私たちが日々見上げている太陽は、実は誕生してから短期間のうちに、1万光年以上も外側の領域へと「大移動」してきた――。若き太陽が経験した可能性がある大移動のシナリオと、その裏付けとなる観測的な証拠を示した研究成果を、東京都立大学の谷口大輔助教や国立天文台の辻本拓司助教を中心とする国際研究チームが発表しました。研究チームの成果をまとめた2つの論文は学術誌Astronomy & Astrophysicsに掲載されています。


【▲ 太陽と太陽双子星が天の川銀河を大移動する様子を描いたイメージ図(Credit: 国立天文台)】

太陽は「障壁」が立ちはだかる前に大移動できた可能性

太陽は現在、天の川銀河の中心から約2万7000光年離れた場所を周回していますが、太陽の年齢や化学組成を他の恒星と比較した研究を通じて、誕生したのは現在よりもずっと銀河の中心に近い場所だったと推定されています。つまり、太陽は誕生してから約46億年の間に生まれた場所から現在の場所へと、実に1万光年以上も外側(動径方向)に向けて大移動してきたと考えられるのです。


ところが、この太陽の大移動には大きな疑問がありました。天の川銀河の中心部には星が細長く集まった回転する棒状構造があることがわかっていますが、これが障壁(共回転バリア)となって、星が天の川銀河の中心側から外側へと移動するのをさまたげていると理論的に指摘されていたからです。


【▲ 天の川銀河の想像図を背景に、現在の太陽の位置(青色)と太陽が誕生した位置(赤色)を示した図。その間には棒状構造による障壁(共回転バリア、オレンジ色)がある(Credit: NASA/JPL-Caltech/ESO/R. Hurt、著者らが改変)】

太陽が誕生したとみられる場所は障壁の内側、現在の場所は障壁の外側にあります。したがって、太陽が誕生後に現在の場所へ来るためには、障壁を乗り越えなければならないことになります。


研究チームは今回、この謎に対する一つの答えを導き出しました。天の川銀河の棒状構造は80億年以上前に形成されたとする説が主流でしたが、約60億〜70億年前に形成され始めたという新たな可能性を提案した上で、形成中の棒状構造がもたらす活発な動きに乗ることで、太陽は障壁に阻まれることなく現在の位置まで一気に大移動できたのではないかと推定しています。


Gaiaのデータが明らかにした「太陽双子星」の年齢

では、なぜそのような大移動のシナリオが描けたのでしょうか。その強力な手がかりとなったのが、太陽と非常に似た性質(表面温度や重力、重い元素の量など)を持つ恒星です。英語では「solar twin」、日本語では「太陽双子星」とも呼ばれます。


研究チームはESA(ヨーロッパ宇宙機関)から公開された宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」の大規模な位置天文観測データ、具体的には2022年6月に公開された第3次データ(DR3)を利用して、太陽から約1000光年(約300パーセク)の範囲にある6594個もの太陽双子星の高精度なカタログを作成しました。これは従来の最大規模のカタログと比べて約30倍もの天体数に上るといいます。


このデータに含まれる観測の偏りを統計的手法によって取り除いて太陽双子星の真の年齢分布を調べた結果、約20億年前と約40億〜60億年前という2つの時期に、他の時期と比べて多くの星が生まれていたことが判明しました。


約20億年前に生まれた星が多いのは、天の川銀河で比較的最近起きた星形成活動の痕跡と考えられています。太陽の大移動の謎を解く鍵として今回注目されたのは、さらに前の時期に生まれた星です。このデータから、現在の太陽の近傍には、太陽の誕生時期(46億年前)と同世代である約40億〜60億年前に生まれた太陽双子星が数多く存在していることが明らかになったのです。


【▲ 太陽双子星の真の年齢分布を示した図。約20億年前と約40億〜60億年前の2つの時期に、他の時期よりも多くの星が誕生したことを示すピークや膨らみがみられる(Credit: 国立天文台)】

太陽は多数の仲間とともに大移動してきたのかもしれない

太陽とほぼ同じ年齢や化学組成を持つ星が、現在の太陽の近くに多数存在するという事実は、太陽だけが単独で偶然この場所にたどり着いたわけではないということを意味します。


つまり、太陽は同じ時期に同じような場所で誕生した多数の太陽双子星とともに、同じように大移動をしてきた可能性が高い、ということになります。これこそが、前述した「棒状構造の形成に伴う大移動」のシナリオを裏付ける証拠となっています。


【▲ 今回の研究で示された太陽と太陽双子星の大移動のメカニズムを示した図(Credit: 国立天文台)】

銀河の中心に近い場所は、超新星爆発などの高エネルギー現象が頻繁に起こる、生命にとって過酷な環境だと考えられています。太陽が誕生してから短期間でより安全な外側の領域へと多くの仲間とともに移動していたのだとすれば、その大移動こそが、地球が生命を育むための数十億年という穏やかな時間をもたらすことにつながったのかもしれません。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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