ドラッグストア各社の業績が好調だ。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は、「好調の要因はコロナ特需だけではない。生活インフラとしての存在感を増しており、今後もさらなる業界再編が進みそうだ」と分析する--。
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ココカラファインの店舗(東京都新宿区)=2019年6月5日 - 写真=時事通信フォト

■前年同月比10%以上アップも珍しくない

大手ドラッグストアの2月と3月の既存店売上高がどこも好調だ。ツルハホールディングス(HD)は2月が前年同月比7.1%増、3月が14.5%増と両月とも大幅増を達成した。ウエルシアHDは2月が20.6%増、3月が6.1%増。コスモス薬品は2月が11.3%増、3月が6.8%増。各社とも好調に推移している。

ウエルシアHDを傘下に持つ小売り最大手のイオンによると、傘下のドラッグストアにおいて2月はマスクや除菌剤などウイルス感染を予防する製品がよく売れたほか、買い溜め消費からトイレットペーパーやベビーおむつなどの紙製品が好調だったという。3月に入ってからは、全国の小中高校などで続く一斉休校や在宅勤務が拡大したことで、加工食品や冷凍食品の売り上げも伸びている。

■同じく生活インフラのコンビニは各社マイナス

今年3月は、多くの小売りや外食にとって厳しい月となった。百貨店各社の売り上げは軒並み落ち込んでいて、三越伊勢丹HDの国内百貨店既存店売上高が33.4%減となるなど大幅減が相次いでいる。外食も総じて厳しく、ファミリーレストラン「ガスト」などを展開するすかいらーくHDの既存店売上高は23.9%減となった。もちろんこれは一例にすぎず、大幅減の事業者が大半だ。

一方、ドラッグストアは生活必需品を扱う「生活インフラ」の役目を担っていることもあり、基本的には臨時休業せずに営業を続けたため、好調に推移している。生活インフラという意味ではコンビニエンスストアも同じだが、ドラッグストアはマスクや除菌剤といった新型コロナ関連の商品がコンビニよりも一般的に充実しているため、3月の売り上げの伸び方はドラッグストア業界のほうが良好だ。コンビニ大手3社の3月の既存店売上高はセブン-イレブン・ジャパンが3.2%減、ファミリーマートが7.6%減、ローソンが5.2%減と軒並み大幅マイナスとなっている。

■マツキヨは例外的に大幅マイナスに転じた

もっとも、ドラッグストア大手すべてが好調というわけではない。マツモトキヨシHDは3月の既存店売上高が10.6%減だった。2月(8%増)の大幅増から一転、大幅マイナスに転じている。

理由の詳細は発表されていないが、新型コロナの感染拡大を受けて実施した時短営業の影響を受けたほか、同社はほかの大手チェーンと比べて都市部に店舗が多いことが影響したためと推測できる。外出自粛とテレワークの広がりで、繁華街やビジネス街から人が消えたことが影響したのだろう。また、訪日外国人(インバウンド)が減ったことも響いたと考えられる。さらに、化粧品が強い同社では、化粧をせずに自宅で過ごす人が増えたことも影響したと考えられる。

ただ、マツキヨのような例外はあるにせよ、多くのドラッグストア事業者は業績が上がっている。生活インフラとなりうる小売り業態といえば、以前はコンビニが唯一無二と言っていい存在だった。特に2011年の東日本大震災の際には迅速な復旧を果たし、日常生活に必要な食料や水、生活必需品を地域住民に供給して圧倒的な存在感を示していた。

一方でこの時はドラッグストアはコンビニほど存在感を示していなかった。だが、震災から9年がたち、この間にドラッグストア業界は拡大してきた。市場規模は18年度に7兆円を突破し、コンビニに迫る勢いだ。

■大手各社がM&A繰り返し首位争いが活発化

その背景には、コンビニ業界が大手3社の寡占化が進んでいるのに対し、ドラッグストア業界はいまだに激しい再編と競争を繰り広げていることがある。特に大手各社がM&A(合併・買収)で急速に規模を拡大し、首位争いが活発になっているのだ。

15年度まではマツキヨHDが売り上げ規模で21年間も業界首位を維持していたが、16年度にM&Aで規模を拡大したウエルシアHDが首位を奪取。さらに18年度にはツルハHDが同様に積極的なM&Aの結果、首位に立った。そして、21年10月にマツキヨHDとココカラファインが経営統合する予定で、両社合算の売上高は約1兆円となり首位に立つ見込みだ。

もちろん、勃発するM&A合戦にはこれ以外の理由もある。こうした再編にはさまざまな理由があるが、ひとつは商品の共同調達によるコスト削減だ。商品の仕入れを一本化することで、仕入れ原価の低減とリベートの増加が期待できる。マツキヨHDとココカラが経営統合するのもこれが大きな理由だろう。

なお、ドラッグストア業界でいうリベートとは、卸業者から薬局等への販売において一定の金額や数量を超える売り上げを達成した場合などに、メーカーから卸業者に対して契約による割戻基準に基づいた金額が支払われることを指す。

ハックドラッグを展開していたCFSコーポレーションを、ウエルシアHDが15年9月に完全子会社にしたのも、こうしたスケールメリットが狙いだと考えられる。まだまだコスト削減余地が大きいので、今後もM&Aが繰り広げられそうだ。

■経営統合で新たな需要の取り込みを図る

もうひとつの理由は、政府が推進している「地域包括ケアシステムの構築」だ。政府は、高齢化が進み医療や介護の需要増が見込まれるため、2025年をめどに自宅などで必要な医療・介護サービスが受けられる体制(地域包括ケアシステム)の構築を目指している。ここでドラッグストアは地域の拠点として一翼を担うことが期待されており、経営統合で新たな需要を取り込んでいこうという考え方がある。

もっとも、新型コロナが収束するまではいずれの企業も大きな動きはとりにくいだろう。今のところは、生活インフラとしての役割を果たし、消費者の信頼を勝ち取ることに全力を尽くすべきだ。そうすることで、収束後に活発化すると考えられるM&A競争を有利に進めることもできるだろう。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)