日のようにメディアでは「増税」のニュースが飛び交い、同時に金融市場も不安定な乱高下を繰り返している。これまでは「税金が増えても、投資の利益でカバーすればいい」というのが高所得者の常識だった。

ところが、その「逃げ切り」の計算式がそもそも成り立たなくなってきている。

「増税がネックになるのではなく、今の日本は『高収入だからといって、必ずしも大丈夫ではない時代』になってきたということです。今までなら、高収入であればあるだけで何とかなった部分がありました。ですが今は、高収入にあぐらをかいていられない時代に突入しています」(鳥海氏、以下同)

鳥海氏によれば、税制の問題以上に見過ごせないのが、高所得者本人の“ずさんな支出管理”だ。

「収入が高い人ほど、高い収入が入り続ける前提で当たり前のように生活レベルを上げています。タワーマンションを買ったり、高級車のローンを組んだり、簡単にやめることのできない固定費がポンポンと積み上がっている。支出の管理なんてしたことがないから、自分が毎月いくら使っているのかもよくわかっていないケースが非常に多いんです」

もし、その前提が崩れたらどうなるのか。鳥海氏はこうしたリスクについてこう語る。

「例えば、YouTuberが広告収入を主な柱にしていた場合、規約変更やアカウント停止などをきっかけに、収益が突然止まることがあります。あるいは、売掛金をあてにしていた事業者が貸し倒れに遭い、入るはずだったお金が入ってこなくなるケースもあります。

毎月収益が入ってくるという前提が崩れた途端に、それまで見えていなかった過剰な固定費が浮き彫りになるのです。ビジネスで『収入を増やすこと』と、家計の『支出を管理すること』は、まったく別の脳みそを使うんです。稼ぐ能力に特化している人ほど、支出管理がザルになっていることも少なくありません」

増税、相場の乱高下、突発的な収入減。これらが重なれば、どんぶり勘定の高収入世帯などひとたまりもない...。

なぜ、富裕層の海外移住は楽ではないのか?

増税のニュースが報じられるたび、SNSやメディアでは「もう日本は終わりだ。シンガポールやドバイに移住して税金を逃れたほうがいい」という極論が持て囃される。

海外で優雅に暮らす成功者の姿にスポットライトが当たり、海外脱出こそが唯一の防衛策であるかのような空気が蔓延している。だが、この「税金逃れのための海外移住」という世論に対し、鳥海氏は強い違和感を口にする。

「確かにシンガポールや東南アジアで法人を作れば、税制面のメリットはあります。ただ、税金のことだけを理由にすべてを捨てて、海外で生活するのはどうなんでしょうか。言葉の問題、文化の違い、食べ物、そして何より、日本人が安全で快適に暮らそうと思えば、海外の生活費はとてつもなく高くつきます」

「海外脱出」をもてはやす声もあるが、実際の移住生活には多額の生活コストに加え、表からは見えにくいストレスもつきまとう。

「本来、外国の方々はお金を払ってでも日本に住みたいと思い、すごく頑張って日本に来ているわけです。治安が良くて、ご飯も安くて美味しくて、インフラも整っている。私たちは普通に住んでいるだけで、その権利を享受できています。

数百万、数千万の税金のためだけに、わざわざ物価の高い海外へ行って不便な思いをするのは、本当にメリットがあるのか冷静に考えるべきかなと。税金対策ではなく、純粋にその国が好きで住むなら別ですが」

生活基盤を無理に海外へ移すよりも、日本にいながら「アセットベース(資産配分)」で海外資産を組み込み、柔軟に対応していくほうがはるかに現実的で理にかなっているわけだ。

「現金を持つ人は損をする」は少し違う

では、大増税とインフレが並行して進むこれからの時代、私たちはどのように資産のポートフォリオを構築すべきなのか。巷の投資指南では「インフレで現金はゴミになる。株や投資信託にフルインベストメント(全額投資)しろ」という論調も多いが、鳥海氏はここでも異を唱える。

「やはりある程度の『現金』は常に持っておいたほうが強いです。株価が綺麗に右肩上がりを続ける前提なら現金は不要かもしれません。ただし、相場が下がる時は分散投資していても一気に下がります。超長期的に見れば現金はインフレに弱いですが、2〜3年のスパンで見ると、現金ほど強い防衛手段はありません」

投資に回す前に、まずは「生活防衛費」を絶対に確保すること。鳥海氏の目安は「月額の半年から2年分」だという。

「会社員で給料が安定しているなら半年分、収入にアップダウンがある自営業や歩合制の人なら少し長めに持っておく。ここでのポイントは、世間でよく言われる『資産の何%を現金で持つべきか』というパーセンテージの議論に乗らないことです」

金融機関や教科書的なマネー本では、「株式60%、債券20%、現金20%」といった割合でのポートフォリオが推奨されているのを見たことがある人もいるかもしれない。しかし、鳥海さんによれば、こうしたアプローチは実態にそぐわないとか。

「資産1億円の人の5%と、資産1000万円の人の50%は、同じ『500万円』です。500万円の絶対額があれば、大抵の人は半年から1年は普通に生きていけます。それなのに『現金は20%持て』というルールに縛られて、資産1億円の人が2000万円も現金で固定するのはナンセンスです。パーセンテージでの謎の分散は意味がありません。“今の自分の状況でいくらあれば安心かという絶対的な金額”で考えるほうが実用的ではないでしょうか」

高収入でも、あっけなく家計が崩れる時代へ

これまでのように、「株を中心に、とにかく成長を取りにいく」という投資だけでは、乗り切れない局面も出てきている。「これからは、まず必要な現金をきちんと確保したうえで、状況に応じて投資先を柔軟に分散していくことが大切です」と語る鳥海氏。

こうした“守り”を意識した資産設計こそ、歴史的な転換点を乗り切るうえで、現実的な戦略といえるだろう。

「高所得者の勝ちパターンが崩れ去る」--そんな見出しを見れば、メディアの煽りに感じる人もいるかもしれない。だが、少なくとも、これまでのように「高収入だから安心」とあぐらをかいていられる時代が終わりつつあるのは確かだ。

どれだけ稼ぐ力があっても、無自覚に生活水準を上げ続け、税負担や相場下落のリスクから目を背けていれば、いざというとき家計はあっけなく揺らいでしまう...。

【後編】『年収3000万円、資産5000万円の50代男性が「明日生きられない」と絶望...圧倒的に稼ぐエリートでも“家計の黒字倒産”に至る意外な理由』では、鳥海氏のもとに駆け込んできた生々しい事例をもとに、高収入世帯が陥る“黒字倒産”のリアルと、その泥沼から脱出するための戦略に迫る。

【つづきを読む】年収3000万円、資産5000万円の50代男性が「明日生きられない」と絶望...圧倒的に稼ぐエリートでも”家計の黒字倒産”に至る意外な理由