この記事をまとめると

■最近のタクシーはアプリのおかげで稼げる仕事といわれてきた

■タクシーは仕事中ひとりで気楽ということもあり若者から注目されている

■実際は営業所内で人間関係が複雑になることもあり気楽な仕事ではない

若者がタクシー業界に興味をもち始めている

 スマホアプリ配車サービスの普及は、タクシーでの稼ぎ方を革命的といえるほど大きく変えた。かつては東京23区などの大都市を除けば、駅待ちをして客を目的地まで送り届けたあと、無線が入らない限りは空車で駅へ戻るのが一般的な動きだった。無線配車も、特定のグループに加盟していなければ事業者ごとに無線センターを設ける必要があり、利用者が各社に電話して呼ぶという、今から見れば非合理な仕組みとなっていた。

 しかし、アプリが普及すると、駅で客を待つ必要が少なくなった。ネットワークの大きなアプリサービスに加盟していれば、降車地点のすぐ近くで新たな配車依頼が入るようになり、実車率(客を乗せて走る割合)が飛躍的に向上した。営業区域内であれば、滅多に行かない場所へ向かったとしても、現地で次の仕事が入る。

 たとえば、東京から千葉県の有名テーマパークへ向かうインバウンド客は意外に多いが、到着後にアプリを通じて東京へ戻る客とマッチングされることも増え、帰路も実車となるケースが目立っている。デジタル革命によって従来の稼ぎ方の既成概念が打ち破られた結果、東京23区の運転手では年収が1000万円に近いケースも珍しくないという。

 かつての運転手は、長年のキャリアで独自の稼ぎ方を確立し、ベテランならではの勘働きを駆使して客のいそうな通りを流すといった職人気質が必要とされていた。しかし現在では、アプリを使いこなせれば経験が浅くとも高収入が見込めるため、若い世代からも注目されているとの報道もある。

 さらに、若者が魅力と感じる点として休みが多いことも挙げられている。タクシーの勤務形態は一般的に隔日勤務だ。これは1回の乗務で休憩を含めて約20時間拘束される働き方である。かつては早朝に出庫し、翌日の未明に戻るというイメージだったが、現在は拘束時間の管理が厳格化された。

 また、アプリの普及により需要のピークも変化した。以前は終電後の酔客や残業明けの需要がゴールデンタイムと呼ばれたが、今はスマホで気軽に呼べるようになったことで朝の通勤時間帯がピークとなり、日中のインバウンド需要も重要な稼ぎどころとなっている。そのため、午後に出庫して翌日昼前に戻るというシフトを組む事業者も現れている。

 隔日勤務の場合、勤務明けから次の勤務まで一定の時間を空ける必要がある。月曜朝に乗務して火曜未明に帰庫すれば、次は水曜朝の乗務となる。この間の時間は世間では休みと捉えられがちだが、正確には明け番と呼ばれ、乗務時間とセットで扱われる。決して一般的な休日ではない。

タクシーは思っているほどラクな仕事ではない

 法律では、「20時間近い乗務のあとは次の乗務まで22時間以上の休息を与える」と定められている。これは安全運行のための備えであって、日祝祭日のような休暇とは性質が異なる。現実には明け番に副業をする者もおり、その時間をどう使うかは個人の自由だが、だからといって休みが多いとするのは誤解を招きやすい。

 正確には、隔日勤務と明け番のセットの合間に、公休日という正式な休みが月に4〜6日設定される。タクシー運転手は休日が多いのではなく、一度に集中して働くぶん、仕事のあとに自由に使える時間がまとまって取れるという表現が適切だろう。

 デジタルツールの普及で稼ぎやすくなり、自由な時間が確保できる。ここまでは若者にとっても魅力的に映るが、報道では煩わしい人間関係がないこともメリットとして紹介されていた。

 確かに、一度車庫を出ればひとりの時間だ。しかし、タクシー業界は労働集約型産業であり、車庫に戻れば多くの同僚がいる。その様子はまるで学校のクラスのようであり、一般企業よりも人間関係が複雑だという見方もある。

 人間関係を完全に無視することも不可能ではないが、隔日勤務では1台の車両を2人の運転手で共有することが多い。そうなれば相方との関係構築は不可欠だ。洗車が雑であればクレームが来るし、大規模な営業所では派閥のようなものも生まれる。

 また、常連客を仲間に紹介しあうといった協力体制が必要な場面もあり、同僚との付き合いを完全に断つのは難しい。個人タクシーであればさらに人間関係が重視される。組合への加盟や、運転手同士のグループで上得意客を融通し合うといった慣習も珍しくない。

 筆者の私見ではあるが、客売売である以上、タクシー運転手の人間関係に伴う精神的負担はサラリーマンよりも重い側面がある。その点は覚悟して入職すべきだろう。

 結論として、世間に浸透している、タクシー運転手は組織や人間関係に縛られない気楽で簡単な仕事だというイメージは、実態とはかけ離れている。そして、こうした世間の誤解こそが、長引く運転手不足を招く隠れた要因のひとつではないかと考えている。