image: RheEnergise

夏場に多い電力不足も困ったものですよね。作った電力をどうにか貯めておければいいのに。

でっかいバッテリーを作る?家庭に配備する?色々考えられそうですが、実は、世界最大の蓄電システムは山と水を使う「揚水(ようすい)発電」なんです。

その歴史は1907年のスイスにまで遡るといわれます。原理もそれほど変わらずシンプル。言わば“枯れた”技術ではありますが、イギリスのスタートアップが試みた「ある変化」によって大きくバージョンアップされそうです。

そもそも「水力発電」と「揚水発電」は何が違う?

ここはご存じの方はすっ飛ばして構いませんが、まずは基本から。

「揚水発電とは何ぞや?」は中部電力のYouTube『90秒でわかる揚水発電』がわかりやすいので貼っておきますね(以下、動画が見れない人のために文章でも書きます)。

まず、似たような名前でよく聞く「水力発電」は、川や湖の水が高いところから低いところへ流れる力で、発電のためのタービン(水車)を回して電力を作る方式です。

image: 北海道電力YouTube

一方で「揚水発電」は、高低差のある調整池の間で水を行き来させることにより、中間地にある発電所のタービンを回す方式です。

電気消費量の少ない夜間や、天気が良い日の太陽光発電で電力が余った時に、ポンプで水を山上の調整池へ汲み上げておきます。

image: 北海道電力YouTube

そして、電気が足りないときには、汲み上げておいた水を下部の調整池へ勢いよく流してタービンを回し、発電します。

水を流しきったら終わりの水力発電と違って、調整池の水が複数回使えるのも、発電機ではなく蓄電池といわれる理由でしょう。

image: 北海道電力YouTube

現在、世界の揚水発電の総設備容量は約200ギガワットで、長期蓄電システム全体の90%以上を占めるという、文字どおり“世界最大のバッテリー”です。

でも、山がないと使えなかった…

image:中部電力YouTube

エコだしよくできた仕組みの揚水発電ですが、弱点はあります。最大の懸念は場所を選びすぎることです。

上部調整池から下部調整池へ水を勢いよく流すためにも、2箇所には高低差が必要です。そもそも高い山と、水が供給されるような川と、ダムを作れる谷が揃わないといけない。

日本でも揚水発電は活用されているものの、適地の開発は「ほぼ出尽くしている」といわれています。有効な手段だとはわかっていても、もうこれ以上はどうにも作れないのですね。

ということで本題。イギリスのスタートアップ「RheEnergise」が成功させた仕組みを使えば、この「適地」をさらに増やせるかもしれないのです。

「水の代わり」を使えばいいんじゃないか?

image: RheEnergise

RheEnergiseの試みは、水の代わりになる、もっと重い液体を使うこと。

同社が開発したのは「高密度流体(High-Density Fluid)」と名付けられた独自の流体で、水の2.5倍の密度を持ちます。どのくらい重いかというと、コンクリートのブロックを放り込んでも浮いてしまうくらいだそう。

「密度が高い」ということは、同じ量を、同じ高さから落としたときに、より多くのエネルギーを取り出せるということ。言い換えれば、同じエネルギーを得るために必要な「落差(高低差)」が小さくて済みます。

従来の揚水発電なら急峻な山が必要だったところが、もっと緩やかな丘くらいでも成立するかもしれません。

「重いけどサラサラ」という矛盾を解決した

image; RheEnergise

これを実現させるために、彼らはテクノロジーで「矛盾」を解決しました。

密度が高い流体は粘度(どろっとした度合い)も高くなりがちです。たとえば、ハチミツは水より重く、とろとろしていますよね。パイプへ通そうとしても、ねっとりと進むばかりで水みたいにはスムーズに流れません。せっかく流体の密度を高くしても、うまく動かせないと意味がない。

欲しいのは、密度が高いけど水みたいにサラッとした流体です。これだけ書いても意味不明ですよね。

RheEnergiseはイングランドのエクセター大学と共同で、この矛盾を解決しました。細々書くと難しいので省きますが、ざっくり言うと質量のほとんどが固形粒子で構成された液体、みたいなものを作った。

身近なところだとケチャップに近いイメージでしょうか。容器を傾けただけでは出てこないけど、ぐっと押し出すと流れ出てくる。あの感覚に近いかもしれません。

さらに環境にも配慮してあって、万が一液体が流出しても、土壌や地下水に浸透しないような設計になっているといいます。抜かりない。

日本にとってのチャンスになるか?

image: RheEnergise

RheEnergiseは2026年1月、パイロットプロジェクトでピーク出力500キロワットの発電に成功したと発表しました。

上部貯水槽は地上80mの高さに建設され、直径2.5mのグラスファイバー製パイプで下部貯水槽と接続。両タンクは地中に埋設され、地上には発電機・ポンプ・流体管理システムを収めたパワーハウスのみが露出するという構成です。

商業化プロジェクトでは5メガワットのタービンを2〜4基用いた10〜20MWの出力を想定しており、2028年末までに初の商用システムを稼働させることを目標としています。

日本の国土は約61%〜75%が山地・丘陵地で占められる「山の国」。もし、この技術が進んで、都市近郊の丘陵地帯でも揚水発電所を設置できるとなれば、再生可能エネルギーをさらに活用する手段として期待できるはずです。

ただ、現段階で見えている課題もあります。初期投資が大きく、どうしたって土木工事も必要です。ナトリウムイオン電池、フロー電池、圧縮空気蓄電など、競合技術も急速に発展しています。RheEnergiseによれば「8時間蓄電の条件ではリチウムイオン電池システムの半分のコストになる」と試算しているそうですが、実証はこれから。

でも、世界中で活用されてきた古い技術を、たった一つの変化で「最新の手段」に変えるなんて、なかなかエレガントな発想の転換じゃないかと思うんです。かっこいいなぁ。

Source: IEEE Spectrum , RheEnergise

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