この春スタートした新番組の中で、テレビマンと視聴者の双方からひそかに絶賛を集めている「陸海空 こんな時間に地球征服するなんて」(テレビ朝日系、毎週火曜 後11時15分)。まだスタートから2カ月程度にもかかわらず、「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系、毎週日曜 後7時58分)と「クレイジージャーニー」(TBS系、毎週木曜 後11時56分)を超えるのでは、との印象を持っています。

「イッテQ!」はバラエティー番組の視聴率トップに君臨、「クレジャー」は熱狂的なファンを持ちDVDがバカ売れ。放送時間こそ異なりますが現在、旅系バラエティー番組の2トップです。しかし、ミステリー、豪華客船、釣り、ドローン、部族という5つの切り口で地球を駆けめぐる「陸海空」も負けていません。ガチンコ取材とリアルな冒険をモットーに、ほかの番組では見られない規格外の映像を連発しているからです。

好奇心と不安の間で揺れるスタッフ

 同番組の旅は、テレビカメラが入ったことのない地域やスポットなど好奇心をくすぐられるものばかり。「何が起こるのか」「どんな景色なのか」「誰がいるのか」が予想できないため、未知の世界に飛び込むドキュメンタリーとしてのワクワク感があります。

 事前に台本を用意することができないため、タレントどころかスタッフですら「どうなっちゃうのかな…」と先の展開が分かっていません。実際、何度となくディレクターが不安をこぼすナレーションが挟まれ、妙なリアリティーを醸し出しています。そんな好奇心と不安の間で揺れる心境だからこそ、笑いが生まれやすいとも言えるでしょう。

 ガチンコ感では「イッテQ!」と「クレジャー」に負けていませんし、スタジオの生放送や現地からの生中継、プロレスラーを週替わりでレギュラー出演者に組み込むなどの実験的な試みも魅力の一つです。

 特筆すべきは、前述した5つの冒険から早くもヒット企画が生まれたこと。U字工事が未知の部族に潜入取材する「部族アース」が爆笑と熱狂的なファンを生み出しているのです。しかも話題の中心は、アマゾン奥地の部族でも、過酷ロケの名手・U字工事でもありませんでした。

今年最大のスター「ナスD」の誕生

 爆笑と熱狂的なファンを生み出しているのは、通称「ナスD」こと友寄隆英ゼネラルプロデューサー。番組スタッフであるにもかかわらず、どのタレントよりも目立ち、「もしかしたら今年最大のスターになるかも」と思ってしまうほどです。

 ナスDの魅力は、底なしの鈍感力。部族の人が言うことはすべて信じて、どんなことでも楽しそうにやってしまうのです。その最たるものは、「ウィト」という果実を「肌に良い」とすすめられ、「ありがてえ」とここぞとばかりに全身へ塗った結果、実は入れ墨に使う強力な染料で、映画「アバター」のような青黒い肌になってしまったこと。しかも、「絶対に落ちない」と言われ、時間の経過とともに色が黒や紫に変わってしまうため、そのたびに笑いを呼んでいます。

 元々は部族の人の他愛もないジョークに気づかず、欲張ってしまったことが原因なのですが、この日を境にナスDの置かれた状況は一変。珍しい部族の人を取材する立場なのに、逆に珍しがられてしまい、本来引き立てるべきU字工事を差し置いて主役になるなど、自分を見る人々の目が変わってしまったのです。

 普通の人なら「この先どうやって生きていったら…」という絶望感で旅どころではないはずですが、ナスDは「テレビ朝日をクビになったら…」と一瞬不安になったものの、すぐにラッツ&スターのモノマネをするなど、すぐに忘れてしまいました。ポジティブというよりも「深く考えない分、ネガティブになりにくい」という、良い意味での鈍感さが際立っているのです。

 その後、乗船時にパスポートを見せたところ「顔が違うじゃないか!」と怪しまれ、必死に弁明した結果、「客室をウロウロしない」「屋上デッキで寝泊まりする」ことを条件にされるなど爆笑の連続。笑いでも旅の過酷度でも、同行するU字工事をはるかに上回り、番組そのものの象徴になってしまいました。

芸人のお約束に飽きた視聴者を魅了

 そのほかにもナスDは、アマゾンの部族ですら食べない生物や、嘔吐(おうと)物にしか見えないものまで躊躇(ちゅうちょ)なく口に入れ、ジャングルの川で水を何度も飲み、オネエのコック長から誘われて部屋に行って、ハチに顔面を5カ所も刺されながらココナツをおいしそうに飲み干すなど、鈍感力を武器に衝撃映像を連発。最初はナスDの姿を見てケラケラ笑っていた部族の人々が、徐々にドン引きしてしまう様子がさらなる爆笑を誘います。

 U字工事のプライドがズタズタにされないかはさておき、番組としては、この想定外のスターをフル活用しない手はありません。毎週長い放送時間でフィーチャーしているほか、番組自ら「ナスD」と名づけたのも「親しみやすい愛称をつけてタレントのようにフィーチャーしよう」という策の表れでしょう。

 もはや笑いの神に愛されているという点では、「イッテQ!」のみやぞん、破天荒さでも「クレジャー」の旅人たちを上回っている気がします。ネット上の反応を見ても、ナスD目当てに番組を楽しみにしている人は多く、芸人同士のお約束ネタに飽きた視聴者が魅了されるのは当然かもしれません。

 さらに、ナスDを見た視聴者が「これくらいのことでネガティブになっちゃダメだな」「よし、自分も前向きに生きよう」と元気をもらえるのも見逃せないポイント。キャラの面白さとファンの多さでは誰よりもタレントらしく、こんなにも続きが気になる存在は現在の芸能界には見当たらず、その意味ではすでにスターなのかもしれません。

 アマゾンの旅が終わったら、ナスDはどこへ向かうのか。彼の生かし方が、番組の未来を左右するでしょう。

放送時間を奪い合う熾烈なバトル

 もちろん、ほかの企画も負ける気はありません。たとえば、ハーバード大学院卒でFBIとCIAから内定を得たREINAが、クイーン・エリザベスで世界を旅しながらセレブたちと友人になる「豪華客船アース」は、一歩ずつ人脈を切り拓く楽しさがあります。知力を駆使して、ケタ外れのセレブに踏み込んでいくREINAの交渉術は、さながら女スパイ。回を追うごとにゴージャスなセレブが登場する期待感が、特に女性視聴者の心をつかんでいるようです。

 そのほか、子分気質のバッドナイス常田がドローンを使った世界初の映像撮影に同行する「ドローンアース」、釣り素人のサンシャイン池崎が怪魚を狙う「釣りまアース」、ポンコツキャラのオオカミ少年・片岡正徳が摩訶(まか)不思議なスポットをめぐる「ミステリーアース」も、希少かつ過酷なロケを繰り返しています。

 現時点では、ナスDの活躍で「部族アース」が長い放送時間を勝ち取っていますが、それぞれの企画が「負けないぞ」というライバル心を燃やしているだけに、今後はバトル必至。「ライバルは他局の裏番組ではなく身内の別企画」という図式は、「イッテQ!」と同様であり、ヒット番組の条件とも言えます。

近い将来、ゴールデン昇格へ

「イッテQ!」が人気芸人を起用してベタな笑いを演出する一方、「陸海空」は演出ではなく自然体のリアクションを重視。アプローチの方法は違いますが、幅広い年齢層をターゲットにしていることが分かります。また「クレジャー」のようなマニアックさが薄いのも、「深夜番組にはとどまらないぞ」という意志表示ではないでしょうか。映像の差別化も含めて両番組とのすみ分けは明快だけに、1年以内に「陸海空」がゴールデンタイムに昇格しても驚きません。

 企画ごとにインスタグラムとツイッターで多くの写真や動画が公開されているのも楽しみの一つ。たとえば「部族アース」のインスタグラムには、テレビでは放送できないナスDの失態も…。こんなネットを使った展開からも、ヒット番組の予感が漂ってくるのです(ちなみに「部族アース」は他企画の100倍近いフォロワーを持つ圧倒的人気)。

 当面は、真田広之さん似のイケメン・ナスDの肌が元通りになる日が来るのか、それを追いかけるだけでも楽しめるはず。もし「美容整形アース」なんてスピンオフ企画があったら、笑いに満ちたものになるでしょう。

(コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志)