コネで強制入学、日常的なDV…親ガチャから解放されないと語る30歳女性の苦悩

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「みんないいですよね、帰れる家があるから。頼れる人がいるから……。私は“後ろ盾がない”と思いながらずっと生きてきました」

こう話すのは東京都に住む30歳の女性Yさんだ。

今年、『親ガチャ』という言葉が流行した。ガチャガチャで出てくるアイテムのように「子供は自分で親を選ぶことができない」という意味で、ネットを中心に広がり、今年の『流行語大賞』にもノミネートされた。

そして、Yさんも「親ガチャに人生を左右された」と語る女性の一人だ。Yさんは「始まりは小学3年生のころでした」と振り返る。

「母はもともと心の病を持っていたのですが、悪化して、ほぼ寝たきり状態になりました。育児放棄のような状態になってしまって、私は朝ごはんを食べずに学校へ。洗濯を自分ですることになったのですが、昼は学校に行っているので夜しかできません。朝になっても完全には乾いていないので、仕方なく生乾きの服を着て学校に行っていました」

いっぽう、父親はYさんが必死に家事をこなしても手助けしなかったという。

「父は公務員で、忙しなく働いていました。始発で仕事に行って、終電で帰るという生活を送っていたので、家のことには全然関わっていません。

それに父は高圧的な性格で、幼い頃から理由もわからないまま殴られていました。嫌なことを言われて泣かされたりも……。でも父は『なんで泣いてんの?』って半笑いでした。母にずっと怒鳴っている人でもあったので、『お母さんが病気だから、家族に時間を割いてほしい』といっても伝わりませんよね」

■コネで中学へ。しかし、不登校

家事やDVに苦しむいっぽうで、勉強にも精を出していた。実は名門中学校に入学するべく、小学校に入学した直後から塾通いを始めていたのだ。

「塾のクラスではたびたび1位を取っていました。当時は勉強ができたほうだと思います」というYさん。しかし、中学受験の直前に異変が起こった。

「あれほど勉強にうるさかった父が、急に『塾に通わなくていい』と言ったんです。それで、なぜか中高一貫の別の名門校に通うことになりました。しかも受験することなく、入学金も免除。『変だな』と思っていたら、父と職業上ゆかりのある人物とそこの学長が“親密な関係にある”と知って……」

Yさんは「コネだ」と勘づいた。

「父はもともと権力への憧れがあったんです。だから地位の高い人にいい顔をしたり、学長と深くつながったりしたかったんだと思います。でも入学したのは間違いでした。学校は都市部にあるいっぽう、私は東京の田舎出身。電車で片道1時間なので、通学がとにかくキツかった。それにクラスにはお金持ちの子ばかり。生活水準が違うので、話が合わなかったんです」

さらに中学校に入学してすぐに、頼りにしていた祖父が亡くなった。

「母も父も頼れないなか、唯一の心の拠り所でした。家が近かったので、夕食を作ってくれることもありました。実家で感じる不安も相談できましたし、今思えば、祖父が“ライフライン”だったんですよね。

でも、そんな祖父が亡くなったことで、学校生活も辛い。中学に入ってから、私の心はグチャグチャになっていきました」

そしてYさんは不登校となり、“引きこもり“となった。

■またもや父の都合で進路変更することに

しかし、「本当の地獄は家にあった」と回想する。

「父は私が不登校になったことが許せなくて、毎朝殴り続けました。母もヒステリックに『家族を巻き込むな!』『学校行かないなら私を殺せ!』と叫んで……。でも子供だから、自分のことなのに『なぜ学校に行きたくないのか』がわからないんですよね。そういう自我の葛藤もありました。

このころ、母の精神面はどんどん悪い方向に進んでいきました。私はずっと家にいるので、母の変わっていく様子と今まで以上に対峙することになるんですね。母は心療内科に処方された薬を飲むと朦朧とし始めて話が通じなくなるので、そういう姿を見るのも苦痛でした」

中学二年生になると、クラスが変わったこともありYさんは週3日のペースで通うように。しかし三年生のとき、「中高一貫の学校だけど高校には行きたくない」と両親を説得。そして、高校を探すことにした。

「でも、苦戦しました。中学にほとんど通っていないので、小学生レベルの学力しかなかったんです。なんとか、ある高校に巡り合ったのですが……」

喜びもつかの間、再び事件が起こる。

「手続きをして、入学式にも参加して『さぁ、これから』というときに父が『退学しろ』と急に言い始めたんです。『学長と教育方針が合わない』と言うんです。そんなの入学前にわかってたでしょ、と思うのですが(笑)。父は自分の思い通りに物事が進まないと何をしでかすか分からない人なので、結局黙って転校することにしました」

■両親は離婚。母は再婚後に自殺未遂

父に人生を振り回され続けるYさん。怒りを覚えなかったのだろうか?

「父の性格もわかっていたし、その頃から『人生どうでもいい』という気持ちがどこかにありました。『はい、いわれた通りにします』みたいな(笑)。次の学校もすぐ不登校になって、高校1年生の夏休み明けから通信制に通うこととなりました。

人に囲まれる状況になると不安でたまらなくなるんです。他者を信じられなくて、友達もできない。ずっと父に怒鳴られて育ったので自分に自信もない。何をするにしても怖くて……。なので、通信制は合っていました」

Yさんは「でも、心の悩みを親にいうことはありませんでしたね」といい、こう続ける。

「母と2人きりのときに『ひとを信じるのが怖い』と漏らしたんです。するとある日、父が『人間不信なのお前』って笑いました。父に言いたくないから母にいったのに、筒抜けになるんですね。それが嫌で、口も心も閉ざしました」

Yさんは高校卒業後、大学へ進学。しかし、またもや「人に囲まれるのが怖い」といった不安に悩まされて中退。そのタイミングで両親は離婚した。父と暮らすこととなったが、ある日、一本の電話が。それは離れて暮らす母が自死をはかったという連絡だったのだ。

「実はその時、母親がよくわからない男性と結婚していたんですよ。その人、少し変わっていて病院の先生と話をしても全然通じないんですね。それで、お医者さんに『なんで結婚させたの!』って私が怒られたりして(笑)。その男性は結婚中、突然いなくなって。結局、私が二十歳のときに母は再び離婚しました」

未遂に終わったが、母は措置入院することに。「統合失調症」と診断された。

「私が17歳の時から、母は一人でぶつぶつ話したり妄想でものを言ったりするようになりました。自殺未遂も一回だけじゃないんです。父が怒鳴りながら止めようとして。私はそういうとき、泣きじゃくることしかできませんでした」

■親ガチャの影響で“幸せな生活”を棒に振ることに

大学を中退し、フリーター生活を送っていたYさん。24歳のとき、初めて家を出ることにした。交際相手と同居するためだ。

「父と暮らしてもほとんど会話はなく、『ただいま』も『おかえり』もない。家で顔を合わせても話さない。いつ殴られるかもわからない。経済的には楽でしたが、父との生活はもはや耐えられなくなっていました。それで、付き合っていた人の家に転がり込む形で家を出ました。

パートナーはおおらかな人でした。仕事も楽しかったので、今思えば人生で初めて幸せを感じた時期でした」

Yさんは「同棲生活で、パートナーから“普通の暮らし“を教えてもらいました」という。しかし、同棲を半年で解消する。ようやく手にした幸せを棒に振ったのも“親”が影響していた。

「実家で暮らしていたときは、感情に波がある状態こそ日常でした。でも、心が安定していると感情に波がないわけです。それにすごく違和感が生まれて、『本当にこのままでいいんだろうか』と思うようになって……。

私は、辛かった過去を大事にしすぎていたんです。『辛い人生を送ってこそ自分』と考えていました。同棲生活には辛いことがなかったから、不安になってしまったんです。“大事なもの”を失くしているとすら感じていました」

■苦境で語る“3つの悩み”

Yさんはこの5年間、1人で暮らしている。フリーターで現在30歳の彼女には3つの悩みがあるという。一つ目は精神面だ。

「心の調子に波があって、ひどい時は起き上がれないこともあります。いまだに人がたくさんいると、不安で耐えられません。『これはおかしい』と思って、3年ほど前から心療内科に通っています」

二つ目は「統合失調症になるのでは」という不安だ。

「『私も母のようになるのかな』と考えてしまいます。統合失調症が悪いのではなくて、自分が変わっていくのが怖いんです。

実は母に会うことが怖くて、もう3年ほど会っていません。心療内科の先生は統合失調症を予防する薬も処方してくれていて、『あまり考えすぎないようにしましょう』と言ってくれています」

そして、三つ目は経済面だ。

「私には学力もスキルも、お金もありません。それに精神的にも不安定です。こういう状態で非正規雇用から抜け出すのは、努力では解決できないように感じています。ハローワークでも、なかなか仕事を見つけられません。おまけに今はコロナ禍ですからね……」

Yさんは「元をたどると、父がコネを使って進路を変えたところから私の人生はおかしくなりました。父の高圧的な言動も、私の精神面に大きな影響を及ぼしているように思います」という。最後に複雑な心情を吐露した。

「中学生になるタイミングで、私の人生は私のものではなくなったと感じています。コネなんか使わないで中学校に行きたかった。もしかしたら高校も大学も何事もなく卒業して、今頃正規で働けていたのかもしれない。あくまで仮定の話ですが……。でも、どうしてもそう考えてしまうんです」