柴咲コウ “炎上ツイート消し”後も行われていた「種苗法改正案」反対署名運動
いま、柴咲コウが世にはなったメッセージが波紋を呼んでいる。
【写真】ツイッターだけでなくインスタでも政治的主張をしていた柴咲コウ
《新型コロナの水面下で、「種苗法」改正が行われようとしています。自家採取禁止。このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます。 これは、他人事ではありません。自分たちの食卓に直結することです》
4月30日、彼女のツイッターに投稿された(現在は削除済み)この文言の影響もあってか、5月20日、ブランド農産品種の苗木などを海外に持ち出すことを規制する『種苗法改正案』の成立を見送る可能性が明らかになった。毎日新聞のデジタル版がこの件について報じたときのタイトルが《「種苗法改正案」今国会成立を断念へ 柴咲コウさんの懸念ツイートで慎重論拡大》だ。
ツイッターでは、柴咲の名前が一時、トレンド入りするほどの事態となり、なかには彼女の意見に反対する農家も出てくるなど炎上と論争が巻き起こった。
農水省のサイトに掲載されていない例も
この改正案は『シャインマスカット』や『とちおとめ』といった高級国産品が中国や韓国に持ち出された種や苗木が独自の新品種として出回っている被害を食い止めようと政府が提案したもの。改正後は、農家が“登録品種”されたものをの自家増殖(栽培した植物の種子や一部をとり、それをまくこと)することは原則禁止。各農家が自分の畑などで増やすときに、開発者の許可が必要となった。
国は、あくまで自家増殖が禁じられている“登録品種”の農作物は全体の約10%で、それ以外の“一般品種”に関しては引き続き自家増殖が可能と主張している。柴咲はこの“自家採種禁止”について訴えているが、当の農家はどう感じているのか。
農業専門誌『現代農業』編集部の山下快氏(農山漁村文化協会)は「ほとんどの農家はこの法改正については反対しています」としながら、
「農家が反対しているのは、『農家による自家増殖』が自由にできなくなるというポイントでしょう。それは、農家にとって、作物の種をとるという行為自体が“連綿と受け継がれてきた技術”であり、営みのひとつだからです。ゆえに、“農家の種採りを否定されている”と感じるのではないでしょうか」
と続ける。しかし、法改正されることで実際に悪影響が出る農家もあるという。
「調べたところ、統計では、例えば北海道の大豆の場合、80%以上が“登録品種”なんです。有名なものでいくと『ユキホマレ』などがそれにあたりますね。しかし、こうした(大豆のような)影響が大きくなるかもしれない作物の例は農水省のサイトには掲載されていません」(山下氏)
また、国は日本のブランド農作物の国外流出を防ぐための法だとも発表しているが、実際の農業現場から落胆の声が聞こえているようで……。
「遺伝子組み換え」と「種苗法改正案」は
「農家の自家増殖を禁止したところで流出は止まらないですね。『シャインマスカット』を例にすると、枝一本を切り取って海外に持ち運んで、現地のブドウにくっつけてしまえば、簡単に無限増殖させることができるわけです。つまり、悪意をもって流出させようとする人がいる限り、絶対に防ぎようがない。“海外で品種登録をする”という方法をとるのが最善なのではないでしょうか」(山下氏)
このようにさまざまな議論を呼んでいる今回の法改正であるが、一方の柴咲は、冒頭で波紋を呼んだツイッターの文言は削除。続けて《何かを糾弾しているのではなく、知らない人が多いことに危惧しているので触れました。きちんと議論がされて様々な観点から審議する必要のある課題かと感じました》としているが、彼女のSNSではその後も“活動”が行われていたようで……。
「ツイッターの文言を削除したあとも、インスタグラムのストーリーズで、法改定に反対する署名を募るサイトのリンクをシェアしており(5月22日には削除)、そのページには《廃農家が増え、私たち消費者は食糧不足や飢餓の懸念とともに“否応なく”農薬漬け、遺伝子組み換え・ゲノム編集された有害、低品質で高価格な作物を食べなければならなくなります》といった文言もあります。
しかし、遺伝子組み換えと今回の種苗法改正の自家採種禁止とは別問題であるかなとは思いますね。さまざまな物事を結びつけすぎていて、少し極端な意見という気も……。こういったところが炎上の理由になってしまったのかもしれません」(全国紙記者)
今国会では法改正は見送られそうだが、彼女の戦いはまだ終わっていないということか。気になるのはなぜ彼女が“農業に関心を寄せているのか”というところだ。
「現在の彼女はというと、3月末に所属していた芸能事務所を退所し、自身の会社を設立。代表取締役を務めるようになりました。事業のなかには、オーガニックのレトルト食品などを販売するような取りくみもしています。環境問題や自然食品へのこだわりが強く、ライフスタイルを提唱したいという思いがあるようで、実際に農作物の生産者と交流を深めたりもしているんだとか」(食料品メーカー関係者)
確かに彼女が運営する『LTG FOODS(エルティージィー フーズ)』の公式サイトには、《食と環境への関心が高い女性に、化学調味料不使用のレトルト食品を提供してまいります》とある。また、'18年にも自身のアパレルブランド立ち上げの記者会見での質疑応答でも、9歳のときに乳がんで亡くなった母親について触れ、
「病気の家族を抱えると、何が悪かったのか、何が原因で病気になったのかと考える。衣食住を見直し、食が原因だったのではないかとも考えた」
と話している。一般層にまでこの問題を知らしめたことと、炎上しSNSを削除したこと。柴咲の功罪はそれぞれ大きい。
〈取材・文 野口侑弥〉