●米中対立下の米国の高圧経済環境

 米国経済のソフトランディングはほぼ確実、企業収益は2023年第2四半期(2Q)を底に回復に転じている。背景に米国で高めの需要を維持し、大恐慌型の供給力過剰・需要不足状態を回避しようとする高圧経済政策が機能していることがある。

 積極財政策(対GDP比財政赤字6%という高水準)に加えて、新産業革命、AI(人工知能)・ロボットを駆使してのイノベーション、その結果としての企業の生産性の上昇、好業績も大きい。企業の高利潤は配当と自社株買いを通してほぼ社会に還元され、資産所得による新規の需要・雇用創造が進められている。

 当然、潜在成長率は高まり、自然利子率が上昇する。「Higher for Longer(より高く、より長く)」、高金利の維持とは、経済の自力が高まり、これまでのような低金利ではインフレやバブルなどの過熱を招くという恐れが高まっていることを示している。前回レポートで紹介したFEDモデルに基づけば、長らく割安であった株価が、現在の金利水準で見れば適正水準となってきており、バブル化するリスクが強まっている。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は過度の株価上昇を警戒するだろう。この米国の突出した経済の強さと金利高はドル高をもたらす。覇権国通貨ドルはその強力な技術優位と企業の稼ぐ力により、さらに強化されていくだろう。強いドルは、米国が海外から安く仕入れ海外に高く売ることを通して、米国に不当と思えるほどの交易利得とシニョリッジ(=返済義務のない借金)をもたらす。強いドルによって倍加される米国の経済優位性は、時間をかけつつ専制諸国家を圧倒していくに違いない。米国に対抗して向こうを張る中国の通貨不安と対比すれば、覇権争いの経済的帰結はほぼ明らかではないか。

(2)地政学展開の帰趨、トランプ再選でも不安なし

 このように経済と金融市場面からは2024年は明るい年と観測されるが、人々の心理は暗い。中国による台湾侵攻の可能性の高まりに加え、ウクライナ侵略ではロシアが優勢に立ち、ハマスによるイスラエル攻撃とイスラエルの反撃など中東の争乱にも終わりは見えず、国際法に基づく国際秩序は大きく揺らいでいる。

 米国のプレゼンスの低下が大きい。オバマ政権が米国は世界の警察官の任には堪えられないと言い、トランプ政権はMAGA(Make America Great Again:アメリカを再び偉大な国に)を唱えて同盟軽視を強めた。中国が異例のスピードで軍事増強を進める中で、米国防衛予算は、米ソ冷戦末期のレーガン時代の対GDP比7.7%から2022年には3.6%と半減した。この地政学混乱の根本原因は、米国覇権の衰弱にある。まるでパンドラの箱を開けた如くである。

 専制国家専横の悲劇はウクライナを見れば明らかで、世界は世界の警察官たる米国覇権の強化を求めているが、それがおぼつかない。台湾総統選挙における民進党・頼候補の勝利は好材料であり、台湾人が台湾の香港化を拒否したことの意義は極めて大きい。

 にもかかわらず、消えない悲観の根源は、アメリカの世界覇権維持の意志が疑われているからである。支持率が高まり、次期大統領の可能性が最も高いとされるトランプ氏に孤立主義の臭いがある。米国の政治意志が確かめられるのは2024年大統領選挙の後であり、当分不安が続く。

 確かにトランプ氏の選挙アジェンダとして「輸入関税10%、移民規制&禁止(イスラム教国から)、対中MFN(最恵国待遇)撤廃、反環境石油・ガス増産、EV(電気自動車)シフトの再考、公務員人事制度に介入し解雇を容易にするなど強権(独裁色)強化、伝統的価値観の復興、NATO(北大西洋条約機構)離脱、同盟関係再構築(?)、核拡散容認など米国国益を基準とした、よりラディカルな国際秩序の再構築」などが報道されている。孤立主義の傾向は否定できない。