「事前期待」でビジネスを再設計する!「頑張ってるのに、これ以上の成果が出ない」を乗り越えろ/松井 拓己
多くのビジネスパーソンが、顧客を満足させようと日々奮闘しています。新しい企画を考えたり、サービスの改善に知恵を絞ったり...。しかし、「頑張っているのに成果が出ない」「なぜか競合に勝てない」と、努力が報われない壁にぶつかっていませんか?
それは、努力やセンスが足りないからではありません。これまでの「やり方が成熟した」こと、そして、高い顧客価値を生み出すための「設計図」が組織にないことが原因かもしれません。
もし、これまでの成果が個人の経験やセンスに頼る「属人化」で成り立っているなら、それは限界を迎えています。あるいは、「成熟」して、成長が高止まりしていることでしょう。今こそ、その属人化を打破し、ビジネスの成長(あるいは再成長)をドライブできる「価値の設計図」という新しい羅針盤が必要です。
今回は、新刊「事前期待〜リ・プロデュースから始める、顧客価値の再現性と進化の設計図〜」の第一部から、事前期待を基点にした「価値の設計図」の描き方と、価値の高め方について考えます。
成果が出ないのは「価値の設計図」がないから
私たちが取り組むべきは、高い顧客価値を生む「得点型」のサービス設計です。この設計図を確立するために、次の2つのシンプルな問いに答える必要があります
1. 「顧客のどんな事前期待に」(価値の設計)
2. 「我々はどうやって応えるのか」(打ち手の設計)
ほとんどの企業は、新サービスや提案といった「打ち手の設計」ばかりを考えてきました。しかし、本来最も重要であるはずの「どんな事前期待に応えるのか」という「価値の設計」の議論が、ほとんどされていません。
設計図がないままでは、現場で誰かがたまたま素晴らしい成果(成功事例)を生み出しても、それが「事前期待を捉えずに闇雲に振り回した」結果に終わってしまい、他の社員に展開しても空振りに終わってしまいます。再現性のない成功事例は、結局「面白い話だけど、役に立たない」と形骸化してしまうのです。
組織的に安定して高い価値を生み出し続けるには、「事前期待と打ち手をセット」にした設計図――それが「事前期待の的」です。
「事前期待の的」を描くプロセスは、暗闇の中で宝を探すようなものです。従来の「打ち手」に注力するアプローチは、ただ闇雲にスコップを振り回すことに等しく、運が良くなければ宝(成果)は見つかりません。しかし「事前期待の的」という設計図を持つことで、まるで高性能な金属探知機(価値の設計図)を手に入れたかのように、掘るべきポイント(的)を絞り込み、組織全体で効率よく、確実に宝(成果)を見つけ出すことができるのです。
実践!属人化を組織の力に変える「3ステップ」
個人のセンスではなく、組織の力で価値の再現性を高めるための土台作り、すなわち「リ・プロデュース」から始めましょう。この初期段階で、現在応えられている事前期待を整理し、「価値の設計図」をモデル化します。
このプロセスは、難解なものではなく、「サクッと活用すれば成果が出る」ことを重視した「ファスト・サイエンス」の精神で進められます。まずは次の3ステップで「事前期待の的」を描いてみましょう。
【ステップ 1】分類軸を挙げよう
顧客が商品やサービスを利用する前に漠然と抱いている「こんな風だったらいいな」という願望(事前期待)を、思いつく限り洗い出します。
例えば、「迅速に対応してほしい ↔ 丁寧に対応してほしい」、「なるべく安く済ませたい ↔ 納得できれば高くても良い」。このように、対立する概念で表現すると、議論が深まりやすいです。10分もあれば15〜30個はリストアップできるはずです。
【ステップ 2】候補の中から3本選ぼう
リストアップした多数の候補から、「これだけは外せない」という軸を勇気をもって「3本」に厳選します。この絞り込み作業こそが、「何に注力すべきか」を明確にするための、熱い議論のきっかけになります。
【ステップ 3】的を見定めよう
選んだ3本の軸で区切られた8つの事前期待タイプのうち、的(ターゲット)とするタイプを3つ前後に絞り込み、◎や〇を付けます。
ただしここで、 「すべてのお客様を満足させたい!」と、すべてのエリアに〇を付けてはいけません。現場がパンクし、結局「絵に描いた餅」に終わってしまいます。的を絞ることで、現場のメンバーは「何をすべきか」が明確になり、属人的な努力ではなく組織的な再現性が生まれます。
「無難の壁」を突破し、設計図を磨き上げろ
いざ設計図を完成させても、「なんかピンとこない」「間違ってはいないけれど、イマイチ無難だ」と感じることがあります。これが、成果に直結しない設計図を生み出す「無難の壁」です。
この壁の原因の多くは、「失点撲滅の思考」にあります。クレームや不満をなくすことに焦点を当てると、結果的に「当たり前の期待」に応えるための設計図にしかなりません。また、「現状の説明にしかなっていない」、「提供者(会社)の都合でしか顧客を捉えられていない」場合も無難なものになります。
無難の壁を突破し、設計図をブラッシュアップする思考のヒントの一部を挙げておきます。
• 抽象的な言葉を封印する
「ブランド力」「付加価値」といった耳障りの良い抽象語は、具体的な行動につながらないので封印します。代わりに「事前期待フリップ」を使い、「この技術力は、顧客のどのような事前期待に応えられるのか」と、具体的な顧客の言葉に置き換え直します。
• 二歩手前の期待に着眼する
顧客が最終的に望む「大満足」「リピート」という結果(二歩先)だけを見るのではなく、その「二歩手前」にある、より具体的なプロセスへの事前期待に着目します。
ブラッシュアップを重ねて本質的な「的」を見定めることで、「リ・プロデュース」(現在の価値の再現と再設計)の土台が固まります。
価値の「伸びしろ」は「事前期待の穴」にあり
リ・プロデュースが完了し、現在の価値が可視化されると、次に「価値の伸びしろ」が見つかります。それが「事前期待の穴」です。
これは、顧客が心の中で「応えてほしいと思っているのに、現状のサービスでは満たされていない期待」です。この穴は、実は簡単な「穴埋め問題」として捉えられます。
「穴」さえ見つかれば、そこに焦点を絞って「小さな努力」をするだけで、大きな成果を出す道筋が立ちます。この、「これからどの事前期待に応えるべきか」を明確にするアプローチが「深度1価値化」です。
この「価値の設計図」は、ビジネスを成長させるための強固な土台となります。
この土台があれば、今後はさらに、顧客との約束をコントロールする「事前期待のマネジメント(深度2)」や、顧客と一緒にサービスの意味そのものを「進化」させていく深度3へとステージアップできます。過当競争に疲弊するのではなく、顧客と深く信頼関係を築き、共に新しい価値を創造する道を目指しましょう。
