悩みを抱えたり気持ちが高ぶって心臓の鼓動が活発になると、無意識のうちに心臓のあるあたりに手を当てて、心を落ち着けるという経験をした人は少なくないと思います。こうした行動に代表されるように、以前は、心は心臓にあるという考え方が一般的でした。しかし、脳の研究が進み、脳の機能が解明されるようになると、脳こそが心を司り、喜怒哀楽などの感情を生み出すものと考えられるようになりました。そして、心の働きは、大脳皮質と脳幹、大脳辺縁系の3つが連携をとって成り立っていることがわかってきました。

感情には、人間が持つ特有のものと動物的な感情の2つがあります。人間的な感情とは、ほかの人間に抱く親しみや憎しみ、羞恥心といった心の働きを指します。一方の動物的な感情とは、空腹が満たされたときの快感や十分な睡眠がとれなかった時の不快感、生命の危機にあったときの恐怖や闘争心など、動物としての本能と密接にかかわりがあるものです。このような動物的な感情を人間的な感情と区別して「情動」といいます。

情動と関係している脳の部位は、食欲や性欲、睡眠欲などの生存本能を司る視床下部と快・不快や怒り、恐れを司る扁桃体、過去に体験した記憶の保存場所である海馬です。これらが神経線維で結ばれてお互いに連携を取り合っているため、外部からの情報とこれまでの記憶などが統合された情動が生まれるのです。

怒りや恐れなどの情動が起こると、心臓の拍動が激しくなって血圧が上昇します。そして、酸素を取り込もうと呼吸数も多くなります。瞳孔は拡大し、骨格筋も緊張します。これらは自律神経のうち交感神経の活動が増大したために起こる生理的変化で、さらに内分泌もストレスに耐えられるように対応します。つまり、視床下部は扁桃体と連携して情動を生み出しますが、自律神経や内分泌に働きかけて情動を抑える機能も備えています。しかし、自律神経のコントロールだけでは情動が暴発するリスクがあるため、最終的には大脳の前頭連合野が理性的に情動を抑制する役割を担っています。(監修:健康管理士一般指導員)