AI分野の人材不足は深刻だ。経産省は2020年で36万9000人、30年で78万9000人が不足すると予測する。大学教育の強化だけでは足りず、社会人の学び直しや外国からの人材の獲得施策が検討されている。

 ではどんなAI人材が足りないのか。現在のAIは数理がわからなければ本質をつかめない。高度な情報・数理人材が足りないとされ、大学は教育強化に動いている。ただNECの藤巻遼平主席研究員・米ドットデータ代表は「AIの設計が自動化され、数理を駆使するAI人材の需要は減り、AIを運用に乗せるアーキテクトやコンサルタントの需要が増える」と予想する。

 これまではデータサイエンティストがデータをAIが学習できる形に整え、学習に重要な因子を探してきた。この職人技ともいえる仕事を藤巻研究員は自動化した。「数カ月かかっていた解析が自動化で1日に短縮した。まず試し、その後でどんなデータを集めるか試しながら考えればいい」という。長期的にはAIやデータ解析の原理に精通した人材から、実際のビジネスに落とし込む人材に需要が移るとされる。

 AIの人材競争が数理から現場に移るなら、日本にとっては朗報だ。この流れを加速するにはAIを現場で簡単に構築するための技術が必要だ。AIの自動設計に加え、学習済みAIの再利用や要素機能のモジュール化、相互接続性など、AIを分業して開発、統合するための工学体系が必要になる。そこで産総研は三本柱戦略にAI工学を取り上げた。

 一方でAI工学が進むと日本の現場力やデータの価値が相対的に下がるリスクもある。現場から良質なデータを集めてAIに学習させても、その学習済みモデルを流通させるプラットフォーマーに牛耳られる可能性があるためだ。米グーグルはデータを直接サーバーに集めずに、各ユーザーが一度学習モデルを作り、それを統合して、より精度の高いAIを再配布するモデルを提唱する。通信負荷を抑え、プライバシーも守りやすい。

 ただ産総研の麻生英樹副研究センター長は「決定打となる技術はまだ出てきていない」と評価する。競争がデータから学習済みモデルに移るかどうか、いまは不透明だが、いつ競争原理が変わってもおかしくない。AIを現場に浸透させるため、そしてその先の競争原理の変化を捉えるためにもAI工学の先頭を走る必要がある。

人間との協調
 人工知能(AI)の開発競争にロボットが不可欠になりつつある。政府の総合科学技術・イノベーション会議(議長=安倍晋三首相)が6月にまとめる「統合イノベーション戦略」に、日本がAIで勝つための戦略が盛り込まれる。産業技術総合研究所はこの下地とするために三本柱戦略をまとめた。カギとなるのは現場力とロボットだ。日本のロボット産業は協働ロボットの実用化で先頭を走ってきた。AIでより高度な協調を実現する。

 ディープラーニング(深層学習)はAIだけでなくロボットにとってもブレークスルーだった。東京大学の松尾豊特任准教授は「ロボットが目を獲得した」と例える。深層学習は画像認識の精度を飛躍させた。米アマゾン・ドット・コムグループが開催したロボットによるピッキング作業のコンテスト「アマゾンロボティクスチャレンジ」の2017年大会はロボットよりも深層学習の優劣が勝敗を分けた。

 認識に加え、ロボットの運動制御や異常検知、動きを教えるティーチングなどにAIの応用が広がる。早稲田大学の尾形哲也教授は「工場やロボット用のグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)が登場するなど、AIの普及は間違いない。研究者は画像認識の次を示す必要がある」という。