金融庁がソニー生命への本格的な調査を躊躇する「本当の理由」

写真拡大 (全2枚)

ソニー生命保険の元営業職員が顧客から約22億円を借り入れ、そのうち12億円が未返済になっていることが発覚した。元営業社員らが顧客から約31億円詐取したプルデンシャル生命保険の事件との類似性も指摘されている。

プルデンシャル生命の組織的な問題点を指摘した前編記事『実はプルデンシャルと「同根」…元営業社員の「借金」12億円が未返済だったソニー生命の「強烈な報酬体系」』より続く。

全社調査の結果は……

プルデンシャル経営陣の後手の対応も傷口を広げた。一連の不正の始まりは、24年6月に元営業社員が顧客からの金銭詐取で逮捕されたことだった。社内では「他にも同じような不正がある」と囁かれていたようだが、経営陣は全社調査に消極的だった。

金融庁から25年4月、報告徴求命令を受け、ようやく全社調査に着手したところ不正事案が続々と見つかり、今年1月には被害が総額約31億円にも上ることが判明した。

往生際の悪い経営陣は「大半は個人の不祥事」と見做して、問題を矮小化。当初は保険契約に絡む不正とそれ以外の不正に分けて集計したプレスリリースを公表しただけで済まそうとしていた。今回のソニー生命と同様に、業務と関係のない不正は会社として補償しない方針も強調していた。

だが、30年以上にわたり不正を横行させながら、こんな甘い対応で世論の納得が得られるはずもない。

「プルゴリ」はもう許されない

1月下旬には記者会見を開かざるを得なくなり、当時の間原寛社長が引責辞任を表明。再発防止策としてフルコミッション制の見直しなど報酬制度を抜本的に改める方針を示した。それでも顧客からの苦情や批判が収まらなかったため、2月には、新規営業を90日間自粛する事態に追い込まれた。

さらに2月1日付で就任した得丸博充社長は、「弊社社員が起こした金銭不祥事による被害は全額補償する」と約束。第三者委員会を設け、過去の経営陣の責任も含めた原因究明の徹底を図る姿勢を示したことで、世論の怒りはようやく沈静化する方向になった。

だが、この間の杜撰な対応は顧客の信頼とブランドイメージを失墜させた。

業界で「プルゴリ(プルデンシャルのゴリ押し営業)」とも呼ばれる男性営業社員による積極果敢な営業姿勢が強みだったが、そんな営業スタイルはもう許されない。「ビジネスが継続できるのか」(大手生保幹部)と危ぶまれているのが実情だ。

プルデンシャルと同列視する世間の見方に対して、ソニー生命関係者は「うちは87年に合弁を解消して以降、コンプラアンスやガバナンスを強化してきた」と反論する。そうであれば、なおさら全社調査を実施した上で、トップが記者会見を開いて疑念を晴らすべきだろう。

「パンドラの箱」を開けかねない

長年、金融機関に対して「顧客本位の業務運営」を厳しく求めてきた金融庁の対応も焦点だ。プルデンシャルの営業社員による大規模な不正を見過ごしてきたことは、伊藤豊長官(1989年旧大蔵省)にとって痛恨の出来事だ。

昨年発覚した、いわき信用組合(福島県)による組織的な不正融資と反社会的勢力への資金提供問題でも、金融庁は長年放置してきた大失態を批判されたばかりだけに、生保営業職員による顧客からの不正な資金詐取への厳しい対応が求められている。

「業界の悪しき体質を抜本的に正すというなら、疑惑が持たれているソニー生命に全社調査を実施させたり、当局自ら調査に入ったりすべきだろう。だが、遠藤俊英・元金融庁長官(82年旧大蔵省)がソニーFG社長でいる限りは難しい」。金融庁の有力OBは歯がゆさを隠せない様子だ。

金融庁が躊躇するのは、本格的な調査に乗り出せば「パンドラの箱」を開けることになりかねないからだ。プルデンシャルのように不正が続々と見つかれば、ソニーFGの収益の大半を稼ぎ出すソニー生命の経営が揺らぎ、遠藤元長官は面目を失うだけでなく、FG社長でいられなくなる可能性がある。

ソニー生命を巡っては、かつて租税回避を主な目的とした「節税保険」への関与を指摘されながら、お咎めなしだったケースもある。遠藤氏への配慮が取りざたされ、金融庁は「金融行政のタブー」(大手行幹部)などと後ろ指をさされた。果たしてソニー生命の今回の不祥事に、伊藤長官はどう対応するつもりだろうか。

先輩に遠慮して甘い態度に終始するようでは、「本格派長官」の名が泣く。

合わせて読みたい。『戻ってこないと思っていた5700億円がなんと一括で返ってきた!「アンチ財務省」高市政権が終止符を打った「自賠責特会ネコババ」問題の深層』

【もっと読む】戻ってこないと思っていた5700億円がなんと一括で返ってきた!「アンチ財務省」高市政権が終止符を打った「自賠責特会ネコババ」問題の深層