原爆投下後の広島を擬似体験する最新VRドキュメンタリー「The Day the World Changed」
[EngagetUS版より(原文へ)]
目と鼻の先でサメと遭遇したり、空爆に晒されるシリアの街に立ってみたり、VRは私たちに、普通では体験できないいろいろなことを体験をさせてくれます。そのなかに、1945年8月6日にアメリカが広島に投下した原子爆弾の爆心地にあったドームの焼け跡があります。
「The Day the World Changed」(世界が変わった日)は、原爆で破壊された建物の中に立つだけでなく、現地で発見された幽霊のように宙を舞う物に触れることもできます。こうした惨状の効果を目撃することで、核兵器廃絶運動に参加するほどの感銘を受けないまでも、何かを感じて欲しいというのが、この作品の狙いです。
トライベッカ映画祭2018でプレミア公開された「The Day the World Changed」は、スタートアップの技術系コンテンツ制作会社Tomorrow Never Knows、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)、Nobel Media(ノーベル財団傘下の広報部門)グループによって共同制作されました。世界の軍事力や、核兵器に誘惑される軍事関係者に疑問を投げかける、陰鬱で重苦しい体験です。「私たちは、これが人々にとって断固とした不快な体験になることを望んでいます」と語るのは、このプロジェクトの共同制作者Saschka Unseldです。
もう一人のクリエイターGabo Aroraは、「私たちは、この国の最高司令官や、他の国のリーダーたちが、もっと多くの核兵器を持ちたいと公言し、その力を笠に着て互いをなじり合う世界に暮らしている」と話しています。
しかしこれは、核兵器の軍拡競争を止めさせるための呼びかけというだけに留まりません。1945年に原爆の被害を受けた人たちの物語でもあります。「この作品の目的は、世界の人々にこの共通の歴史に向き合い、核兵器の本当の恐ろしさを知ってもらいたいという、核戦争の被害者たちの声となることです」とAroraは言っています。
骨組みだけになった建物の中を見回すと、灰がはらはらと落ちてきて、瓦礫に覆われた地上に降り注ぎます。私の他に、フェスティバルに来ていた2人の参加者も一緒にこのシミュレーションを体験しましたが、バーチャルなドームの中で見た彼らの姿は、原爆で焼き付いた人の影を思わせる、気味の悪いシルエットとなっていました。不吉な雰囲気のBGMの中で、右側から幽霊のような声が聞こえたのでそちらを振り向いたのですが、その声は浮かぶ学生鞄から発せられていました。もう一人の参加者と私はそこへ近づき、手に持っていた一組のコントローラーを使って鞄を払いのけようとしました。しかし、鞄は宙で回転するだけでした。さらに近づくと、声は次第に大きくなり、その鞄の由来を話していることがわかりました。ここでネタばらしはしないでおきましょう。ただ、それは原爆投下によって死んだ人のものでした。
しばらくすると鞄は消え、部屋の中央に球体が現れました。そこに男性の顔が映し出され、彼は悲惨な体験を話し始めました。ここが、もっとも強く印象に残った部分です。彼は、学校の友人たちと一緒に建物に閉じ込められ、助けを待っていたときのことを詳しく説明します。それは、恐ろしく胸が痛む話で、見る者は、原爆による被害がいかに甚大であったかを思い知らされます。
このバージョンの「The Day the World Changed」では、登場するアイテムは3つだけですが、もっと多くのアイテムや物語を追加したいと彼らは考えています。
UnseldはEngadgetに、フェスティバルという場だけでなく、恒久的に体験できるようにするのが目標だと話しています。そうすれば、より多くのオブジェクトや参加者を統合するることができます。Tomorrow Never Knowsは、日本の広島平和記念資料館と協力して、遺品やその由来となる話を集めており、数十種類のアイテムが追加される予定です。「正しい物語を探す活動です」とUnseldは話しています。将来、もっと大きな規模の恒久的な展示施設ができて、現代のより多くの人たちに体験してもらえたら、共有学習体験のようなものが実現するとUnseldは期待しています。
最後に、「The Day the World Changed」は、悲惨な結末にならないための抑止力が自分たちにはあるのだと参加者に印象づけることを期待しつつ、今の軍拡競争が続けばどうなるかを予測しています。Unseldは人々が、ICANのウェブサイトで地方支部を支援する方法を調べたり、新しい情報やプロジェクトに関するニュースを頻繁に見に来てくれることを願っている。
「世界が保有している核兵器の数は、あの最初の恐怖の瞬間が根拠になっていることを忘れないでほしい」とUnseldは話しています。「そうして私たちは、いまだに恐怖の影の中で暮らしているのです」
このキャンペーンに核戦争を止める力はないとしても、「The Day the World Changed」は、過去に何が起きたのかを伝える没入型の記録として、財産を残すことになるでしょう。「とくに、広島の最後の生存者が亡くなりつつある今だからこそ、みんなが学べるように、この話を生きた形で保存することが重要なのだと思っています」とUnseldは話していました。
トライベッカ映画祭2018の詳しい情報はこちらをどうぞ。
編集部が日本向けに翻訳・編集したものです。
原文著者:Cherlynn Low
目と鼻の先でサメと遭遇したり、空爆に晒されるシリアの街に立ってみたり、VRは私たちに、普通では体験できないいろいろなことを体験をさせてくれます。そのなかに、1945年8月6日にアメリカが広島に投下した原子爆弾の爆心地にあったドームの焼け跡があります。
「The Day the World Changed」(世界が変わった日)は、原爆で破壊された建物の中に立つだけでなく、現地で発見された幽霊のように宙を舞う物に触れることもできます。こうした惨状の効果を目撃することで、核兵器廃絶運動に参加するほどの感銘を受けないまでも、何かを感じて欲しいというのが、この作品の狙いです。
もう一人のクリエイターGabo Aroraは、「私たちは、この国の最高司令官や、他の国のリーダーたちが、もっと多くの核兵器を持ちたいと公言し、その力を笠に着て互いをなじり合う世界に暮らしている」と話しています。
しかしこれは、核兵器の軍拡競争を止めさせるための呼びかけというだけに留まりません。1945年に原爆の被害を受けた人たちの物語でもあります。「この作品の目的は、世界の人々にこの共通の歴史に向き合い、核兵器の本当の恐ろしさを知ってもらいたいという、核戦争の被害者たちの声となることです」とAroraは言っています。
骨組みだけになった建物の中を見回すと、灰がはらはらと落ちてきて、瓦礫に覆われた地上に降り注ぎます。私の他に、フェスティバルに来ていた2人の参加者も一緒にこのシミュレーションを体験しましたが、バーチャルなドームの中で見た彼らの姿は、原爆で焼き付いた人の影を思わせる、気味の悪いシルエットとなっていました。不吉な雰囲気のBGMの中で、右側から幽霊のような声が聞こえたのでそちらを振り向いたのですが、その声は浮かぶ学生鞄から発せられていました。もう一人の参加者と私はそこへ近づき、手に持っていた一組のコントローラーを使って鞄を払いのけようとしました。しかし、鞄は宙で回転するだけでした。さらに近づくと、声は次第に大きくなり、その鞄の由来を話していることがわかりました。ここでネタばらしはしないでおきましょう。ただ、それは原爆投下によって死んだ人のものでした。
しばらくすると鞄は消え、部屋の中央に球体が現れました。そこに男性の顔が映し出され、彼は悲惨な体験を話し始めました。ここが、もっとも強く印象に残った部分です。彼は、学校の友人たちと一緒に建物に閉じ込められ、助けを待っていたときのことを詳しく説明します。それは、恐ろしく胸が痛む話で、見る者は、原爆による被害がいかに甚大であったかを思い知らされます。
このバージョンの「The Day the World Changed」では、登場するアイテムは3つだけですが、もっと多くのアイテムや物語を追加したいと彼らは考えています。
UnseldはEngadgetに、フェスティバルという場だけでなく、恒久的に体験できるようにするのが目標だと話しています。そうすれば、より多くのオブジェクトや参加者を統合するることができます。Tomorrow Never Knowsは、日本の広島平和記念資料館と協力して、遺品やその由来となる話を集めており、数十種類のアイテムが追加される予定です。「正しい物語を探す活動です」とUnseldは話しています。将来、もっと大きな規模の恒久的な展示施設ができて、現代のより多くの人たちに体験してもらえたら、共有学習体験のようなものが実現するとUnseldは期待しています。
最後に、「The Day the World Changed」は、悲惨な結末にならないための抑止力が自分たちにはあるのだと参加者に印象づけることを期待しつつ、今の軍拡競争が続けばどうなるかを予測しています。Unseldは人々が、ICANのウェブサイトで地方支部を支援する方法を調べたり、新しい情報やプロジェクトに関するニュースを頻繁に見に来てくれることを願っている。
「世界が保有している核兵器の数は、あの最初の恐怖の瞬間が根拠になっていることを忘れないでほしい」とUnseldは話しています。「そうして私たちは、いまだに恐怖の影の中で暮らしているのです」
このキャンペーンに核戦争を止める力はないとしても、「The Day the World Changed」は、過去に何が起きたのかを伝える没入型の記録として、財産を残すことになるでしょう。「とくに、広島の最後の生存者が亡くなりつつある今だからこそ、みんなが学べるように、この話を生きた形で保存することが重要なのだと思っています」とUnseldは話していました。
トライベッカ映画祭2018の詳しい情報はこちらをどうぞ。
編集部が日本向けに翻訳・編集したものです。
原文著者:Cherlynn Low