ハクサイの生産で使うマルチシートを示す井上真晴さん(22日、茨城県坂東市で)

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 中東情勢の悪化を受け、国内農家の間では、農作物の生産に使う資材や包装材などの価格上昇や供給状況に対する不安が広がっている。

 資材や包装材の多くは、価格が高騰するナフサ(粗製ガソリン)を使う石油化学製品であるためだ。ナフサ価格が高止まりすれば生産コストの上昇は避けられず、飲食料品の値上がりにつながる可能性もある。(経済部 貝塚麟太郎)

「工夫難しい」

 茨城県坂東市の畑でハクサイを生産する井上真晴さん(46)は、「燃料や石油由来の資材を使わないわけにはいかず、工夫のしようがない」とこぼす。

 畑では、雑草の成長を抑制するために畑の畝を覆う「マルチシート」などの石油化学製品の資材を使用している。マルチシートのメーカーでは、大倉工業(香川県)が4月21日出荷分から値上げを実施。ナフサの調達環境の悪化が理由で、一部製品の値上げ幅は従来の価格の3割以上となった。同様の動きは今後、他社にも広がりそうだ。

 また、井上さんはハクサイを食品加工業者に納品するための輸送費用についても不安を感じている。納品価格は輸送費も含めて事前に契約しているが、燃料油価格の大幅な上昇が起きた場合には、「価格の見直し交渉が必要になるかもしれない」と話す。

容器も

 農作物が小売店の店頭に並ぶまでには、鮮度を維持するためのフィルムや袋などの包装材やトレーなどの容器が必要だ。それらもナフサが原材料の製品が多く、値上げの動きが出ている。

 食品包装材などを手がけるデンカポリマー(東京都)は4月、業務用ラップやプラスチック製容器などの製品の価格改定を相次いで発表した。ラップは5月納入分から35%以上、容器は6月納入分から30%以上価格を引き上げる。「自助努力のみでは価格を維持することが極めて困難な状況」という。

 コメ袋ではフィルムや袋への印刷に使うインクも供給状況の悪化が起き、メーカーで値上げの動きが出ているという。コメ袋の販売を手がける東京都内の業者は、原材料の値上げの動きについて「経験したことのないペース」と説明する。

物価高に拍車

 全国農業協同組合連合会(JA全農)も4月以降順次、各地域の農協への資材の販売価格を引き上げる方針だ。値上げ幅は非公表で、仕入れ先メーカーの値上げ要請を受けた対応という。

 農産物の生産コストの増加分は、最終的に小売店での販売価格に転嫁される可能性が高い。食料の安定供給を担う農林水産省も事態を重視し、今月、省内に専門の対応チームを設置。農業用資材や食品包装材などの流通実態の調査を始めた。

 総務省が発表している全国消費者物価指数によると、生鮮食品も含めた「食料」の前年同月比の上昇率は、2025年1〜12月に5〜7%台という高い伸びを示した後、26年1〜3月は3〜4%台となっている。コメ価格の上昇の影響が一服したためだが、今後は中東情勢の悪化による原油価格やナフサ価格の上昇の影響から、物価上昇の勢いが増す可能性がある。

 食品価格の先行きについて、飲食料品の価格動向を調査している帝国データバンクの窪田剛士・主席研究員は、「3月の原油価格高騰が食料品の値上げに波及するのは今年6月以降ではないか」と指摘している。

野菜コスト「生産段階」5割 石油由来の使用多く

 野菜などの農作物の小売価格には、生産段階以降の様々なコストが含まれている。中東産の原油や天然ガスが原料となっている製品は農業用資材や包装材、化学肥料、物流用の燃料油など多岐にわたり、中東情勢の長期化は様々な段階でのコスト増となりそうだ。

 農林水産省が公表した2025年4月時点のタマネギ(1キロ・グラム)のコスト試算を例に取ると、全体のコストの約5割が生産、約2割が集出荷、卸・仲卸が1割強、小売りが2割弱だった。

 計7割となる生産、集出荷の段階では、石油や天然ガス由来の製品が使われている。化学肥料に使われる尿素は天然ガスが原料だ。尿素の国際価格は上昇基調にあり、肥料価格に反映される可能性もある。このほか、各段階では、農業機械や運送用トラックなどを動かすため、ガソリンや軽油などの燃料油が使われている。