FDAが承認した「うつ症状軽減」のための電気ヘッドセット
うつ症状軽減のための電気ヘッドセットデバイスが日本にもやって来そうです。
2025年12月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、スウェーデンのFlow Neuroscience社が開発した「tDCS(経頭蓋直流電気刺激)」方式のヘッドセットを、大うつ病性障害(いわゆる「うつ病」)の治療デバイスとして承認しました。
家庭で自己管理できるtDCSデバイスがFDAの正式承認を得たのは、これが初めてのことです。
そもそも「頭に電流を流して治療」とは?
tDCSとは、頭皮に貼り付けた電極を通じて、2ミリアンペアほどのわずかな直流電流を脳へ送る技術。
電気を使った治療と聞くと、AED的な「電気ショック」のような激しいものを想像するかもしれませんが、それとは別物。副作用といっても電極部分の皮膚が若干赤くなる程度だといいます。
薬の副作用だと体重の増加や機能障害が起きることもあると聞きますから、その点でも嬉しいところですね。
Flow Neuroscienceのデバイスの仕組みとしては、うつ病患者のMRIを見ると「左背外側前頭前皮質」という領域の活動が低下してしまうそうで、そこへ微弱な電流を与えてこの領域のニューロンを刺激し、再活性化を促すというもの。
「tDCSは非常に安全な技術です。だからこそ今回のような承認を得ることができました。ただ、見た目がSFっぽくて怖そうに見えてしまうんですよね」と語るのは、Flow Neuroscienceのエリック・レーンCTO。
試験結果は「薬物治療に代わる可能性」を示す
FDAへの承認申請に際した臨床試験は、患者が2ミリアンペアの電流を受ける30分間のセッションを週5回で3週間、その後は週3回を7週間継続する方式で行なわれました。
その結果、治療に反応した患者の割合は58%に上り、プラシーボ(偽の治療)を受けたグループの38%と比べて有意な差が確認されています。
ロンドン・イースト大学の精神科研究者で、臨床試験のサイトリーダーを務めたシンシア・フー氏はこう話しています。
tDCSは単独でも有効な患者がいますし、既存の治療計画と組み合わせても機能します。ただ、効果には個人差があり、誰に最も適しているかを理解することが重要です。
ここで重要なのは、FDAの承認文書が、tDCSを「他の治療が失敗した後の代替手段」としてではなく、「第一選択肢」としての使用を示唆している点です。つまり、抗うつ薬を試す前から選択肢になり得るということです。
保険適用の範囲、うつ状態の患者が治療スケジュールを守り続けられるかといった実用的な問題は、今後数ヶ月かけて整理されていく見通しです。
競合も登場。「電気でうつ症状を軽減する」市場が動き始めた
さらに2025年1月には、イスラエルのNeurolief社も家庭用ヘッドセットデバイスのFDA承認を発表しました。
こちらはtDCSではなく異なる神経刺激方式を採用しており、特に抗うつ薬で効果が不十分だった患者を対象としています。「電気でうつ症状を軽減する」という市場が、ここへ来て急速に動き始めているようです。
Flow Neuroscienceのデバイスは、すでにEUとイギリスでは処方箋なしで購入可能であり、グローバルで「家庭用うつ症状軽減デバイス」を普及させようとしています。
実は、日本でも近いうちに展開が期待できそうなんです。
日本市場への参入に強い意欲を示しているだけでなく、キリンホールディングスやグローバル・ブレインが投資家として参画していて、日本における臨床試験も決定したといいます。
日本の規制環境は確かに厳しいものの、当社は承認を得るために臨床試験を実施する強力なパートナーを選定中です。2026年までに試験を開始することを目指しています。
と、Flow Neuroscienceのエリン・リーCEOはインタビューに答えています。
うつ病は誰にでも起き得る、それでいてすごく難題な悩みです。薬を飲むことへの抵抗感や精神科受診へのハードルもまだまだ高い。誰でも使える「うつに対処する」選択肢が増えること、それ自体が希望になるのではないかと思うのです。
Source: IEEE Spectrum , TECHBLITZ , キリンホールディングス

