ボクシング元世界王者・重岡優大が語る「3150 FIGHT」亀田興毅ファウンダーへの信頼 再び“リング禍”を起こさないために思うこと

6日、愛知県国際展示場で「3150FIGHT 10」が行われた。一時は大会の開催自体が危ぶまれるも、蓋を開けてみれば“悪童”対決で元世界3階級制覇王者ジョンリエル・カシメロ(37・フィリピン)が元世界2階級制覇王者のルイス・ネリ(31・メキシコ)から怒涛の6ダウンを奪って4ラウンド42秒TKO勝利。さらに続くメインではIBF世界フライ級王者・矢吹正道(33・緑)が、挑戦者の同級3位レネ・カリスト(31・メキシコ)をフルマークの判定で下し2度目の防衛に成功するなど、会場のファンを大いに沸かせ、大成功に終わった。その会場の隅、スポットライトに照らされ観客の背中越し、暗闇に浮かび上がるリングを見渡せる場所に兄弟で史上初となる同日・同階級世界王者に輝くなど「3150 FIGHT」を牽引してきた重岡兄弟の兄・優大(29)の姿があった。
【映像】「顔がやさしくなった」久しぶりにファンの前に姿を現した重岡優大
弟の銀次朗(27)は、昨年5月に行われたIBF世界ミニマム級タイトルマッチでペドロ・タドゥラン(フィリピン)に判定で敗れ、試合後に急性硬膜下血腫で緊急の開頭手術を行うなど長い闘病生活を余儀なくされた。そして不運のアクシデントから3カ月後、弟に寄り添うために兄・優大は引退を発表した。
今年2月24日、優大は故郷の熊本市内に“いつか明るい未来が待ってる”といった思いを店名に込めた自家焙煎のコーヒーをメインとしたカフェ「Shinonome coffee」をオープン。翌月25日、303日の入院生活を闘い抜いた銀次朗は兄が作った居場所へ戻り、新たな闘いを始めている。
その優大は今回、会場内で出店し、ファンに挨拶をするために妻の南美さん(29)、生まれたばかりの陽和ちゃん(ひより・0歳)とともに熊本からやってきた。店舗にWBCのチャンピオンベルトが飾られた「Shinonome coffee」は、開場直後から本人も驚くほどの大行列と忙しさ。そんな中、ほんのひと息のタイミングで貴重な時間をもらって優大に話を聞いたインタビューの前編。「ボクシング人生20年の集大成」と語る「3150 FIGHT」との出会いや亀田興毅ファウンダーのこと。再び不幸な“リング禍”を起こさないためにいま思うことを語ってもらった。

「一刻も早く世界戦を」兄弟の強い思いが引き寄せた亀田興毅氏との出会い
熊本の名門・開新高校ボクシング部で兄・優大は高校4冠、弟・銀次朗は高校5冠という輝かしい実績を二人で築き上げた。優大は拓殖大学へ進学すると、2018年には全日本選手権でライトフライ級を制するなど、さらに実力を証明。注目の兄弟はプロ転向に際して東京・五反田にあるワタナベボクシングジムに所属。主戦場として選んだのが、亀田興毅氏がファウンダーを務める「3150 FIGHT」だった。優大は当時を振り返る。
「俺と銀は一刻も早く世界戦をやりたいと思っていましたが、現実的にワタナベボクシングジムが単独で世界戦を打つことは難しい。俺たち兄弟には自信があったから最速で世界戦を組んでくれる人を探していた。その時に現れたのが亀田興毅さんだったんです」
重岡兄弟の思いを聞いた亀田ファウンダーは「本当にやるんだな。勝てるなら俺は組むぞ」と応じたという。その言葉どおり優大は3150 FIGHTで4試合、銀次朗は5試合の世界戦を戦った。
すべての世界戦が印象深いという優大の中でも、史上初となる兄弟での“同日、同階級”世界王者は“特別だった”という。それは2023年4月16日、優大はWBC世界ミニマム級暫定王座決定戦でウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)を7ラウンドKOで撃破。銀次朗はIBF世界ミニマム級暫定王座決定戦でレネ・マーク・クアルト(フィリピン)に9ラウンドKOで勝利。暫定ながら史上初の偉業を成し遂げた。半年後の10月7日に行われた王座統一戦では優大がパンヤ・プラダブシー(タイ)に判定で勝利。一方の銀次朗もダニエル・バジャダレス(メキシコ)を5回KOでマットに沈めて兄弟で“正規王者”に輝いた。
優大はしみじみと言った。「こうやって会場に入ってくると、やっぱ銀のこと思い出しましたね。一緒にリングに上がって、一緒に世界チャンピオンになったなとか。ま、会場はここじゃなかったけど。僕たちの格闘技人生20年ぐらいありましたが、ボクシングで経験してきた色々なことの集大成が3150 FIGHTだった。そういう思い入れがあるんです。なんか俺たちの最後の場所だったなって」

現役を引退しても、やっぱり“ボクサーの血”が流れている
優大は会場入りするなり慌ただしく出店準備に取り掛かった。多くのボクシング関係者が店前に顔を揃え、言葉を交わし、開店前に優大がドリップするコーヒーを購入していった。すると優大がリングに向って歩き始める。そのままリングに上がると、ひとつ深呼吸をしてシャドーを始めた。引退から10カ月が経過したが動きは軽快で、ガード越しからのぞく視線には現役さながらの鋭さと力が感じられた。
自身の現役ラストマッチは2025年3月30日、1年前にタイトルを奪われたメルビン・ジェルサレム(フィリピン)とのリマッチだった。しかし、同じ相手にいずれもフルラウンドの末に判定で敗れた。その2カ月後に銀次朗の身に不幸が起こった。
「あのまま辞めようなんて1ミリもなかった。あくまでも“途中”だったんです」
そう話した優大は、久しぶりのリングに上がったときの気持ちを次のように説明する。
「リングにはボクサーじゃないと上がれない。それはわかってますが、なんかこうパッとリングが光って見えたんです。いまはカフェやって、ボクサーだったことを忘れているようでも、結局、僕には“ボクサーの血”が流れているんですよ。スポットライトを浴びたリング見ちゃったら、一気にボクサーになるっす。めっちゃボクサー蘇ったっすね(笑)」

「興毅さんは引退しても選手のために挑戦を続けている。文句があるなら俺に」
3150 FIGHTは4月のキルギス興行に続いて中止の危機に瀕していた。今大会を開催できなければ、亀田ファウンダーはプロモーターとして厳しい立場に追い込まれるところだった。さまざまな報道や情報が飛び交い、亀田ファウンダーに対する心無い声も散見された。3150 FIGHTを引っ張ってきた重岡兄弟の兄として、どのような心境で優大は騒動を見守っていたのか。
「未だにね、なんか言う人もいるじゃないですか。じゃあ、俺に言ってこいよって感じです。あの人は本当にやってくれてた。お世話になったジムを悪く言うつもりは全然ないけど、事実、俺とか銀がワタナベにいても『世界挑戦はいつになるんだ?』という話になる。日本各地には素晴らしいボクサーがいっぱいいる。でも、その人たちもジムによっては世界戦を組むことは難しい。そんなボクサーに目を向けてやってくれてる。海外で試合して海外の選手も巻き込もうとか。そりゃぁ、リスクもあるし大変に決まってる。興毅さんはボクサーをやめても、未だに選手のために挑戦してるわけでしょ。そんな人に向かって“ごちゃごちゃ”言う人たちがいるわけです。言いたいことあるんだったら、俺に言ってこいってマジで思いますね。俺は興毅さんを信頼し、尊敬し、感謝してます。助かってる選手だってたくさんいるんですよ」
優大はさらに続ける。
「興毅さんに面倒見てもらえば、もっとチャンスは来るんです。だからその目に止まるように選手たちは頑張んなきゃいけない。俺も『3150 FIGHTで』って。そうやって全体が盛り上がっていけばいいのに『3150 FIGHTがどうのこうの』っていう選手が居たりもする。そんなこと言ってるうちに、ポロって負けたり、怪我しちゃったりして、歳食っていきますから。みんな“ぼちぼち”やってる暇なんてないはずなんですよ。どこの試合に出たいとか、どこの興行で出たくないとか選り好みしている場合ではないんです。あくまでも俺の考えで、正しいとは言わないですよ。銀もこうやって怪我してるわけですから。あんまり生き急ぐのは良くないのかもしれないですけど。俺らは後悔してないです」
みんなで価値観を変えていかないと“不幸な事故”はまた起こる
2025年は銀次朗以外のボクサーにも“リング禍”が続いた。8月には2人のボクサーが試合後に意識を喪失し、救急搬送された病院で緊急開頭手術を受けるも命を落とす非常に残念な結果となった。自身が世界王者であり“リング禍”の当事者でもある優大は、ボクシングやボクサーを取り巻く環境について次のように私見を述べる。
「原因として考えられるのは周り。周りというのは、トレーナーだったりセコンドだったり、お客さんも含めて、選手じゃない周りの人たちが結構そのムードを作り上げてるような気がしますね」
具体的に“そのムード”はどういうことか――
「セコンドがタオル投げたらどうとか。レフェリーがストップしたらどうこうとか…ボクシングファンの価値観はすぐに変わらないと思いますけど。トレーナーとかレフェリーは唯一選手を守れる存在です。ひとたび選手がリングに上がってしまえば、もう戦う人間だから『止めないでくれ』って言うに決まってます。そこで、“止める権利”がある人たちの判断が周囲の『おい止めんなよ』っていう雑音で鈍る。自分の意思を持って、危険かどうかだけでしっかりと判断するべき。トレーナーやセコンドだって、誰が責任かって別に責めるつもりはないけど、選手だけがプロなんです。選手以外がまだアマチュアなんです。
銀の試合では、俺はサブセコに入れてもらえなかった。試合中はリングの外にいたから、銀とコミュニケーションが取れなかった。俺が銀とコミュニケーション取れていたら、異変に気づくチャンスはあったかもしれない。みんなで価値観を変えていかないとダメ。レフェリーやセコンドの意思を尊重しないと負の連鎖が起こる。遅れ早かれ、きっとまた同じ事故が起きると思っています。でも、ボクシングってそういうもんですから。危険と隣り合わせで殴り合うスポーツなんです。誰も最後の覚悟はできないと思うけど、そういうのを理解しておく必要はあると思います」
(後編に続く)
