by stokpic

「セックスをする男女を核磁気共鳴画像法(MRI)で撮影した」論文が1999年に医学雑誌のBritish Medical Journal(BMJ)に掲載され、世界的な話題を呼びました。2000年のイグノーベル賞医学賞にも輝いたこの研究がどのように実施され、由緒ある医学雑誌に掲載されたのか、その経緯がまとめられています。

Round the bend | The BMJ

https://www.bmj.com/content/367/bmj.l6654

This timeless piece of “body art” of people having sex in an MRI turns 20 | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2019/12/its-been-20-years-since-scientists-made-first-mri-images-of-human-copulation/

BMJはクリスマス直前に発行される年末特集号で、ユーモアのあふれる論文を数本掲載することが毎年の恒例行事となっています。1982年から始まったクリスマス号の歴史の中でも、最も多くの人々によって読まれているのがセックスをする男女をMRIで撮影した論文だとのこと。

セックスは保守的な考えの人々にとってはタブー視されがちですが、古くはレオナルド・ダ・ヴィンチもセックス中の男女についての手記を残しています。ダ・ヴィンチは1493年に記した「The Copulation(交尾)」という手記の中で、性交時の解剖学的な断面図を描きました。この性交に関する手記はダ・ヴィンチ自身の研究によるものではなく、古代ギリシャ語およびアラビア語のテキストに基づいていたものだったとのこと。なお、この際のダ・ヴィンチは、女性の膣内に入った男性の性器を直線的に描いていることが、以下の画像を見るとわかります。



近代に入ってからの研究でいえば、アメリカの産婦人科医であるロバート・ディキンソン氏によって、セックスやオナニーに関する研究の道が開かれたといえます。ディキンソン氏はタブー視されていた性生活や女性のオナニーなど、広範囲にわたる研究を行いました。陰核を刺激して興奮した女性の膣にペニスの大きさのガラス管を入れたり、女性の外陰部や膣の型を取ったりと、ディキンソンの研究は後世に大きな影響を与えたとのこと。

このほか、セックスについての研究として有名なものには、ウィリアム・マスターズ氏とヴァージニア・ジョンソン氏による「マスターズ・ジョンソン報告」が挙げられます。マスターズ氏とジョンソン氏は数百人のボランティアに研究室でセックスをしてもらってその状態を観察しました。

そして1999年、オランダの生理学者であるペク・ヴァン=アンデル氏が、世界で初めてセックス中の男女をMRIで撮影したという論文を発表しました。しかし、病院を説得してMRIの使用許可を得たヴァン=アンデル氏は、当初からセックスの画像を撮影しようと思っていたわけではなく、「人が歌っている最中のMRI画像」を撮るのが最初の目的だったそうです。ところが、ヴァン=アンデル氏は実際に撮影された歌手の喉を撮影したあまりにも鮮明なMRI画像に触発され、「セックス中の男女をMRIで撮影する」というプロジェクトを思い立ちました。



by Becca Tapert

ヴァン=アンデル氏の研究における最初の協力カップルになってくれたのが、知り合いの人類学者であるイダ・サリベス氏でした。1992年、サリベス氏と恋人のヤップ氏は一緒に直径50cmの騒がしいMRIのチューブにすっぽりと入り、セックスを行いました。うるさいMRIの中で本当に勃起するのかどうか不安だったものの、ヤップ氏は無事に勃起することができたとのこと。

45分間にもおよぶMRIでの撮影の結果、論文に掲載された画像がこれ。右側にいるヤップ氏のペニスが、しっかりとサリベス氏の膣に挿入されていることがわかります。この画像から、ヴァン=アンデル氏は「挿入時のペニスはダ・ヴィンチが描いた断面図のように直線的ではなく、実際のところブーメランのように曲がっている」ことなど、これまで知られていなかった事実を発見できました。



研究が科学的成果につながったと考えたヴァン=アンデル氏は論文を科学雑誌のNatureに送りましたが、残念ながら掲載は拒否されてしまいました。するとオランダのタブロイド紙がこの研究をかぎつけて紙面で発表、「セックスを撮影するために病院のMRIを使用するのはどうなのか」といった論争が巻き起こり、ヴァン=アンデル氏らの研究チームは苦境に立たされてしまいます。

それでも、ヴァン=アンデル氏の熱心な説得によってどうにか病院のMRIを使い続けることができ、1999年までに合計で8組のカップルに協力してもらって研究を続けました。最終的にヴァン=アンデル氏の論文はBMJに認められ、クリスマス号に掲載されることとなりました。掲載された論文は大きな注目を集め、BMJの編集者らを驚かせたとのこと。

掲載から20年が経過し、当時の編集スタッフの記憶もかすんでいるそうですが、論文掲載の決め手となったのは、「ダ・ヴィンチの断面図とMRIの画像の構図がピッタリだった点」だったと当時の編集スタッフは振り返っています。新しい技術を使用した画像は読者の興味を引くかもしれないという意見もあり、最終的に「伝統的にユーモアのある論文を掲載しているクリスマス号であれば掲載可能だ」という判断が下ったそうです。