トイレを探す人で通路は混雑

■設計案とは違う “むき出し施工”

 5月9日、東京五輪に向けた、陸上競技の「東京2020テストイベント」がおこなわれた。会場は建築家の隈研吾氏が設計を担当し、周囲の自然と調和する「杜のスタジアム」としてデザインされた新国立競技場。工事費は1569億円にのぼるが、「鳴り物入りで完成した競技場だけど、がっかりだな」という声が。

「その意見はわかります。私もどんなスタジアムになったのか期待しながら、昨年の元日に天皇杯決勝を観戦しました。そのときの新国立競技場の第一印象は、残念感しかなかったです」

 こう話すのは、サッカー好きが高じて各地のスタジアムで観戦している、一級建築士の東ヶ崎光章氏。

「ファサードと呼ばれる外壁にルーバー状の木が打ちつけてあるんですけど、留めているボルトが丸見え。隠していないんです。これは狙ったデザインではなく、予算的な問題だと思います。同じく天井まわりの配管もむき出しでした。設計当初のCG案では隠されていたので、配管設備の設計が間に合わなかったのか、予算的理由なのか……」

天井に張り巡らされた多くの配管はむき出し

 さらに、観客席が設置されているスタンドの傾斜と、トイレの数も問題だという。

「競技場の高さを抑えたかったのかもしれませんが、下層席は角度がなだらかでピッチが見えず、サッカー観戦には不向きです。また、観客(2020年天皇杯決勝の観客は、約5万7000人)に対してトイレの数が圧倒的に少ない。いつも長蛇の列です」

独特な形状の屋根が作り出す格子模様の影

■デザイン優先で使いづらいスタジアム

「旧国立競技場を残してフルリニューアルしたほうがよかった」と以前から指摘している建築エコノミスト・森山高至氏も「がっかり」を指摘する。

「最新の競技場として、あの詰め込みすぎて狭い観客席はどうなんでしょうか。隣に人が座ると移動が難しい。日本人ですらそうなのですから、体格がいい外国人にはほぼ不可能です。

『もう二度と国立競技場には行きたくない』と思うのではないでしょうか。注目された『木』ですが、外周部の庇(ひさし)最上部は、(木材ではなく)アルミ板に木目調プリントをしたものを使っています。

 木だと劣化したときのメンテナンスが難しい位置なので仕方ないのですが、これを『割り切り』と見るか、『残念』と見るかですね」

 同競技場のデザインの要である特徴的な屋根も問題に。屋根を構成する梁の影がピッチにくっきりと映り、競技の様子が見えにくいのだ。

「隈氏はスタジアムの設計経験がなかったので、実設計するスタッフが意見を言わなかったのかな。もしかしたらデザイン優先の弊害があったかもしれませんね」(森山氏)

 こうした問題が出る理由として東ヶ崎氏と森山氏が共通して指摘するのは、ザハ・ハディッド氏からのリリーフ登板で、設計、施工の時間が短かかったこと、そして、高額な建設費が批判されて騒動が起きたため、予算の抑制を最優先させたことだ。

 両氏は同じ建築の専門家として隈氏の心中を慮る。

「隈氏はあんな競技場を作りたかったわけではないでしょう。かなり不本意な作品だと思います」(東ヶ崎氏)
「国家プロジェクトに携わって、隈氏のステータスは上がったと思いますが、本当の実力を発揮できたとは思っていないでしょうね」(森山氏)

 有観客でおこなうか否かで揺れる東京五輪。会場は「無観客向き」のようだ。

(週刊FLASH 2021年6月8日号)