順風満帆ではなかった長谷部誠と重なる姿 名門トッテナムで不遇をかこって、ドイツで必死の毎日を過ごす21歳・高井幸大の「今」に迫る【現地発】

トッテナムから出場機会を求め、ボルシアGMに加わった高井(C)Getty Images
「出られる状況だったら、すぐ行きたい」と決意したドイツ移籍
高井幸大は川崎フロンターレから大きな期待を背負って、プレミアリーグの舞台へ飛び込んだ。
しかし、「世界最高峰」と評される過酷な舞台、それもトッテナムのような名門で出場機会を得るのは簡単ではない。移籍してほどなくして足底腱膜の負傷によって離脱を余儀なくされた高井は、プレーに恵まれない不遇をかこった。そして構想からも外れかけていた状況で舞い込んだのが、ドイツ・ブンデスリーガでの新たな挑戦だった。
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「試合に出られる状況だったら、すぐ行きたいと思っていました。チームの順位や力関係も含めて、ここがいいのかなと思いました」
今年1月にトッテナムからボルシアMGへのレンタル移籍について、高井はそう語っている。
ボルシアMG内においても、日本人選手に対する好感はあった。板倉滉(現アヤックス)が3シーズンに渡って守備の要として活躍。今夏には町野修斗がキールから完全移籍で加入し、昨季までは福田師王(現在は2部カールスルーエへレンタル移籍中)も所属していた。
チームへ合流して間もなく高井は試合のメンバーに加わり、少しずつ出場機会を増やしていった。本人もプレミアリーグでの経験を悲観的に捉えている様子はない。むしろ、自分が立っている現在地を冷静に理解している印象を受ける。
「プレミアではあまりプレーしていないので分からないところもありますけど、トップ・オブ・トップのリーグだと思うので、質やフィジカル能力はプレミアの方が上だなと思います。ただ、ブンデスリーガでもやってみて、ここにもいい選手がたくさんいますし、これから伸びてくるような選手もたくさんいます。だから、楽しみながらやっていきたいです」
もっとも、今季のボルシアMGは残留争いを強いられる厳しい状況にある。守備の安定感は徐々に備わってきているが、いかんせん攻撃力に乏しい。CFのハリス・タバコビッチが11ゴールを挙げているものの、逆に言えば、頼みの綱を封じ込められれば、チームの怖さは半減。実際、相手守備陣はボスニア・ヘルツェゴビナ代表ストライカーに厳しいマークを付け、仕事をさせていない。
去る2月22日(現地時間)のフライブルク戦後、高井はそんなチームの現状について率直な言葉を残している。
「ボールを持つ時間は長かったですが、持たされている感覚もありました。もっと自分たちで相手を動かす展開にしなければいけなかったと思います。自分たちからボールを運んでいく、前につけていくプレーはもっとあってよかったと思います」
3バックでビルドアップをするボルシアMGでは、高井やケビン・ディクスといったCBがドリブルで持ち運び、前線にいいパスをつける必要性がある。だが、現状として全体の連動性が見られない。GKへのバックパスや隣の仲間にボールを預けるだけで、攻撃がスピードアップもしなければ、相手守備に脅威を与える起点にもなっていないのだ。

チーム状況も決して楽ではないボルシアMG。そんな過酷な場所だからこそ、高井はチャンスを求めた(C)Getty Images
高井の姿勢に見える日本の先人たちとの“共通点”
高井には素養がある。守備者としてチームに安定感をもたらすだけでなく、ボールを前に運び、いい形でオフェンス陣にパスを提供できる能力も持っている。ただ、新加入選手としての遠慮もあるだろうし、欧州でのプレー経験をスタートさせたばかりという段階なのもわかる。その“課題”については、当人も反省材料として口にしていた。
「自分たちからボールを運んでいくプレーがもっとあってもよかった。自信を持ってプレーできている時間帯もありますが、ミスは多かった。改善しなければいけないところはたくさんあります」
試合を動かす存在になろうとしているという意識は伝わってくる。長年、ドイツで日本人選手を見てきた立場からすると、高井の姿勢には、過去の日本人選手たちとの“ある種の共通点”が見える。
遠藤航(現リバプール)、そして長谷部誠も、欧州でのキャリアの序盤は決して順風満帆だったわけではない。環境に適応しながら、自分のプレーを確立していく時間が必要だった。重要なのは、その過程で自分を見失わないこと。
今まさに、その立場にいる高井は、先人たちに想いを馳せる。
「日本人として、一人で海外生活をして、プレーすることの難しさは感じています。でも、それだけにそれをやってきた人、やっている人へのリスペクトがあります」
欧州でプレーする日本人選手を見ていると、ある段階で大きく伸びる瞬間がある。慣れない環境に適応し始め、自分の色をピッチ上で出せるようになった時だ。遠藤がシュツットガルトでキャプテンになり、長谷部がフランクフルトで長く信頼を得たのも、その段階を乗り越えたからだった。
高井はまだチームに加入して間もない。立たされている場所は、まだまだスタート付近なのかもしれない。だが、今やるべき自分の役割を理解し、前に進もうとしている。
「(ボルシアMGは)信頼して獲ってくれたと思うので、まずはスタメンで出られるように、自分のプレーを見せていきたいです。自分も中心的なプレーヤーになりたいと思っています」
苦しい時期をどう乗り越えるかが、その後のキャリアを大きく左右する。高井幸大にとって、今が、まさにその時間なのかもしれない。彼の言葉や姿勢を見ていると、この挑戦が単なる遠回りで終わるとは思えない。むしろ、ここでの経験が、日本代表の未来を支えるセンターバックを育てていく可能性もある。
大きく跳ね上がるきっかけをつかむために、欧州での挑戦を続ける若きDFは、毎日を必死に戦っている。
[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]
