令和ロマン、M-1グランプリ連覇の理由 高く評価されていた「劇場」と「漫才」への真摯な姿勢を識者が分析
「今回の『M-1グランプリ2024』(以下、M-1)は令和ロマンの高比良くるまさんが作った空気で始まり、思い描いたとおりに終わった。まさにネタで『制圧した』という感じがしました」今年のM-1を振り返り、そう総括するのはこれまで多くのお笑い芸人にインタビューしてきたライターの鈴木旭氏だ。
2023年にM-1優勝に輝いた令和ロマン・髙比良くるまが、番組終了間際に「来年も出ます!」と宣言し、その宣言通り、2024年の大会にもエントリーし、見事決勝ラウンドに進出。昨年に続き、1stラウンドで不利と言われるトップバッターに選ばれながらも2位で決勝ラウンドに進出。決勝ラウンドではトップ通過のバッテリィズ、真空ジェシカと争い、審査員から9票中5票を獲得し、文句なしの優勝となった。
過去最多となる1万330組がエントリーし、近年最もハイレベルでありながら前代未聞の「M-1連覇」という結果となった令和ロマン。大会前には何が起きていたのか、その背景から紐解き、大会当日披露されたネタ2本を「分析」しながらともに振り返ろう。
▪️出場枠を奪うことになっても嫌われなかった理由は?
前代未聞の「M-1連覇」だが、まず大会そのものよりも前に「昨年優勝したコンビが2年連続出場」したことが注目ポイントだ。
本大会のオープニングで、大会創設者である島田紳助氏が「いつまでもM-1が夢の入り口でありますように」というメッセージを綴ったように、M-1グランプリはこれまで多くの無名芸人が一気にスターダムをのしあがるための場でもあり、まさに「夢の入り口」。今年初めて審査員を務めたオードリー・若林正恭も2008年大会で敗者復活から這い上がり結果として2位に輝き、2024年2月には東京ドームライブを超満員で成功させるほどのスターになった。番組中でも若林が「M-1に人生救ってもらったんで一生懸命審査します」と発言していたように、多くの芸人が世間に発見してもらう最高の舞台としても、その役割は重要だ。
そんな晴れ舞台に昨年チャンピオンになった令和ロマンが今年もエントリーし、結果として決勝に出場する枠を一つ奪うことになったわけだが、エントリーしたことに驚きはありつつも非難する声がほとんどなかったのも興味深いポイントだ。その理由には「令和ロマンは劇場に嫌われなかった」ことが大きかったという。
「くるまさんは昨年の優勝後に『自分が向いていないと思った番組には出ない』ということを公言していました。一年の中盤から後半にかけて結果的にはいろんなメディアに露出しましたが、それでも令和ロマンはM-1優勝イヤーとは思えないほど多くの劇場に出演しています。『2024年もM-1に出たい』という意向もあり、ネタをブラッシュアップする必要があったのでしょう。所属している吉本興業は劇場を中心とする事務所なので、双方にとってwin-winだったのだと思います。加えて、令和ロマンの選択は、劇場に足を運ぶような熱心なお笑いファンの心を掴んで離さなかった。なにより、『漫才』に真摯に向き合う姿勢がお客さんにも芸人側にも伝わっていたので、嫌われることはなかったんだと思います」(前出)
▪️優勝することよりも「大会を盛り上げたい」
さて、次に注目すべきは決勝1stラウンド。大会恒例の「笑神籤(読み:えみくじ)」でネタを披露する順番が決まるルールで、そのくじを引く役割を担うゲストの一人として最初に登場したのが東京・パリ五輪で金メダル連覇を達成した柔道日本代表・阿部一二三。自分自身がオリンピック連覇を達成していることから、注目しているコンビの名前として「令和ロマン」をあげたが、その直後に引いたくじに書かれた名前は奇しくも令和ロマン。2年連続のトップバッターとなった。
M-1のトップバッターは点が伸び悩む、ということは定説であり、審査員のかまいたち・山内も「(裏では)トップバター、マジで引いてくれるなと思っていると思います」と芸人側の心境を代弁していた。
実際、過去の大会でもトップバッターで優勝したのは第一回大会のグランプリの中川家と昨年2023年グランプリの令和ロマンの二組のみ。どんなに良いパフォーマンスをしても後から出てくるコンビがそれ以上の笑いを生むことを想定して、点数は意識的に抑えられるというのは広く知られているところだ。そんな不利な状況でありながらも令和ロマンは圧倒的なパフォーマンスを披露。96点をつけた審査員のNONSTYLE・石田明は「この後まだまだ出てくるんで高得点は本来つけづらいんですけど(中略)これは点数入れざるを得なかったですね」と絶賛。終わってみれば、1stラウンドを2位通過となる高得点だった。
「本来なら、『トップバッターは優勝できない』という固定観念があるので、選ばれた後は少なからず気持ちに揺らぎが出ると思います。ただ、そもそも令和ロマンは自分たちが優勝する、ということは二の次で、何よりも『大会を盛り上げたい』という気持ちが強い。だから、順番はあまり関係なかったんだと思います」(前出)
どういうことだろうか。
「くるまさんは、11月に発売された著書『漫才過剰考察』(辰巳出版)の中で、初めての決勝進出で『優勝してしまった』『まだ何も完成していないのに』と書いています。もっと芸歴を重ねて色々試したかったでしょうし、何より令和ロマンが優勝した2023年大会は決勝進出者の多くのコンビが言うように『大会があまり盛り上がらなかった』という認識があるようで、今年は自分たちがどうあれ大会をまず盛り上げたいという想いがあったと思います」(前出)
そのスタンスは、7月に開催された漫才、コント、ピン芸などジャンルに制限のない、若手お笑い芸人の登竜門といわれる『第45回ABCお笑いグランプリ2024』でも垣間見えたという。
「令和ロマンは昨年のM-1優勝後に『ABCお笑いグランプリ』(以下、ABC)にも挑戦し、優勝しています。これまではABCで優勝してからM-1に挑むのが通例でしたが、彼らはあくまでもABCをとりにいった。すでにM-1チャンピオンの自分たちが大会に出れば周囲から煙たがられることをわかったうえで、ヒール役に徹して番組を盛り上げたんです」(前出)
もちろんそれだけが1stラウンドの高得点となった高いパフォーマンスの理由ではない。不利な状況を圧倒的手腕で自分たちの空気にするのは、令和ロマンにとってむしろ得意とする状況だという。
「歴代大会を見てもトップバッターは緊張しているし、ネタを披露するモチベーションにも影響していたはず。一方で、くるまさんは1stラウンドの登場シーンで『終わらせよう』と発言してから、一気に自分たちの空気にしてしまった。小さな頃、明石家さんまさんや島田紳助さんの圧倒的な司会ぶりにあこがれていたそうで、たびたびくるまさんは『制圧してる人が好き』と口にしていますが、まさに今回のM-1を『制圧』したという印象です。また、トップで貫禄のあるパフォーマンスを発揮できたのは、『テレビに出ない』といった物議を醸す発言やABCでの優勝など、一年かけてヒールっぽいキャラクターを作り上げていったことも大きいと思います」(前出)
▪️「演じ分け」× 「設定」の巧みさ
最後に、令和ロマンのネタの内容に注目してみよう。トップバッターとして披露したのは、年齢を問わず誰しもが理解できる王道のしゃべくり漫才だった。
「どんな人にも伝わりやすいネタを披露したのも高得点につながったポイントだと思います。一本目は『クラスの座席で渡辺のように出席番号が後ろの人は余裕がありそう』というテーマのしゃべくり漫才を披露。配られたプリントが余ったら後ろの席の人が先生に届ける…など誰しもが体験したことがあるエピソードは想像しやすい。もともとはラジオ『令和ロマンのご様子』内のコーナー『松井さん、これって思うの私だけ?』でリスナーから送られてきたメールから着想したネタです。その回の配信日が10月28日。フレッシュなネタだったため、既視感もなかった。コアなファンにも新鮮に受け取られたと思います」(前出)
歴代の優勝コンビの例を見ると、これまで知られていないコンビが新鮮なネタで1stラウンドを爆発させ、2本目も同じスタイルの漫才を披露して王者となるケースがほとんどだった。2022年までの大会なら、1stラウンドで1位になったバッテリィズがその勢いのまま優勝していただろう。しかし、令和ロマンはそれを覆した。昨年、今年、ともに2本目に披露したのは、スタイルの異なる漫才コントだったのだ。
「2本目は『戦国時代にタイムスリップした現代人』という漫才コント。2023年大会で披露したクッキー工場に職人やトヨタ社員、吉本興業社員が出てきた2本目と同様に、殿や敵軍など何人ものキャラクターが出てくるネタでした。コントは登場人物が増えていくほどにお客さんに伝わらないリスクがあるので、多くの芸人は避けがちですが、くるまさんはキャラクターを演じ分けるのが本当に上手く、客にも伝わりやすい。また、今年話題になったドラマ『SHOGUN 将軍』を彷彿とさせる設定で、そもそもネタを見る人がイメージしやすいように作られている。自分たちの得意分野を見極めながら、設定などの準備を万全に整えていることも彼らが堂々として見える大きな理由の一つではないでしょうか」(前出)
このように大会全体を振り返ってみると、令和ロマンの連覇は必然だったようにも思える。流れを掴む度胸や精神力、どんな観客にも笑いを伝える実力と分析力。ハイレベルな今大会を圧倒的な結果で制圧したことで、令和ロマンの「新時代の王者感」をさらに知らしめた大会になったのではないだろうか。
(文=リアルサウンドブック編集部)

