「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今日の漢字は「視る」。

「視力」「視野」「視線」の「視(シ)」とも読む漢字です。

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2019年4月6日(土)放送より)



「視る」「視力」の「視(シ)」という字は、

「しめすへん」に「見る」、「見学」「見当」の「見(ケン)」と書きます。

「しめすへん」は祭祀のときに神への供え物を乗せる机の形を表す部首。

「見る」という字は、「目」が大きく強調された人がひざまずく姿を描いたものです。

そのふたつを並べた「視る」という字が表しているのは、

神意、神の意志を懸命に「みようとする」人の様子。

古代の中国で「見る」という行為には、

その対象と内面的な交渉をもつことでもありました。

そこから、しめすへんに「見る」と書く「視る」は、

「ものの存在や様子をしっかりと目にとめる」意味の漢字になったのです。

「春の闇」という季語があります。

夜はどの季節にも同じように訪れるものですが

人々は春の闇が広がるその向こうに、特別な魅力を感じたのでしょう。

開こうとする花の香りや、目覚めを迎えた動物や虫たちのうごめく音。

万物の息吹が五感を刺激し、神秘的な現象や妖しい物語を生みだします。

たとえば、「人間探求派」を代表する俳人、中村草田男はこんな一句を詠みました。

―春の闇 幼きおそれ ふと復(かへ)る

幼児(おさなご)がそのくもりなき目を凝らして見ていたのは、

人知を超えたものたちや、神さまや精霊の姿。

あの頃抱いた畏れの記憶がよみがえってくるのは、決まって春の夜です。

「視る」、「視覚」「視野」の「視(シ)」。

神への供え物を乗せる祭壇を描いた「しめすへん」と、

ひざまずく人の「目」を強調した形を描く「見る」という字をあわせて、

神のお示しを凝視し、神の意志をくみとろうとする様子を表しています。

ではここで、もう一度「視る」という字を感じてみてください。

現代社会において、人は外の世界からの情報のうち、

およそ8割を「視覚」から得ていると言われています。

でも、それは実のところとても危ういこと。

「五感生活研究所」代表の山下柚実(やました・ゆみ)氏は、

私たちの視覚が「ありのまま」を見ているのではなく、

目で見たものを、学習して得た情報と脳で合成し、

「頭で見ている」と指摘しています。

それが先入観となって「かく見るべし」という脳の命令に従うのです。

さあ、新年度の始まりです。

新入生や新入社員、新しい環境に置かれた人たちは、今がチャンス。

その場の知識や経験がない分、解放された自由な視覚が使えます。

「あるがままに見る」眼で視野を広げ、世界をとくと、ご覧あれ。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら…

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解(第二版)』(白川静/平凡社) 

『五感生活術 眠った「私」を呼び覚ます』(山下柚実/文藝春秋)

4月13日(土)の放送では「鳥」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。



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聴取期限 2019年4月14日(日) AM 4:59 まで

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<番組概要>

番組名:感じて、漢字の世界

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜8:20〜8:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/