Jリーグでも導入チームが増加 押し寄せる“ポジショナルプレー”は一種の「カーナビ」
【識者コラム】ポジショナルプレーが注目されてから約10年、近いうちに普通の戦術に
Jリーグにもポジショナルプレーの波が来ている。
ちょっと前までは「ポジショナルプレー」とカギ括弧つきで書いたほうがいいかなと思っていた専門用語だが、もう今では説明の必要がないくらいに浸透してきた気がする。
しかし一方で、「ポジショナルプレーって、何ですか?」という質問やそういう原稿依頼が結構あったりもする。ファンの間でポジショナルプレーという言葉は普通に聞くようになったけれども、実体はよく分からないという状況なのかもしれない。
ポジショナルプレーを一言で説明するのは難しいのだが、「カーナビみたいなもの」と答えることにしている。または頭の中に「地図」を入れること。
ポジショナルだからポジショニングの話である。今、この選手はここにいるべきだという類のポジショニングは昔からあったわけだが、それがフィールド全域に広がったものと考えればいいと思う。ポジショナルプレーが板に付いてくると、だいたい味方のいる場所や動き方が分かるので判断の助けになる。それがあるから試合に勝てるわけではないけれども、あったほうが便利だ。というわけで、今季のJリーグはまたポジショナルプレーを導入するチームが増えている。
かつてはプレッシングが似たような感じだった。1980年代の終わり頃にACミランがゾーナル・プレッシングというのをやり始め、それこそ世界中のコーチが練習場のミラネッロに見学に行ったものだった。それも10年ほど経過すると、すっかり普通の守備戦術になっていた。ポジショナルプレーも注目されてから10年ぐらいなので、近いうちに普通の戦術になっていくだろうし、すでにそうなりかけている。
ところで、確かチェコだったと思うが、子供の才能を見る時に「群れ」から離れている子に注目するという話を聞いたことがあった。はじめてボールに触れるような子供たちのサッカーはボールに群がるのが普通だ。ボールの動きに合わせて子供たちの群れが移動していくので、「ニワトリのサッカー」などと呼ばれたりもする。しかし、皆がボールに群がっている時に、そこから離れた場所にいる子もいる。たんにゴチャゴチャしたところに行きたくないだけかもしれないが、その子なりに群れから外れた場所にいたほうが有利だと考えている可能性もある。そういうセンスを見逃さないようにしたい――確か、そんな話だった。ずいぶん前の話だが、そういう見方もあるのかと感心した覚えがある。
群れから離れていると、たぶんほとんどボールには触れない。あまり楽しくはないだろうし、ボールに触りたい欲求が薄いのもサッカー選手としてはどうなんだろうとは思う。ただ、これはポジショナルプレーのスタートラインと言えなくもない。
冷静に、理詰めのポジショナルプレー 現在最も浸透しているのは…
おそらく現在ポジショナルプレーが最も浸透しているのはスペインだろう。東京五輪でU-23日本代表と対戦した時のスペインも、じっくりじわじわと攻めていた。ポジショナルプレーの上手いチームのプレーぶりは静的だ。冷静に、理詰めに押してくる。日本も健闘したがマルコ・アセンシオの一発に沈められた。田中碧の「僕たちは1対1をしているけれども彼らはサッカーをしていた」というコメントが印象的な試合だった。
ただ、そういうのが好きでない人もいる。全盛期のバルセロナを「好きではない」と言ったユルゲン・クロップ監督もその1人だ。群れがあるならむしろに突っ込みたいタイプ。
サッカーがイングランドで始まった時、すぐにスコットランドが対抗勢力となった。猪突猛進のイングランドに対して、スコティッシュ・パスゲームと呼ばれた冷静なスタイル。サッカーはずっと冷静と情熱のせめぎ合いの中にあるのかもしれない。(西部謙司 / Kenji Nishibe)
