『ばけばけ』(写真提供=NHK)

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 貧乏長屋から望める松江城の景色。ヘブン(トミー・バストウ)が興味津々だった月照寺の大亀。トキ(髙石あかり)が恋占いの結果に振り回された八重垣神社の鏡の池。

参考:『ばけばけ』第87話、司之介(岡部たかし)が顔に怪我を負ってしまう

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』では、島根県に今も残る名所が数多く登場している。ヘブンとトキのモデルとなったラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と妻のセツが出会い、ともに暮らした松江の風景は、物語の節々で印象的に映し出されている。

 特に視聴者にとって忘れられない風景となっているのが、「日本百景」のひとつにも数えられ、小泉八雲の著書『知られぬ日本の面影』にも登場する宍道湖の夕景だろう。第65話で見えないお互いの気持ちに気づいたトキとヘブンは、橋の上で散歩の約束を交わす。ハンバート ハンバートの主題歌「笑ったり転んだり」が流れたあと、手を取り合う2人の背景には宍道湖の水面に沈む夕日が幻想的に映し出される。本作を振り返る際には間違いなく思い出すであろう神秘的な情景だった。

 島根県を舞台にした「朝ドラ」は『ばけばけ』のほかにもある。『だんだん』(2008年度後期)で、主人公のひとり・田島めぐみ(三倉茉奈)が生まれ育つのは松江市。さらに、彼女は縁結びの神様として有名な大国主大神が祀られた出雲大社で、双子の姉妹である一条のぞみ(三倉佳奈)と運命的な出会いを果たす。

 さらに、島根県を舞台にしたドラマとして大きな話題を集めたのが、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)だ。妖怪漫画の金字塔『ゲゲゲの鬼太郎』などを手がけた水木しげると妻の布枝をモデルに、極貧生活を営みながらも、ひたむきに漫画に打ち込む夫婦の二人三脚の軌跡を描いていく。物語の始まりは、ヒロイン・布美枝(松下奈緒)が生まれ育った島根県の安来地方。出雲富士とも呼ばれる大山が見える場所で、彼女は10歳年上の漫画家・村井茂(向井理)と見合いをし、そのわずか5日後に結婚式を挙げる。その後は東京の調布市に移り住むものの、安来で育まれた布美枝の辛抱強さは、長きにわたって苦境に立たされた漫画家の茂を支える力となった。

 また、島根県がロケ地になったドラマといえば、放送当時に熱狂的なムーブメントを巻き起こし、今夏には続編の放送が決定している日曜劇場『VIVANT』(2023年/TBS系)の名前を挙げないわけにはいかない。

 壮大なスケールで描かれる本作では、2カ月半にわたってモンゴルロケが敢行されるなど、地上波の連続ドラマでは滅多に観られない、本物の砂漠を歩く登場人物たちの姿が映し出される。しかし、そんな異国の雄大な景色がたびたび登場する本編のなかでも、主人公・乃木憂助(堺雅人)の父親でもある卓(林遣都)が幼少期を過ごした可部屋集成舘/櫻井家住宅・庭園や、卓と明美(高梨臨)が結婚式を挙げた出雲大社は、重厚なドラマに負けず劣らずの荘厳な雰囲気を醸し出していた。

 本作の監督を務める福澤克雄は、2004年に放送された日曜劇場『砂の器』(TBS系)でも島根県でロケを敢行しており、何かとこの土地に縁が深い。本作のロケ地にもなった島根県庁前で行われたインタビューで、福澤は「世界に向けて投げかけたいドラマにしたいと思っている。そのためには島根の映像が必要だった」と述べている(※)ように、神秘的な自然の風景と神社仏閣などの歴史的な建造物が多く残っている島根県は、『VIVANT』の世界を確固たるものにするうえで欠かせない役割を果たしていた。

 また、島根県では、テレビドラマのロケ地となったスポットの情報などを発信し、観光客の誘致に繋げる「ロケツーリズム」の推進事業にも取り組んでいる。『VIVANT』放送当時は、本編に登場するモンゴルの砂漠にあやかり、鳥取砂丘を大々的に宣伝するなど、積極的にPR活動を行っているのが印象的だった。

 トキとヘブンの出会いを筆頭に、さまざまな思い出が残る島根。しかし、2人は松江で夫婦として1年を過ごしたあと、この土地を離れて熊本へと移住する。松江を離れた理由のひとつが、山陰地方特有の寒さとも言われており、寒がりのヘブンにとって松江の冬はそれほどまでに耐え難いものだったのだ。見慣れた松江での日々はもうわずか。今のうちに、島根県の風景を目に焼きつけておきたい。

参照※ https://youtu.be/C_RY9IofM6c?si=wh12BiL6QqhTJsFW(文=ばやし)