『不適切にもほどがある!』©TBS

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 おじさんだって、生まれ変わる。そんな、見る機会の少ない“おじさんの成長ストーリー”で視聴者を引き込んだのが、2024年に放送されたTBS系ドラマ『不適切にもほどがある!』(以下、『ふてほど』)だと思う。

参考:河合優実×阿部サダヲ×中島歩、『あんぱん』なのに“ふてほど”3ショット 「レアな3人」

 12月29日から一挙放送が始まり、2026年1月4日には新春スペシャルが放送される本作は一見、主人公である小川市郎(阿部サダヲ)の口から令和の私たちを不快にさせる言葉が止めどなく出てくる問題作だ。

 なのになぜ、本作はこんなにも面白く、温かいと感じるのだろうか(おじさんという言葉自体、差別用語……と言われるのかもしれないが、不適切な発言であふれる本作を語る際には、どうか許してほしい)?

 大きな理由として挙げられるのは、冒頭でも言及した「おじさんの生まれ変わり」現象だろう。阿部サダヲが演じる主人公・小川市郎は、“地獄のオガワ”と生徒から称される中学教師。不適切な言動は、顧問を務める野球部の生徒に体罰をふるうだけにとどまらない。

 自分の娘を案じつつ疑って「××(チョメチョメ)、××(チョメチョメ)……」と伏字を連発する姿は、筆者自身が彼の娘だったとしたら、到底見ていられず、2人では絶対に家にいたくないレベルだった。

 だが彼の性格は、「令和へのタイムスリップ」という衝撃的な事象によってがらりと変わる。口うるさすぎるおじさんが、コンプライアンスに関して理不尽な指摘をされた会社員や、悩めるシングルマザーの心に光を灯すのだ。

 初めは嫌われ役だったおじさんが、令和とのギャップに驚きながら、悩める人たちを救っていく。市郎自身に成長しようとする意志や自分を変えようとする仕草は見えず、それはもしかしたら、彼の発言に対する周りの捉え方が時代によって変わっただけなのかもしれない。あるいはもともと彼の中にあった優しさが、ようやく顔を出しただけなのかもしれない。

 しかしそれでも、自分が生きる昭和では想定できない問題に遭遇し、悩む令和の住人に言葉を届ける市郎には、ただの“昭和のおじさん”から大きく変化していく姿が見えるのだ。

 また、『ふてほど』に私たちが魅了される理由としては、登場人物たちが発する他者への愛も挙げられるだろう。ちょっと引くぐらいに娘の純子(河合優実)を愛する市郎だが、その愛情は純子に対してだけにとどまらない。

 出会った際は見知らぬ他人であった、犬島渚(仲里依紗)や秋津真彦(磯村勇斗)にも、おせっかいなまでに力強く声をかける。言葉を決して飾らない市郎だからこそ発言には説得力があり、愛がはっきりと浮き彫りになる。

 しかもその想いを持っているのは、彼だけでない。純子の憧れであり、彼女を励ますムッチ先輩(磯村勇斗)、父親がタイムスリップをして帰らない純子に昭和で傍にいる、令和から息子と訪れた向坂 サカエ(吉田羊)……。本作の登場人物たちにはみな、他人を思う“いい意味での図々しさ”があった。

 なお、10月期に絶大な人気を博したドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)にも、こうした光景は垣間見られる。頑固そうな人物の生まれ変わり、面倒見の良い登場人物。「どんな人でも生まれ変われる」「周りに手を差し伸べてくれる人がいる」といった暗がりに光が灯る描写は、令和を生きる私たちのエンタメに、欠かせないものになりつつあるのではないだろうか。

 多くの人が日頃の生活から一歩離れ、いつもの自分とは違う時間を過ごす年末年始。『ふてほど』は不適切で頑な市郎から始まる物語だからこそ、私たちに新たな道を示してくれるのかもしれない。(文=三山てらこ)