トランプ氏の発言迷走…「代表団がパキスタンに」と投稿もバンス副大統領は米国にとどまる
【ワシントン=阿部真司】米国のトランプ大統領は21日、これまでの発言を覆し、イランとの停戦延長を表明した。
一連の強気な発言はイラン側の譲歩を引き出す狙いだったとみられるが、周囲の進言を受け入れず、矛盾した発信は迷走を続けた。
トランプ氏はこの数日間、自身のSNSへの投稿や欧米メディアの個別のインタビューに頻繁に応じ、「イランとの合意が近い」とする発信を繰り返した。
特に混乱を招いたのが、イランとの再協議の日程を巡る説明だ。トランプ氏は19日、自身のSNSで「代表団がパキスタンに向かっている」と投稿し、具体的な到着日時の見通しまで示した。だが代表団を率いるバンス副大統領は実際には米国にとどまっていた。
イラン国内の濃縮ウランの扱いについては、17日の米CBSニュースのインタビューで「イランはすべてに同意した」と主張し、イランが搬出に応じると説明した。しかし、すぐに一転し、米FOXニュースには、イランが合意に署名しなければ「国全体を吹き飛ばす」などと脅しを強めた。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、政権内ではトランプ氏がメディアからの度重なる電話インタビューに応じることに対し、懸念の声が出ていた。場当たり的な発言が国内外に混乱を与えるとの理由からだ。側近たちが交代でトランプ氏にインタビューを控えるよう促したが、効果はなかったという。
独りよがりにも見える言動を巡っては、イランに関する正確な情報が伝えられていないという見方もくすぶる。米NBCニュースは米当局者の話として、トランプ氏に対する政権内部の報告について、米国に都合のよい内容に偏る傾向があると伝えている。
トランプ氏は停戦期間の期限を控え、合意に至らなければ攻撃再開を示唆する発言を繰り返していたが、最終的には停戦延長を表明し、当面は外交的解決を模索する姿勢を示した。
トランプ氏はこれまでも、自身の過激な発言を巡り、市場の否定的な反応を受け、強硬な対外政策を撤回、修正してきた。
昨年は中国に対する追加関税を大きく引き上げた後、市場で株式、債券、通貨がそろって下落する「トリプル安」を招き、関税率を一気に引き下げた。イランへの攻撃再開を今回見送ったのは、原油市場に与える影響に配慮した可能性がある。
主権国家の立場損なう行動はイランの妥協引き出せない
吉村慎太郎氏(広島大名誉教授)
トランプ米大統領が停戦を延長したのは相当追い込まれている証しだとイランは理解している。イランは軍事的損害を受けていても、好戦的な構えを取り続けることが最終的な勝利につながると考えており、外交交渉に簡単には乗らないはずだ。
イランは再協議に対して様々なシグナルを送っている。米国の矛盾した対応に合わせて立場を変え、したたかに出方を探っている。イランも手放しで戦闘継続できるほどの強さはないためだ。
イランは米イスラエルからの指図や脅しといった、主権国家の立場を損なう行動に極めて嫌悪感や怒りを持っている。両国はこの考えを理解しない限りイランから妥協を引き出せない。イスラエルが再協議への妨害行動を再び行うことで、消耗戦に似たような状況も続くだろう。
イランにとって停戦延長は時間稼ぎとなる。無人機の生産拡大や中露との関係強化など、自国に有利となるような展開を目指すのは間違いない。国内では現体制に反発や不満を持つ人が相当数いる。国民を現体制擁護に向けさせられるかどうかも、戦況に影響を与える要素となる。(聞き手・国際部 大我寛樹)
トランプ氏は当初から出方を見誤った
チャールズ・カプチャン氏(米外交問題評議会上級研究員)
トランプ米大統領がイランとの停戦延長を表明したのは戦闘に戻りたくないからだ。トランプ氏は当初からイランの出方を読み誤った。戦闘は短期で終結し、米国が押せば弱体化したイランの体制は崩壊し、勇気ある米大統領として歴史に名を残すことができると考えていた。実際はそうならず、世界的なエネルギー危機に発展してしまった。
戦闘が再開されれば、ホルムズ海峡にミサイルが飛び交い、船舶の航行が不可能になる。費用がかさむ上、トランプ氏は支持層の反発にも直面している。まさにトランプ氏が回避したいと考えていたことだ。
ただ、イランがウラン濃縮問題で譲らなければ攻撃再開もあり得る。トランプ氏が「イランの核兵器保有を阻止した」と宣言できなければ、更なる政治的な窮地に陥るからだ。ホルムズ海峡の封鎖を継続しているのは、イランに圧力をかけ続けるためだ。
今回の戦争は、トランプ氏の判断力に対する評価を傷つけた一方、リスクを恐れない人物であることを証明した。敵対国はトランプ氏をより恐れるようになった。米イラン交渉は、トランプ氏の今後の影響力を占うものになる。(聞き手・ワシントン 向井ゆう子)
