『ばけばけ』芋生悠×髙石あかりの“語り”の違いが浮き彫りに イセの言葉に足りない“何か”
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第103話では、トキ(髙石あかり)が古い言い伝えに詳しいイセ(芋生悠)を松野家に連れてくる。
参考:『ばけばけ』第104話、イセ(芋生悠)が自身が“呪われている”話を始める
イセはトキが道端の地蔵で手を合わせていたときに出会った、なんだか怪しい女。通りかかった農家の男によれば、イセは「呪われた女」として知られているらしい。
それでなくても第103話はなんだか不安がつきまとう回だ。ヘブン(トミー・バストウ)の勤めている学校はいよいよ閉校が現実味を帯びてきて、同僚のロバート(ジョー・トレメイン)は東京で次の職を見つけたそう。親切にもロバートは、ヘブンにも職があるかを聞こうとしてくれるが、ヘブンは「自分は物書きでいく」と断る。だが、「書けるのか?」としきりに聞いてくるロバートの言葉にだんだん自信がなくなってきているのが、沈んでいく表情で見てとれた。
さらに、司之介(岡部たかし)はこんなときに投資で大損。以前に小豆で儲けた利益分をゼロにしてしまった。司之介の過去の所業を考えるとマイナスにならなかっただけまだよかったと安心しそうになるが、「蓄えはあったほうがよかったんです」というフミ(池脇千鶴)の言葉はごもっともだ。
そんな中、松野家ではヘブンの作家魂に火をつけるべく、それぞれがもちよったネタの発表会が開かれ、トキはイセを連れてくる。一方、清一(日高由起刀)と丈(杉田雷麟)はイセを「呪われた女」と呼んだ男を連れてきた。2人ともこのあたりに知られる言い伝えをよく知っているとのことだ。
イセは怪しい雰囲気たっぷりで、ふすまと人の死に関わる言い伝えを語った。ゾクッとする語り方にトキとヘブンは目を輝かせる。しかし、詳しいことを聞こうとしたヘブンの質問にはしどろもどろ。「言い伝えには疑問は挟まないもの」というイセの言葉に納得はできるのだが、“何か”が足らない気がしてしまう。
怖い話=怪談を語るにしても、トキの語り口には不思議な力があった。たとえば最初の頃によく語っていた『鳥取の布団』を思い出してみよう。布団から聞こえる「兄さん寒かろう」「おまえ寒かろう」の声に怯える旅の行商人、怪奇現象に困る宿屋の主人、そして布団に染み付いた悲しい兄弟の物語。同じ話を語らせたら、イセは彼女の持つ不穏な空気感もあって、この怪談をより怖いものとして聞かせてくれるかもしれない。だが、トキは怪談の登場人物たちにその立ち居振る舞いが目に浮かぶような“生気”を感じさせ、怪談をただの怖い話としてではなく、人々が生きた中で起きた悲劇として語ってくれる。怖さと生気は相反するものだが、トキはその2つがうまく混ざり合って独特な臨場感を生み出していた。ここへきて、ヘブンが周囲から聞いた怪談をトキの言葉で語らせたがった理由が少しわかった気がした。
もちろんトキの好きな怪談とイセの語った言い伝えはちょっと異なるものだが、ヘブンの問いに対して尻すぼみになっていくイセの受け答えを聞いているとトキの怪談語りがなんだか恋しくなってしまう。
それでも、すでにクマ(夏目透羽)も知っていた言い伝えを語る男とイセの話なら、どちらがヘブンの心を掴んだのかは明らかだった。果たして、イセは次に何を語るのか。(文=久保田ひかる)
