関連画像

写真拡大

今年の春先から「銀行カードローン」をめぐる活発な動きが、新聞紙上をにぎわせている。銀行窓口で簡単に契約できる手軽さなどから、銀行カードローンの融資残高は5年前の1.7倍となる5兆6793億円(2017年6月末時点)にまでふくらんだ。2016年の自己破産の申し立て数が13年ぶりに増えた背景に、この銀行カードローンがあるのではないかとも指摘されている。

今年9月に発売された新書「強欲の銀行カードローン」(藤田知也著、角川新書)は、金融担当の記者たちが銀行カードローンへの疑念を深めていった舞台裏や、融資が膨張した背景を余すことなく明かす。たとえば、改正貸金業法により、消費者金融は総額で年収の3分の1以下しか貸すことができない。一般に「総量規制」と言われるものだが、貸金業法が適用されない銀行は何の規制も受けないため、個人の借り入れ需要が銀行に向かいやすい側面もある。

「借りる方が悪い」といった批判もあるだろう。しかし著者で、朝日新聞東京本社経済部記者の藤田氏は「私も当初はそんな思いがよぎることはあったが、それは借りる人の現実を知らない側の主張だということが取材を進めるうちにはっきりしてきた」と話す。

「貸出額の急増にともなって自己破産が増えていいのか。倒れていく個々の人生に目を向けていくべきだ」と銀行業界に呼びかける藤田氏に、銀行カードローンの現場で一体、何が起こっているのか。その実態について聞いた。

●「利便性がある」と繰り返すだけ

ーーカードローンに関心をもったきっかけは

今年2月のことですが、2016年の自己破産の申し立て数が13年ぶりに増えたことがわかりました。この時、他メディアがカードローンが原因となっている可能性を指摘していたんです。そこで調べてみると、消費者金融には貸し出し額を「年収の3分の1以下」とするなど様々な規制を受けるのに、銀行には規制がかからないことを知り、一体どうなっているのかと興味を持ちました。

ーーそこから取材を進めていく過程は、本書でも詳細に書かれていますが、銀行側が追及をかわそうとする態度が印象に残ります

私は金融担当の記者で、「日銀クラブ」という記者クラブに所属しているため、全銀協(全国銀行協会)や大手行トップの記者会見に出る機会があります。その場で、年収の3分の1を超える貸し付けをする理由について彼らに尋ねると、「利便性がある」と繰り返すだけ。さらに、どんな点が「利便性がある」のか聞いても、納得のいく回答は一度たりとなかったんです。

トップですら目的を答えられない。大きな矛盾があるのに放置されている気がして、きちんと取り上げようと思い、取材を進めていきました。4月末ころから、各社が大きく扱うようになっていきました。

●「福祉などでサポートすべき弱い立場の人間が多く含まれている」

ーーそもそも、カードローンはどのような人が借りているのでしょうか

消費者金融の利用者の場合、借り入れ目的で一番多いのは生活費の補てんで、買い物や遊ぶお金、クレジットカードの支払いなどが続き、5・6番目に他の業者の借金返済やギャンブルが並びます。なぜわかるかと言えば、消費者金融は利用者の実態調査も定期的に行うように義務づけられているからです。一方、銀行カードローンには実態調査の義務がなく、確たるデータは何もありません。

ーー本の中では、その点についても問題だと指摘されていますね

繰り返すようですが、消費者金融からの借り入れは「年収の3分の1まで」と法律で規制されています。銀行カードローンには規制がありませんから、消費者金融では借り入れできなくなった人も流入してくる実態があります。

当然のことですが、年収の3分の1を超えるような多額の借り入れは、返済が困難になっていきます。それでも借りてしまう背景には、身体や心の病気で収入が急になくなったり、ギャンブルや買い物の依存症に悩んでいたりする人も少なからず含まれているからです。

実際に借金を抱えている方々にも取材してみたところ、多額の借り入れをした経験者はみな、心の病気やギャンブル依存症などの問題を抱えた人たちでした。銀行カードローンの利用者には、本来であれば、お金を借りるのではなく、福祉などでサポートすべき弱い立場の人間が多く含まれているのが実態なのではないかと危惧しています。

●安易に借りられるようになってきた

ーーそもそも、なぜ銀行はカードローンに力を入れるようになったのでしょうか

銀行業界は、カードローンの融資拡大を数値目標にして業績計画に加えたり、支店や行員の業績評価の対象としたりするなど懸命に伸ばそうとしてきました。

2013年4月に始まった日本銀行の大規模緩和で、ただでさえ低かった金利が一段と低くなり、お金を貸して利ざやを稼ぐ従来の銀行ビジネスが成り立ちにくくなっています。13年度からの3年間で、貸し出し額が3年連続で前年比10%超も増えたことから、日銀の金融政策とは無縁ではないでしょう。

ーー1990年代後半、消費者金融などによる多重債務が社会問題化しました。それから月日が経ったこともあり、利用者の側も、カードローンへの抵抗感が薄れてきている側面もありそうです

利用者の側からすると、同じ借金でも「銀行」の看板なら、安心感や信頼度合いが消費者金融と比べて格段に高いでしょう。まわりの目も気にならないし、メジャーなタレントを起用した広告効果もあったのかもしれませんね。

加えて、多重債務問題以降、規制でがんじがらめとなった消費者金融とは違い、銀行なら年収の3分の1を超えても借りられます。収入証明書がなくても200万、300万と貸してくれる。その上、スマホで簡単に審査して借りられるなど便利さも極めてきていますので、安易に借りる人が増えたのでしょう。

●銀行マンから寄せられた感想

ーー本の発売後になりますが、三菱東京UFJ、三井住友、みずほの3メガ銀行がカードローンの融資額を、「年収の2分の1」「3分の1」までとする自主ルールを導入したとも報じられています。藤田さんは、本書の中で、銀行業界に対して「5つの提言」をしています。詳しくは本を読んでいただくとして、提言したような改革は進むのでしょうか

全銀協は9月に入り、利用者の意識調査を年内に始めるとの方針を示しています。広告表現についても、スピード審査を競い合うことはやめるなど、できることから少しずつ手をつけてきた印象はあります。金融庁もカードローンに的を絞った検査に乗り出した。これまでの取り組みのままでは、世の中の理解を得られないと判断したからでしょう。

ただ、業績目標をたて、支店や行員にノルマを課してカードローンを増やそうという姿勢は変わっていません。銀行が貸金業法の(総量規制の)抜け穴になっている現状を変える手立ても定まっていません。問題が改善されるには、まだかなりの時間がかかりそうだと思います。

ーー出版後、取材先からの反響もありましたか

銀行マンたちからは「実は、自分自身もおかしいと思っていた」「弱い借り手の立場が初めてわかった気がする」「1人1人のお客さんに思いを馳せて、これからはやっていきたい」といった声が寄せられています。ただ、銀行のなかでも、危機感を抱いている銀行マンの声が上層部まで届いているかはまだ怪しいところがあります。

ーー2016年秋に、日弁連は「銀行等による過剰貸付の防止を求める意見書」を政府や全銀協などに提出し、この中で、「借入残高が年収3分の1を超えることとなるような貸付けを行わないようにすべき」などと提案していました。今後、弁護士にはどう関わっていくことを期待しますか

この本は、多重債務問題に取り組んできた現場の弁護士や司法書士たちの協力なしには書けませんでした。

本書でも指摘したように、カードローンは利用者の実態に目を向けた調査がほとんど皆無で、実情をつかみにくいという現実もあります。もしも今後の活動で、これはひどいという事例を見つけたり、取材にご協力いただける利用者がいたりする場合は、私も含めメディアに連絡するなどどんどん声を上げて問題提起してもらいたいですね。

【書籍情報】

書名:強欲の銀行カードローン

著者:藤田知也

出版社:KADOKAWA

【著者プロフィール】藤田知也(ふじた・ともや)。朝日新聞経済部記者。2000年に朝日新聞入社。盛岡支局、「週刊朝日」編集部を経て、東京本社経済部に。2016年3月から日銀・金融を担当。

(弁護士ドットコムニュース)