親が「おはよう」と言っても無視する、「お前」「ババァ」「うざい」などと汚い言葉を吐く……。反抗期のわが子に苦慮する親は少なくない。育児本も手がける東京学芸大学附属世田谷小学校教諭のぬまっち先生こと、沼田晶弘さんは「親がマインドセットを変え、子供に向けた話し方・言葉掛けを変更するだけで、子供の言動は変わる」という――。

※本稿は、『プレジデントFamily2022年夏号』の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

■「うるせぇ、クソババァ!」にどう切り返せばいいか

可愛らしかったわが子が、親を避けるようになったり、汚い言葉を使い始めたり……。「先生、うちの子、反抗期になりました」と相談に来られる保護者が、これまで小学校高学年を担当したときにもいらっしゃいました。

でも、専門書には反抗期という言葉はありません。「反抗的」というのは、あくまでも親目線の見方です。世の中で「反抗期」といわれている時期は、子の「自己主張期」なのです。

せっかく子供が自己主張を始めたのに、親はそれを反抗だと誤解して悲しみ、完封しようとする。完封されまいと必死で自己主張を続ける子は「反抗的なヤツだ」と叱られる。

ところが社会人になると、今度は「日本人は自己主張ができないから世界に通用しない」なんてダメ出しをされる。子供も大変ですよね。

親が「反抗期」だと思う時期について、わかりやすく説明すると図表1のようになります。

■一緒に暮らしている“別の人”と思ったほうがいい

出所=『プレジデントFamily2022年夏号』

図にある大きな円は「親の常識」だと考えてください。親の常識は中心点から少しずつ広がっていって、このような円になっています。

『プレジデントFamily2022年夏号』

この親に子供が生まれました。偶然にもタイプのよく似た親子だった場合、子供の常識は親の常識と同心円で大きくなるので、ハミ出すことはありません。このケース、世間的には「ウチの子には反抗期がなかった」ということになります。それを心配する保護者の方もいるけれど、心配は無用。たまたま、親と子のタイプがよく似ていたというだけのことなんです。

ところが、図のように、子供が成長するにつれ、親の円からハミ出した場合、世間では「反抗期が始まった」と言うのです。

でも、子供にしてみれば自然に成長してきただけのことであって、文句を言われる筋合いはない。親の常識にとらわれず、自分の価値観をもって歩み出しているので、親としては喜ぶべき姿です。

とはいえ、突然、返事をしなくなったり、汚い言葉を使うようになったりした子供を目の前にすると、親としてはショックを受けますよね。売り言葉に買い言葉で、親子ゲンカに発展するケースも多いはず。

「うるせぇ、クソババァ!」
「親に向かって、クソババァとは何よ!」

言い合いをしてスッキリするならいいですが、場合によってはお互いの心に深い傷やしこりが残ってしまいます。また、毎日毎日同じバトルの繰り返しは、時間の無駄でもありますし、不毛です。

特におなかを痛めて産んだお母さんは、子供を「自分の分身」だと思いがち。だけど、子供は決して親の分身ではありません。遺伝子が1個違っただけで別の生き物になってしまうんです。そう、子供は成人するまで一緒に暮らしている“別の人”と思ったほうがいいですよ。

そんな冷たい親子関係は嫌だ、という保護者の方は、ちょっと思い出してみてください。

「親ってうざいよね」なんて言っていた、思春期の自分の姿を……。

さて、ここでは自己主張期に入った子供との不毛な言い合いを避ける言葉掛けの秘訣を紹介します。参考にしてみてください。

■場面1:「おはよう」「いってらっしゃい」の挨拶をしても無視される

言いがちな言葉「挨拶ぐらいしなさい」

言い換えの言葉「おはよう」「いってらっしゃい」を元気に明るく言い続ける

挨拶を無視される理由は単純で、「挨拶をしてもいいことがなかったから」です。せっかく挨拶をしたのに「声が小さい」「もっと元気に」なんて文句を言われ続けてきたら、誰だって挨拶したくなくなるでしょう? そんなことなら黙っていたほうがトク。だから、黙るんです。

無視されたくなかったら「挨拶するとトクをする」経験を積ませてやればいい。近所のおじさんやママ友に、子供が挨拶してきたら褒めてやってくださいと頼んでおくのも手ですよ。

親自身が元気に明るく挨拶し続けて、小さな声でも返事が返ってきたら、「嬉しいなあ」なんて、挨拶されると気持ちいいということを伝えてみてください。

■場面2:「お前」「クソババァ」「うざい」など汚い言葉を発する

言いがちな言葉「そんな言葉遣い、やめなさい」

言い換えの言葉「それは傷つくな〜」

親って指図が多いでしょ。早くお風呂に入りなさい。宿題したの? 早く寝なさいって。子供はそれ、全部やらなきゃいけないことだとわかっているんです。でも、目の前にゲームだの漫画だの誘惑が多くて、やらなきゃいけないことができない。そんな自分にうんざりしているところに親が先走って言ってくるから、ついつい「クソババァ」とか「うざい」という表現になる。

写真=iStock.com/stineschmidt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stineschmidt

まあ、子供がやるまで待てない親の気持ちもわかるので、「指図するのも親の役目なの」と言っておくのもいい。そして、別個の人間としては、親だって子供の言葉に傷つくことがあることはしっかり伝えましょう。

■場面3●家族と一緒に出掛けなくなった

言いがちな言葉「勝手にしなさい」

言い換えの言葉 デートに誘うように「今度の休みはどこに行こうか」

親と一緒に行動しなくなるのは、親子の蜜月からハミ出してきた証拠。成長の証しです。友達にも「お前、親と遊んでんの? ダサッ」なんて言われているんでしょうね。

それでも一緒に出掛けたかったら、恋人を誘っていると思えばいいんです。デートに誘うなら、恋人にどこに行って何をしたいか聞くでしょう? 子供に対しても同じです。「出掛けたくない」と言うなら仕方のないことなので引き下がりましょう。

「出掛けるから早くしろ!」「なんで親の言うことが聞けないんだ」なんて圧力をかけて詰問するのは、パワハラになってしまいますよ。

写真=iStock.com/Albina Gavrilovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Albina Gavrilovic

■場面4:洋服や文房具など親が選んだものを嫌がる

言いがちな言葉「何が気に入らないの?」

言い換えの言葉「どんなのが好きなの?」

これも親とは価値観や美意識が違ってきているから起こる当然の現象です。いつまでも自分の好みがないなんて、逆に心配です。「本物を与えたい」「親の趣味で買った洋服を着せたい」というのは、親の身勝手でしかありません。

でも年に1度だけ、身勝手じゃなくなる日がある。そう、クリスマスです。なぜならサンタは、親の満足じゃなくて「子供の夢をかなえる」存在だから。手紙まで書かせてほしい物をリサーチするのは、そのためです。

まずは、子供に好きなものを聞いてやってください。サプライズがしたいなら、徹底的に子供の好きなものをリサーチすることです。要するに、一年中サンタになればいいってことですよ。

■場面5●学校の話をしなくなる

言いがちな言葉「今日どうだった?」

言い換えの言葉「給食の○○ってメニュー、どんな料理だった?」

会社勤めの配偶者に「会社どうだった?」って聞くと、たいてい「いつも通り」って答えますよね。

学校だって職場と同じで、毎日、そんなに特別なことなんてない。だから会話を膨らませたいと思ったら、おおざっぱな聞き方をせずになるべく具体的な質問をするといいですよ。

【親】「給食のABCスープって何?」

【子】「アルファベット形のマカロニ」

【親】「Aから食べるの?」

【子】「なわけないじゃん(笑)。でも、ベーコンが入っていて美味しかった」

雑な質問は答えにくいので、応じるのが面倒なだけです。具体的な質問なら、会話も膨らみますよ。

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沼田 晶弘(ぬまた・あきひろ)
東京学芸大学附属世田谷小学校教諭
東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士課程を修了後、同大学職員などを経て2006 年から現職。児童の自主性、自立性を引き出す斬新でユニークな授業をする「ぬまっち先生」として数多くのメディアで取り上げられている。学校図書「生活科」教科書著者。『もう「反抗期」で悩まない! 親も子どももラクになる“ぬまっち流”思考法』など著書多数。
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(東京学芸大学附属世田谷小学校教諭 沼田 晶弘 構成=山田清機)