画像:進撃のノアInstagramより
<亀山早苗の恋愛時評>

次々と報道される有名人の結婚離婚。その背景にある心理や世相とは? 夫婦関係を長年取材し『夫の不倫がどうしても許せない女たち』(朝日新聞出版)など著書多数の亀山早苗さんが読み解きます。(以下、亀山さんの寄稿)

◆「オープンマリッジ」という言葉を使った、単なる浮気宣言?

 人気YouTuberのヒカルさん(34歳)と、元キャバクラ嬢で実業家の進撃のノアさん(30歳)が「交際0日」で電撃結婚したのは今年5月。そして9月に、ふたりは揃って動画に出演、その中でヒカルさんが「オープンマリッジとしてやっていく」と宣言した。これがすさまじい勢いで拡散されて炎上、ヒカルさんのYouTubeフォロワーは一気に20万人減少したという。動画の中では、ヒカルさんが「簡単に言うと浮気OKです」と軽く言っているのが印象的だった。

「ハーレムを作って、そこにノアを入れたい」と言い、それに対してノアさんは「それは嫌だ」と返したり。「浮気されたら、こっちもしてやる」といった、やられたらやり返す的な発言もあり、これはどうも「オープンマリッジ」という言葉を使った、単なる浮気宣言にすぎず、きちんとコンセンサスが得られているわけではないと誰もが思ったのかもしれない。

◆「結婚とは何か」「愛情とは何か」を問いかける

 オープンマリッジというのは、1973年にアメリカの社会学者オニール夫妻によって提唱された、社会的、性的に独立した個人を認め合う結婚のひとつの形だ。夫婦が所有欲、独占欲、嫉妬心に妨げられず、自由に愛人を作れることを主としているのだが、これはアメリカの性革命のひとつの帰結点ともいえる。

 しばらく前から、アメリカでは性革命が進行しており、そこでは特にフリーセックスが強調されるわけではなく、性を楽しむことそのものへの議論が活発になっていた。そこへ60年代後半からのヒッピー文化がカウンターカルチャーとして性革命に絡み、愛と平和、反戦を訴えて、一時期、若者たちの支持を得た。そんな時代を映す文化や反体制勢力などがいっせいに噴出した中で発表されたのが、オープンマリッジだったわけだ。

 オープンマリッジは、ある意味では結婚制度に対する暴論なのかもしれないが、それでも「結婚とは何か」「愛情とは何か」を問うにはじゅうぶんな影響があった。日本には根づかないとも言われているが、日本では多くの人が「制度」を甘受する傾向があるからかもしれない。実際には不倫する既婚者は多いのだが、「隠れてこそこそ」が常だ。結婚が「愛情よりも生活ベース」だから、どうしたら愛情を維持していくかの議論もなされていない夫婦が圧倒的多数なのではないだろうか。

◆夫婦間の関係が最優先、という確認ができているか

 本来、オープンマリッジを宣言するには、お互いの性的嗜好はもちろん、嫉妬や独占欲についてどう考えるのか、どちらかがやめたくなったらどうするのかまで議論が尽くされなければならないはずである。そして大事なのは、常に「夫婦間の関係が」最優先であるという確認ができているかどうかだ。通常の夫婦関係より、愛情を詳細に深く考えなければ、こうしたことは実践できない。

「うちはオープンマリッジです」と声高には言わないが、実践している夫婦は少なくない。筆者はそういう夫婦を取材してきたが、夫婦10組いればルールは10通りあるといってもいいだろう。

 ある夫婦を例にとる。夫、あるいは妻が、外に好きな人ができたとする。デートをするようになる。関係をもつ。その事実をパートナーに伝えるかどうか、どこまで詳細に話すのか。これも取り決めのひとつとして重要だ。

 その夫婦の場合「夫は妻の婚外恋愛に興味があり、誰とどういうデートをするのか詳細に聞きたがる」のだという。妻の恋愛相手が嫌がらなければ、自分に紹介してほしいとまで言っていた。妻が失恋したときは、夫が寝ずに慰めたそうだ。