先日、「コロナで解雇だと言われたら、退職届は書いてはダメ」という私の何気ないTwitterの投稿に、リツイート2万1000、いいね3万4000超と大きな反響がありました(本記事執筆時)。コメントも多くいただき、中には、退職届を書かなくていいことを初めて知ったという方や、解雇を受け入れなくてもいい場合があることに驚いている方もいました。

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「コロナ解雇」をめぐる誤解が蔓延している

 この反響を見て、世間には、今回の新型コロナウイルスによる業績悪化を理由とする解雇(リストラ)を、労働者はやむを得ないものとして受け入れなければならない、という誤解が蔓延していることを痛感しました。

 その背景には、2020年11月の完全失業率は195万人となり、新型コロナウイルスに関連した解雇や雇止め(いわゆる「コロナ解雇」)を受けた労働者が8万2050人(2021年1月19日、厚労省発表)に上るとされているように、「新型コロナによる解雇は避けられないもの」という風潮が世間にあると思います。

 今回は、労働者から私の下に実際に寄せられた相談事例、受任した事例をもとに、コロナ解雇への対策について述べたいと思います。

コロナ禍における整理解雇は認められているのか

 一番多い相談は、新型コロナウイルスの影響で会社の業績が悪化し、人件費の削減の必要性が生じたことや、業務の縮小の必要性が生じたということを理由として、解雇をされたという相談です。これはやむを得ない事情によるものなので、「解雇は仕方がないと考えているけど、解雇予告手当をもらえなかった」などと、労働者は受け入れるしかないと考えている方もけっこういました。


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 しかし、そもそも、使用者が解雇を行うには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要であるとされています(労働契約法16条)。つまり、使用者は解雇を自由に行うことはできず、恣意的な解雇は無効とされてしまうのです。

 とりわけ、業績の悪化や、業務の縮小を理由とした「整理解雇」は、労働者側には非はなく、経営に関して責任を負う使用者側の都合による解雇ですので、その有効性は、普通の解雇よりも厳格に判断するべきです。

 具体的には、

1 人員削減の必要性があること
2 解雇を回避するための努力が尽くされていること
3 解雇の対象者の人選基準、選定の方法が合理的であること
4 解雇前に、解雇の対象者への説明・協議を尽くしていること

 といった4つの要件を満たしているかという観点から判断します。

「コロナ解雇」が無効だとされたタクシー会社

 これら4つの要件は、コロナ解雇では、どのように判断されるのでしょうか。

 2020年4月、タクシー業を営む会社が、コロナによる売上減少、債務超過に陥ったとして、従業員の大半を整理解雇したという事案がありました。

 解雇された労働者が、解雇の無効を訴えた手続きで、裁判所は「雇用調整助成金の活用によって、収支を大幅に改善させる余地があった」として、人員削減の必要性(要件1)を否定しました。また、雇用調整助成金の申請をしていないのは、解雇回避努力(要件2)を尽くしたとはいえないとも述べています。結論として、裁判所は、労働者への整理解雇は無効であると判断しました(センバ流通事件・仙台地決令和2年8月21日判例集未搭載)。

 その他、どのような事情が4要件の判断に重要になるかについては、細かい話になりますので、詳しく知りたい方は、当事務所の弁護士が書いた書籍(『労働事件の基本と実務 紛争類型別手続と事件処理の流れ、書式』日本加除出版)などを参照ください。

 以上のように、コロナ解雇においては、雇用調整助成金の申請・活用をしたかどうかという点が、非常に重要になると思います。もし、整理解雇を通告された場合には、雇用調整助成金の活用を検討したのかどうか、それでも整理解雇をしなければならない理由は何か、などを使用者に説明を求めるようにするべきです。

「退職届を書かせようとしてくる」という相談が増えた

 上記の解説は、整理解雇を通告された場合の対処方法ですが、このコロナ禍において労働者から相談を受けていると、少々気になることがあります。

 それは、最初に解雇であると言われたのに、使用者が退職届を書かせようとしてくるという事案が見受けられるということです。

 実際にあった相談は、「コロナで業績が悪化しているから解雇だと言われ、退職届を渡されたのですが、書いてもいいのでしょうか?」というものであったり、「書いてもらえないと離職票の発行ができないなどと言われ、不本意ながら退職届を書いてしまったのだけど、今から取り消すことは出来ないでしょうか」というようなものでした。

 このように、解雇なのに退職届を書かせるという問題は、コロナ禍の以前からありましたが、コロナ禍で急増したように思います。

「解雇」と「自主退職」は何が違うのか

 前提として、「解雇」と「退職届」の法的意味合いについて説明します。

 解雇とは、使用者による労働契約の一方的な解約です。つまり、使用者が一方的に行うことなので、労働者の同意は不要です。一方、退職届を出すというのは、労働者による労働契約の一方的な解約です(「自主退職」などといわれます)。これについても、労働者が一方的に行うことなので、使用者の同意は不要です。

 すでに説明したように、解雇は、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性がないとできません。特に、経営不振を理由とした整理解雇は、特に厳しい要件が必要になります。一方、自主退職については、法律上の期間制限(民法627条1項)さえ守っていれば、理由は不要で、自由に行うことができます。

「コロナ解雇」で退職届を書いてはいけない理由とは

 このように、コロナ禍の解雇については非常に厳格な要件で判断されますので、使用者としては、後で労働者が解雇の無効を求めて裁判で争った場合、解雇が無効とされてしまうリスクを負ってしまいます。そのため、使用者側は、解雇ではなく、自主退職であるとの外形を残すために、退職届を書くように求めてきます。退職届を書いてしまうと、後に労働者が解雇の無効を求めて裁判や労働審判で争ったとしても、使用者側は「本件は、解雇ではなく、自主退職である」との主張をしてきます。裁判所も、退職届という動かしがたい証拠があるため、本件は解雇ではなく、自主退職であるとの判断をしてしまいます。

 自主退職とされてしまうと、失業保険の給付期間、給付されるまでの待機期間についても不利になってしまいます。

 労働者としては、一度書いてしまった退職届を取消すのは、非常に困難です。使用者に騙されて書いてしまった(錯誤・詐欺)、使用者に脅されて書いてしまった(強迫)などという事情を立証しなければなりません。

 相談者の中には、「解雇だと、会社が助成金を受けられなくなって、他の社員に迷惑がかかる。退職届を出せば、他の社員が助かるんだから、書いてくれ」などと言われ、他の社員ためにやむを得ず書いてしまい、後悔している人もいました。しかし、そのように、退職届を書くように求められている場面のやり取りを立証することは非常に困難になります。

 これが、私が「コロナで解雇だと言われたら、退職届は書いてはダメ」とTwitterで書いた理由です。解雇と言われても、絶対に退職届を書かないようにしましょう。

「解雇」を通知されたときにやるべき4つのこと

 それでは、解雇を通知されたときは、どのように対処すればよいのでしょうか。
 順を追って説明していきます。

(1)解雇の理由を説明してもらう

 解雇を通知されたときには、まず、その場で解雇の理由を説明してもらうことが重要です。解雇の初期の段階で使用者側がする説明には、使用者の本音が現れていることが多く、不合理な理由で解雇をしようとしていることが明らかになる可能性があります。できれば録音をしておくことをお勧めします。

 退職届、退職合意書などの書類を渡されてサインをするように求められることが多いですが、絶対にサインをしないようにして、「持ち帰って検討する」とだけ言いましょう。

(2)「解雇理由証明書」を要求する

 そのうえで、解雇理由を書面で明らかにするように要求するべきです。「解雇通知の時に説明した」などと言われ、拒否をされることもありますが、書類を出すのは、労働基準法で定められた使用者の義務なので、使用者は拒否することは出来ません。

 解雇理由を書面で求める理由は、早い段階で、解雇の理由を確定して、使用者に後出しでの解雇理由の追加を許さないようにするためです。使用者側は、裁判になった段階で、これまでに主張していなかった解雇理由を多数追加して主張してくることがありますので、初期の段階で、書面で確定させておくのが重要です。

(3)解雇予告手当について

 また、解雇をされた場合、即時解雇である場合には、解雇予告手当を請求することができますが(労働基準法20条1項)、解雇に納得していない場合は、それを労働者から要求するのは控えた方がよいです。労働者から要求してしまうと、後に「解雇を受け入れた」と言われてしまうこともあり、無用な争いを増やしてしまうからです。ただ、使用者から一方的に支払ってきた場合には、返還する必要まではありませんので、「賃金として受領する」との連絡を使用者にしておけば足ります。

(4)解雇を争う場合には

 その後は、解雇を受け入れ、新たな職場を探すという選択肢もあると思いますが、不当な解雇に対して毅然とたたかい、解雇の有効性を争うというのも、あり得る選択肢です。解雇の有効性を争うという選択肢を採る場合には、早めに専門家に相談することが重要ですので、労働問題に強い弁護士、もしくは労働組合などに相談するようにしましょう。

(深井 剛志)