偏差値の高い名門校や進学校に入れば、幸せになれるのか。学校内の学力順位と、学力の伸びの関係性を調べた慶應義塾大学環境情報学部4年の中尾亮太さんは「分析の結果、学校内の相対順位が下がれば、精神面や学力に悪影響が出た。無理に背伸びをして周囲の学力が高い、名門校や進学校に進学しなければならない絶対的な理由はない」という――。
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■相対的な順位が人生を左右する

皆さん、小学校時代を思い出してください。足が速い男の子がモテる。そんな現象を目の当たりにしたことがある方は多いのではないでしょうか。筆者は、クラスで一番足が速かったクラスメートを今でも鮮明に記憶しています。

しかし、そんな彼もオリンピック選手になったわけではありません。この世の中、上には上がいます。そして、彼がクラスで一番足が速かったのは、彼自身が「条件」に恵まれていたからにすぎないのです。なぜなら周囲の走力によって順位が決まっていたからです。

足の速さは彼の実力ですが、偶然にも彼より足の速い人が周囲にいなかっただけ。そのおかげで、クラスメートから一目置かれ、異性から人気を集めることができ、幸せな時間を過ごすことができたわけです。

もしクラスメートがオリンピック級の生徒ばかりであったら、彼が「クラスで一番足が遅い人」になっていたことでしょう。彼はクラスメートから羨望のまなざしで見られることは期待できません。さらに彼は走力にコンプレックスを抱える恐れがあります。

言うまでもなく競争や勝負には本人の実力は欠かせません。しかし、本人が置かれた「条件」(所属するコミュニティーにおける能力水準)も非常に重要な要素になるのです。そして、走力だけではなく、就活・大学受験・恋愛など、人生のあらゆる場面で私たちの「幸福感」に関係するのです。

このように、同じ能力水準である人であっても、周囲の条件などの違いで人生が変わってしまう。そんな研究は海外では数多く行われております。そこで今回は「学力」という観点に絞って過去に行われた先行研究を簡単にご紹介したいと思います。

■同じ学力でも順位が高いと大学進学率が高くなる

Elsner et al.(2017)の研究は大変興味深いです。彼らは、同じ学力でありながら周囲の学力レベルが異なり、学校内順位が異なる生徒のその後を比較しました。結果は、小学校時の順位が高かった生徒は、大学進学率が高いことが判明したのです。

他にも、Murphy, et al.(2018)の研究によると、小学校時の順位が高いと中学時での学力が高いと報告しております。

このように、同じ学力であっても、偶然にも順位が高かった人は大学進学率や学力でポジティブな影響を受けていました。逆に、周囲が自分より勉強ができる人が偶然にも多く、順位が低かった人は大学進学率や学力にネガティブな影響を受けていたのです。なおElsnerやMurphyが行った研究を相対順位(relative rank)研究と以後と表現します。

先ほど紹介した相対順位(relative rank)研究は海外で行われたものです。日本では学校のデジタル化の遅れからデータ化が難しく、またプライバシー保護が強いため、同様の研究はあまり例がありません。

そこで、私は先述の研究者たちの手法を踏襲し、ある都道府県の協力を得て、小学4年〜中学3年を対象に5年分のパネルデータ(N=100万程)を分析しました。このデータには、標準化された認知テスト(国語・数学等)から個人の性格や特性、家庭の文化資本を表す居住地・自宅の本の数など豊富な情報が含まれた貴重なデータになります。

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このデータを用いて小学4年時の学力順位が、中学3年時の学業成績にどのような影響を与えたかを分析しました。同じ学力でありながら周囲の学力水準と学校内順位が異なる生徒のその後の学力を比較しました。

■「相対順位」が生徒にプラスの効果を与える

結果は、先行研究と同じく学校内順位と学力には強い関係性が見られ、順位が高い人ほど学力が高くなる傾向にありました。数値的には、相対順位(relative rank)が1標準偏差増加すると 100点満点の換算でテストスコアを8~9点の上昇させるインパクトを持ちます。

では、どのようなメカニズムで学校内の順位が、生徒自身の学力に影響を与えたのでしょうか? この問に答えるために、先行研究の知見を借りたいと思います。

例えば、相対順位(relative rank)が高い生徒ほど大学進学・高校卒業等にポジティブな影響があると指摘したElsner,は、その理由を順位が高い人ほど周囲からの教育投資に恵まれた環境下にいる傾向があるからと報告しています。

他には、順位が低い生徒ほどdrug/smoke/sex(不良行為)に走る傾向との研究報告があります。この背景には、順位が低い生徒ほど不良行為を日常的に行う生徒と過ごす時間が多くなる点を挙げています。一方、順位が高い場合はそのような生徒とは接点が少ない傾向にあるそうです。

■「相対順位」が高いと自己効力感も高くなる

先行研究では、個人と周囲の主体との関係性(相対順位と友人・親や学校からの教育投資)に着目していますが、私の研究では、自分に対する自己認知に着目してみました。着目したのは、自己効力感です。

自己効力感とは、Bandura(1977)が提唱した社会学習理論の中にある心理的特性を指します。Banduraによる自己効力感の定義とは、目標達成をもたらすような一連の行動に対して計画し実行する能力に対する自信(self-efficacy, defined as “People's judgments of their capabilities to organize and execute courses of action required to attain designated types of performances”)です。

簡単にまとめると、目標を達成できると思える自信の度合いです。この自己効力感の形成する主要な要因は主に3つあると考えられています。

1:成功体験(performance accomplishment )
個人が成功を積み重ねることで、次の目標も達成できるという自信がつくこと。これは、自己効力感を形成する3つの要因の中で最も影響力が強いとされています。
2:代理体験(Vicarious experiment)
他者が達成している様子を観察することにより「自分にもできそうだ」と予期すること。
3:言語的説得(Verbal persuasion )
他人から励まされること。ポジティブな言葉をかけられ、目標を達成できるかもしれないと感じることを指します。

■自己効力感から学力が伸びる好循環を生む

私の分析では、被験者に40分かけて回答を頂いた心理特性データを、Pintrich et al.(1991)の研究を参考に自己効力感の指標を作成しました。8項目の質問を5点満点の自己評価EX:5(=非常に当てはまる)/1(=当てはまらない)で回答してもらい、それの合計点を自己効力感として扱います。最高点は40点で最低点は8点でした。

自己効力感と相対順位の関係性を分析した結果、順位が高い生徒ほど、自己効力感が高まることがわかりました。数字的には、相対順位(relative rank)が最も高い人は、最も低い人に比べて、3.5点ほど自己効力感のスコアを上昇させました。つまり順位が高いという成功体験により自己効力感が高まる、ということです。

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成功体験は自己効力感を形成する最も重要な要素です。そして自己効力感が高いと学力が高くなるという研究結果が数多く存在します。

例えばCollins(1982)実験では、子供を数学的能力に応じて上位(high)・中位(medium)・下位(low)のグループに分け、各レベルに応じた難しい数学的問題を解いてもらい正答率の変化を調べました。この際、それぞれ自己効力感が高いグループと低いグループに分けてみると、自己効力感が高い子供は低い子供よりも正答率が高くなりました。

自己効力感が高い子供の正答率は、下位グループで約20%、中位では15%・上位は5%高くなりました。このように、自己効力感が高いと個人の学力が高まったのです。

■「井の中の蛙」には良い面もある

私の研究結果を踏まえて皆様に1つ伝えたいことがあります。それは、学力や自己認知(自己効力感)は自分を取り巻く状況を変えることで、高めることができるということです。

学力・自己認知(自己効力感)等は、「条件」によって変わるほど不安定なものです。ただ「条件」は自由に変更することもできます。「条件」が自己認知・学力にネガティブに作用するくらいなら、自由に、適切に「条件」を変えるという視点も必要です。

例えば、無理に背伸びをして周囲の学力が高い、名門校や進学校に進学しなければならない絶対的な理由はないのです。仮に無事に進学できたとしても、相対順位(relative rank)が下がり、自己効力感・教育機会・交友関係への悪影響につながります。それでは心理的に満たされた状態は実現できません。

もちろん高い目標を掲げ、それに向かって努力することを否定するつもりはありません。

しかし一方で、身の丈にあった学校を選択することで、生徒自身の学力等にポジティブな影響を与えることになるができるのです。つまり、どこで学ぶか(学歴)よりも、何を学ぶかが幸せな人生を送るうえでより重要になると示唆されるわけです。

世の常識では否定される考え方かもしれませんが、実は「井の中の蛙」は良い面もあるのです。競争に勝つ事だけに心をとらわれずに、自分が幸せになれる場所を探すことに時間を使うことも大切なのではないでしょうか。

参考文献
● Azmat, G., & Iriberri, N. (2010). The importance of relative performance feedback information: Evidence from a natural experiment using high school students. Journal of Public Economics, 94(7-8), 435-452.
● Bandura, A. (1977). Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change. Psychological review, 84(2), 191.
● Bandura, A. (1993). Perceived self-efficacy in cognitive development and functioning. Educational psychologist, 28(2), 117-148.
● Carrell, S. E., Hoekstra, M., & Kuka, E. (2018). The long-run effects of disruptive peers. American Economic Review, 108(11), 3377-3415.
● Elsner, B., & Isphording, I. E. (2017). A big fish in a small pond: Ability rank and human capital investment. Journal of Labor Economics, 35(3), 787-828.
● Lavy, V., & Schlosser, A. (2011). Mechanisms and impacts of gender peer effects at school. American Economic Journal: Applied Economics, 3(2), 1-33.
● Lavy, V., Paserman, M. D., & Schlosser, A. (2011). Inside the black box of ability peer effects: Evidence from variation in the proportion of low achievers in the classroom. The Economic Journal
● Lavy, V., Silva, O., & Weinhardt, F. (2012). The good, the bad, and the average- Evidence on ability peer effects in schools. Journal of Labor Economics, 30(2), 367-414..pdf
● Murphy, R., & Weinhardt, F. (2018). Top of the class: The importance of ordinal rank (No. w24958). National Bureau of Economic Research.
● Pagani, L., Comi, S., & Origo, F. (2019). The Effect of School Rank on Personality Traits. Journal of Human Resources, 1218-9916R2.
● Pintrich, P. R. (1991). A manual for the use of the Motivated Strategies for Learning Questionnaire (MSLQ).
● Twenge, J. M., & Crocker, J. (2002). Race and self-esteem: meta-analyses comparing whites, blacks, Hispanics, Asians, and American Indians and comment on Gray-Little and Hafdahl (2000).

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中尾 亮太(なかお・りょうた)
慶應義塾大学環境情報学部4年
1996年兵庫県生まれ。2017年慶應義塾大学 環境情報学部入学。中室牧子ゼミで教育課題を中心に実証研究に取り組む。
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伊藤 寛武(いとう・ひろたけ)
慶應義塾大学政策メディア研究科博士課程
1991年東京生まれ、2014年一橋大学経済部を卒業後、2015年一橋大学経済学修士取得。資産運用会社のリスクマネジメント業務マネージャー、ヘルスケア系コンサルティング会社のデータアナリストを経て、2018年から慶應義塾大学政策メディア研究科博士課程在籍。
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(慶應義塾大学環境情報学部4年 中尾 亮太、慶應義塾大学政策メディア研究科博士課程 伊藤 寛武)