「おはぎ」まで熾烈な戦い…値上げでも”好評” 埼玉主婦の味方「ヤオコー」vs.「ベルク」の現在
関東エリア1都6県で多いのは……
新内閣になって、はたして食料品の消費税0%は実現するのだろうか──。
度重なる値上げと消費税は台所を預かる主婦にとって頭痛の種である。そんなご家庭の頼みの綱が、安い商品を提供している大手の食品スーパーマーケットだ。
近年の特色として、勢力圏が限定的で重ならないことが多く、コンビニのように直接対決をする状況は生まれにくいとされている。ただ、ある地域では、長年、熾烈な勢力争いを続けている食品スーパーがある。『ヤオコー』と『ベルク』だ。この2つのスーパーはともに埼玉県が発祥地で、現在も本社は埼玉県にある。
『ヤオコー』の創業は1890年(明治23年)。埼玉県比企郡小川町で青果店『八百幸商店』として誕生した。創業135年に及ぶ老舗だ。
一方、『ベルク』は1959年(昭和34年)創業で、埼玉県秩父市で設立された。『株式会社主婦の店 秩父店』というローカルスーパーマーケットが前身で、その後、秩父エリア外への進出に伴い、商号を『株式会社主婦の店ベルク』に変更。さらに1992年に現在の『株式会社ベルク』に変更した。
公式ホームページによると、現在『ヤオコー』は、関東エリア1都6県で201店舗を展開。『ベルク』もまったく同じ1都6県で、店舗数は148店舗となっている。
かねて両スーパーの勢力圏”対決”は話題になっていたが、ここにきて”都内進出”をかけた戦いが目立ってきている。現時点ではベルクの9店舗に対し、ヤオコーが17店舗と大きくリードしている。
両スーパーは出店数を競い合っているだけではなく、取り扱う商品においても対決姿勢は崩れることがない。
「例えば、お弁当。両社とも他の食品スーパーに比べて、品ぞろえは豊富で価格は400円〜700円ほど。その中でも、ヤオコーは驚くほど種類が多く「デパ地下並みだ」という声も多く聞かれる。味もそれに劣らず、価格はデパ地下の半額というコスパの良さでファンは多い。生鮮食品の肉などは、品数は両社ともそれほど大きな違いはなく、価格面ではベルクのほうが比較的安価な印象です。魚に関しては、ヤオコーのほうが種類が多い。
『何かもう一皿欲しいけど作るのは面倒だ』という主婦や、『煮物を食べたいけど1人なのでちょっとあればいい』という人にとってスーパーの惣菜ほどありがたいものはない。煮物、和え物などの和惣菜のアイテムは、ベルクのほうが圧倒的に優勢で、単身世帯や高齢層に対応していると思われます」(経済誌ライター)
両スーパーは、上記のような強みを持っているが、地方都市の同じ勢力圏で限られたパイ(顧客数)を取り合っており、その中で安売り価格競争まで起こしている。かつてのデフレ時代であれば、それも可能だったかもしれないが、今は超インフレ時代。スーパーに限らず、飲食業界は、価格を上げざるを得ない状況に追い込まれている。その分、商品の質を上げるという理由づけもしている状況だ。
そんな両社の対決で、いま主婦の間で話題になっているのが『おはぎ』だ。
おはぎの軍配は?
両社ともに、オリジナルのおはぎを販売しており、大人気商品となっている。それぞれ特徴があり、ベルクのおはぎは、粒あんの舌触りが滑らかであまり甘くなく、餅米はしっかりとつぶつぶ感がある。それに対し、ヤオコーのおはぎはまったく逆で、粒あんに小豆のつぶつぶ感が残っており、中の餅米は逆にお餅に近い。こちらのほうが、若干塩味が強く甘みが少ない印象だ。
どちらも美味しいことに変わりはなく甲乙つけがたい。ただ、価格はこれまで両社とも1個99円だったが、昨年4月、ヤオコーのおはぎは130円に値上げされた。その分、ヤオコーのほうが若干大きく、あんこの量も多いのかもしれない。それでも他のスーパーや専門店で売られているおはぎに比べて、質もボリュームも勝っており、しかも安い。ヤオコーの店内で「おはぎ」に手を伸ばした買い物客に値上げについて聞くと、
「品質を下げるくらいなら値上げしたほうがいいと思います。それでも全然安いから!」
と好評のようだ。
そんな両スーパーの強さの秘密について中小企業診断士でもある流通アナリストの中井彰人氏に話を聞いた。
「両社の特徴を戦略的な面から捉えると、経営の仕方はアメリカから導入された『チェーンストア理論』がベースになっています。チェーンストアというのは本部があって、そこから車輪のスポークのように各店舗が広がっているわけですが、これは指揮命令系統を整えて、上官の命令で兵が全員同様の動きができるように訓練をしている軍隊と同じです。きちんとしたマニュアルを標準化し、誰もが本部の施策を実行できるように整備する。そのための後方陣地としてのインフラを整えて、命令通りに戦えば必ず勝てるようにロジスティクスを整える。
ベルクはそこが徹底している会社です。どの店舗も作りはほとんど同じで、どこにどんな商品が並べられているか、店によって大きな違いはありません。ですから、転勤で違う土地に行った場合でも迷わず買い物ができるという、客にとってはとても便利な仕組みです」
さらに、従業員にとっても、働きやすい仕組みが整えられているという。
チェーンストアの権化
「本部の指示がすぐに実行できるようにマニュアルが整えられています。こんなことはできて当たり前と思われがちですが、そう簡単ではありません。入れ替わりで仕事をしているパートさんが多いスーパーでこれを徹底するのは至難の業なのです。当然、日本のスーパーすべてが目指していることなのですが、徹底度が違います。ベルクといえば低価格という印象がありますが、最も効率よく運営されている組織で無駄がないため、それが実現できており、収益率も高いといった結果が伴っているのです。
分母が大きい分、一定量の配分をしても客に還元できる額を大きくできるわけです。収益率の高さでは大手企業も含めてかなり上位にあります。我々はベルクを『チェーンストアの権化』と呼んでいるほどです」
それに対し、ヤオコーの強みはなんなのだろう。
「基本的なところについては同じです。両社の大きな違いといえば、”味”か”価格”。どちらに重きを置いているかです。ベルクは”絶対、うちが安い!”ですが、ヤオコーは”ちょっとお高くなりますが、絶対うちのほうが美味しいですよ!”と主張するお店です。ターゲットとする客層にも違いがあり、ヤオコーは、子供も独立して夫婦2人だけの生活となり、”2人で食べるんだったらちょっといいものを食べようか”と考えるような、ちょっとだけ余裕のあるシニア層を対象にしていて、『おはぎ』の値上げもそういう戦略だと思います。それに対し、ベルクは若い人やファミリーを対象にしているといえるでしょう。都内に進出している店舗数がヤオコーのほうがリードしているのは、そういう事情もあると思います」
「勢力を広げながら都を目指す」ヤオコーとベルクはまるで戦国時代の武将のようだ。戦国時代、戦が起きれば一番の被害者は民だったが、ヤオコーvs.ベルクの構図は民の助けとなっている。大いに火花を散らしてもらいたい──。
取材・文・PHOTO:佐々木博之
