Q. モーツァルトより眠れるクラシックはある?

■ポップスでも、ボサノバでもOK

睡眠で一番多い悩みは、「眠りたいのに眠れない」というものではないでしょうか。ベッドに横たわり目を閉じているのに、思考が邪魔して眠れない。そんな場合は「音」が助けになってくれます。

写真=iStock.com/artekSzewczyk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/artekSzewczyk

人間が外界から受け取る情報のうち8割は視覚情報といわれています。ところが眠るために目を閉じると「感覚遮断」が起き、それまで視覚情報処理に費やされていた分が思考に集中して、「明日のプレゼンはどう進めよう」「あのとき、あんなことをいわれて嫌だったな」と頭が冴えわたってしまうのです。

それを防ぐには、「音」による新たな刺激を与えるのが一番です。特にモーツァルトのような美しく穏やかな音楽を聴けば、心身共にリラックスして穏やかな眠りにつくことができます。

巷でよく聞く「モーツァルト効果」とは、1990年代に学術雑誌「ネイチャー」で発表された「モーツァルトの音楽を聴かせると、知能検査で高い成績を示す」とするカリフォルニア大学の研究結果です。以来、子どもの情操教育や勉強、睡眠などに効果的と大流行しました。

しかし、その後の研究により、モーツァルトに限らず自分の好きな音楽を聴けば同様の効果が得られることもわかってきました。好きな音楽により脳内の神経伝達物質のドーパミンなどが分泌され、その働きで幸福感が増すからです。

■高揚感溢れる音楽はだめ

睡眠にとって何よりの敵はストレスです。好みのクラシック曲やポップス、ボサノバなどを小音量でかけることで、人為的に幸福感を生み出し、心地よい睡眠導入に役立てることは理にかなっているのです。もっとも、ハードロックやベートーベンのような高揚感溢れる音楽はだめですよ。意識が薄れるどころか覚醒しますから(笑)。

ヒーリング音楽なども効果的です。波の音や小川のせせらぎ音などは、いわゆる「1/fゆらぎ」と呼ばれるもの。規則正しい中にも不規則な音が混じる音のことで、人間の心拍や呼吸、ノンレム睡眠時の脳波にも共通しているため、リラックス効果が高いのです。

個人的には深夜ラジオがお勧めです。なかでも一押しは、イギリスBBCによる「Radio4」。ニュースやドキュメンタリーを24時間放送しており、イギリス英語の淡々としたアナウンサーの声が絶妙に眠りに誘ってくれるのです(笑)。落語や朗読もいい。コツは知っている噺を聴くこと。オチが気になり眠れなくなったら本末転倒ですから。

最後に覚えておいていただきたいのは、すぐに眠れなくても焦らないこと。眠れなくても、体を横たえてリラックスしているだけで体や脳の疲労は回復するのですから。

幸福感に包まれる「音」を聴く習慣を取り入れて以来、僕は不眠知らずです。ウソだと思う方は、ぜひお試しあれ。

▼個人的には、深夜ラジオや落語、朗読がお勧め

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4 回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。
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(脳科学者 茂木 健一郎 構成=三浦愛美 撮影=原 貴彦)