補助金が“中抜き”されている? このままいけば「独立系のスタンドは閉店に追い込まれる」
イラン攻撃がもたらした「令和のオイルショック」を受け、高市政権は石油備蓄を放出するとともに、約3カ月ぶりとなるガソリン補助金支給を再開した。その額は、原油価格高騰に伴って上昇の一途だが、足元では看過できない“スタンド格差”が生じているのだ。
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石油元売り会社への補助金支給は、昨年末に暫定税率の廃止とともにいったん終了。それが中東情勢の急変によって、3月19日に再開されたばかりである。
レギュラーガソリンの全国平均価格は、3月16日時点で1リットルあたり190.8円と史上最高値を記録した。
「これが、当初の1リットルあたり30.2円の補助金支給によって23日には177.7円に。さらに補助金は26日から48.1円に引き上げられ、平均価格も先月末時点で170.2円と、“170円程度に抑える”とした政府の目的は、ひとまずかなったことになります」(政治部デスク)
が、その後も原油高騰は止まらず、
「4月2日からの1週間は、1リットル49.8円に引き上げられました。政府は、この補助金がなければ219.8円になると説明。補助金の財源の残高は、3月末時点で1兆1500億円となっています」(同)
重大な不公平
ドライバーにとってはひとまず安堵すべき状況かもしれないが、もとより補助金の原資が国民の税金であることを思えば、手放しでは喜べまい。加えて、ここでは重大な“不公平”が生じているというのだ。

「ENEOSや出光、コスモといった元売り会社の系列のガソリンスタンド(以下.系列店)と、全体の2割を占めるプライベートブランド(PB)のスタンドとで、価格が大幅に異なる事態が現在、起きています」

とは、さるPBの関係者。その傾向は、とりわけ独立系の個人商店で顕著である。東京.足立区でガソリンスタンドを経営する「田中商事」の三枝直樹店長に聞くと、
「5日現在の看板価格は1リットル168円ですが、近隣の系列店は148〜155円ほど。なぜこれほどに差が出るのか。私たちは、元売りから買える系列店とは異なり、元売りが卸した商社からガソリンを仕入れています。ところが元売りは“余裕がない”と、商社の分を減らしてしまったのです」
これに先のPB関係者は、
「その供給分は前年比3〜5割も削減している。これが諸悪の根源といえます」
「どこかで“消えている”」と考えざるを得ない
通常、系列店は元売りが決めた「基準価格」で仕入れ、月末締め支払いで取引する。対してPBスタンドは商社を通じ、日々の相場に基づいた現金取引を行っているといい、
「本来であればキャッシュのPBのほうが安く仕入れられるのですが、3月に元売りがいきなり供給を3割以上カットしたことで、相場が跳ね上がってしまった。結果、3月25日には系列店の仕入れ値平均85.58円に対し、PBは125.51円と、およそ40円も上回る逆転現象が起きてしまったのです。供給を絞れば相場が上がるのは自明で、まさにPBを追い詰めるための策だといえます」(前出のPB関係者)
続けて、こう指摘する。
「今回、元売りに支給されている多額の補助金も、末端まで行き渡っているとは到底思えません。“供給削減”を差し引いてもこの価格差は異常で、どこかで“消えている”と考えざるを得ない。元売りは“ちゃんと反映させている”と言うのでしょうが、実際には同じ元売りから出ている油にもかかわらず、これほどの差が生じているわけです」
イトモス研究所の小倉健一所長が言う。
「政府の論理は“元売りが卸価格を引き下げれば、市場競争を通じて小売価格も同じく下がる”というものですが、現実の市場はそのようには機能しません。関東財務局が2022年10月に公表した調査結果によれば、ガソリンスタンド事業者へのアンケートで“補助金で小売価格がどの程度抑制されているか”との問いに、“全額分抑制されている”と答えた事業者は約45%に過ぎませんでした」
補助金をどのように卸価格に反映させたかについて、経済産業省や資源エネルギー庁が強制的に調査できるわけではない。それもあって“ブラックボックス”と化しているというのだ。
このままいけば……
石油の流通システムに詳しい桃山学院大学経営学部の小嶌(こじま)正稔教授は、
「現在、全国的に系列店とPBとの間で、供給量や価格に圧倒的な差が出ています。元売りからすればガソリンを系列店に入れて安売りした方が、マージンも得られて実入りが良いのです」
そう前置きしながら、
「この状況は、過去のオイルショックの時ですら見られなかった異例の事態です。元売りがここまでPBに強く出るのは、足元の在庫に対する強い危機感があり、見通しが全く立っていないためです。そもそも、元売りとの間に『商標の使用権契約』があり、看板やサインポールを掲げている系列店は優先されますが、元売りとの間に供給義務を生む契約を結んでいないPBなどは、元売りの都合で真っ先に供給を減らされてしまう。そういう仕組みになっているのです」
さらには、
「PBと系列店との仕入れ価格差が30〜50円もある場合は、PBには補助金が届いていないと感じています。そこに至るまで、どの段階で“中抜き”がなされているのかは不明瞭ですが、結果的に街のスタンドの価格で大きな差が出てしまっている。このままいけば独立系PBは閉店に追い込まれ、スタンドは系列店ばかりになる。となれば元売りが独占的に値段を決めることができ、安売りなど考えられない。消費者にとって極めて重大な問題で、現状を放置すべきではありません」
大手二社に聞くと……
現在、国内シェアではENEOSがおよそ5割を占め、続く出光興産が3割と、2社で実に8割を占めている。前述した指摘に対してENEOSは、
「SS(注・スタンド)店頭価格について弊社は言及する立場にないため回答を控えます。なお、弊社は補助金相当を全額卸価格に還元させております」(広報部)
また出光興産も判で押したように、
「弊社は、補助金相当分を取引先への卸売価格に全額反映させております。店頭価格につきましては、取引先が決定しているため、弊社が答える立場にありません」(広報部広報課)
とはいえ、このままでは不公平が広がる一方だ。そんな中、高市首相は自身のXで4日、重要物資の安定確保のための取組について言及。具体的な成果として、
〈A重油の調達にお困りの豆腐事業者の方に石油元売事業者からの直販を実現し、工場停止を回避しました〉
などと高らかにうたっていた。豆腐は救っても、ガソリンスタンドの“お困り”には目をつぶるのだろうか。
「週刊新潮」2026年4月16日号 掲載
