4月8日の大規模空爆で被害をうけた建物(2026年4月9日 レバノン・ベイルート)

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アメリカのトランプ大統領は16日、イスラエルレバノンが10日間の停戦に合意したと発表した。イスラエルはイランとの停戦が成立した後もレバノンでの軍事作戦を続け、3月以降の死者は16日時点で2200人近くにのぼるなど、深刻な人道危機を引き起こしてきた。あくまで「軍事目標」を標的にしていると説明するが、多くの人を巻き添えにするその手法に問題はないのか。国際法に詳しい一橋大学の竹村仁美教授は、イスラエルの行動が「自衛権の行使」の範囲を超えている可能性があると指摘した。(聞き手 国際部・坂井英人)

■「自衛権」主張は「必要性と均衡性を超えてきている」

3月2日、レバノンに拠点をおく親イランのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」は、イランの前最高指導者・ハメネイ師が殺害されたことへの報復として、イスラエルへ向けロケット攻撃を行った。これに対し、イスラエルは「自衛のため」としてベイルート郊外や南部などレバノン各地を空爆し、地上侵攻を開始した。一橋大学の竹村仁美教授は、イスラエルが自衛権の行使を主張するにしても守るべき「必要性・均衡性」を超えてきていると指摘した。

――イスラエルレバノンへの攻撃を「自衛権の行使」と説明しているが、問題点は?

一橋大・竹村教授
「自衛権の行使自体は国連憲章で、また『慣習法』としても国家に認められている権利であることは確か。ただ、問題になるのは、自衛権を行使するほどの武力行使がヒズボラ側からあったのかどうか。そして、(自衛権は古典的には国と国の武力行使と考えられてきたので)ヒズボラという非国家主体に対して反撃をする際に自衛権という概念が使えるのかどうか。つまり、ヒズボラが正当な自衛権行使の対象なのかという主体の問題」

「また、実際に(自衛権を)行使した場合の対応として、『必要性と均衡性』が満たされているかという問題もある。武力攻撃があった場合に、それを排除するのに必要な限度、また、それと均衡するような武力行使ができるにとどまるので、それ以上の攻撃は過剰な防衛、違法な武力行使になる。(イスラエルの軍事行動は)現状、EU諸国が指摘するように、必要性、均衡性を超えてきている状況にあると思う」

――具体的には?

一橋大・竹村教授
「大規模な空爆になり、ヒズボラの攻撃から自国を守るために、必要且つ均衡した武力行使と評価しづらくなっているのではないか。戦闘方法についても、明らかに軍事目標以外のものが攻撃されているように思われる。テロリストがいるかもしれないといった理由があっても、あまりに多くの民用物を広範に攻撃することは慎まなければならないというのが国際人道法の原則」

※「国際人道法」…人道的な理由から武力紛争の影響を制限することを目的とした一連のルールで、民間人などを保護し、武力攻撃の手段や方法を制限する。ICRC(赤十字国際委員会)によると、国際人道法はジュネーブ諸条約などの国際条約と、多くの国家により法的拘束力があるとみなされた慣行である慣習法などから構成される。

■「軍事目標主義が徹底されていない」

――イスラエルの軍事作戦で何が問題?

一橋大・竹村教授
「(軍事目標と民用物を区別する)軍事目標主義が徹底されておらず、民間人の巻き添えと民用物の破壊が行われていること。また、民間人に避難するように呼びかけることで、実際上強制的な移住が行われているとも見ることができる。その意味でも『戦争のルール』に従っていないというふうに評価できる」

――国際社会の対応については?

一橋大・竹村教授
イスラエルという国に対する制裁がなかなか行われなかったのは残念ではあるが、国際政治の力学上そうなっていたのかなと仕方なく思う部分もある。国に対して経済制裁を科すと、その国の国民全体が影響を被り、より広範に人権侵害が起きてしまうという問題もある。日本政府は特定のイスラエルの(ヨルダン川西岸への)入植者に制裁をかける方針をとっており、これはこれで一定程度評価できる」

■国際法は「ないよりもある方がまし」

――戦争犯罪が疑われるような攻撃が続いても、イスラエルを止める手段が実質的にない現状だが、国際法の存在意義とは?

一橋大・竹村教授
「学生によく言うのは、国際法が全くない社会、あるいは国連や安全保障理事会が全くない社会を想像してみると、それよりはましであるということ。『国際法がない社会』を考えた場合に、たがが外れ、(本来、国際法の下では正当とみなされない形の)武力行使が可能になる」

「現状では全ての国が国際法の枠内で武力攻撃をしなければいけないという建前のもとで行動しており、たとえそれが国際法を無視している、あるいは違反であると評価されたとしても、最低限のルールとして存在していることは認識されている。存在しないよりも存在した方がまだましな社会ではあるというふうに評価できるのではと思う」

――日本のいち市民として、私たちが今の状況に対しとるべき態度は?

一橋大・竹村教授
「少なくとも子供が被害を受けるような攻撃は、国際人道法上許されるものではない。そうした行為があれば『おかしい』と一人一人の市民が声をあげていくことも大事。あとは、企業や私たち個人個人のお金が違法な軍事行動や攻撃に利用されていないのかどうか、足元から確かめる(ことも大事)」

イスラエルがもし過剰な自衛行動をとっているとすれば、イスラエル軍の軍備用品に日本企業のお金が使われているならば、そこを見直すことも必要になると思う。まずは自分たちの資金・資源が遠い国で民間人の攻撃に利用されている可能性があるならば、それを見直すこともこうした攻撃を止めるために必要なこと」

(※竹村氏への取材は4月10日に実施しました)