3強に次ぐ7位に手応え。ホンダF1「逆襲の土台」は固まってきた
7位――。フェルナンド・アロンソはまるで取り憑かれでもしたかのように、金曜フリー走行から決勝まで、ハンガリーGPのすべてのセッションをこのポジションで終えた。
「そうだね、レースでもまた7位だったね(笑)」
マシンを降りたアロンソは、そう言って笑った。
現在のマクラーレン・ホンダが発足してから、これまでの最高位は5位。昨年のハンガリーGPで記録し、今年のモナコGPでも、アロンソがタイ記録を残した。
数字だけを見れば、7位というのは特筆すべきものではないかもしれない。しかしこの7位というのは、「3強チームに次ぐポジション」を意味する。
「残念ながら7位から上に行くことはできなかったけど、現時点でメルセデスAMG、レッドブル、フェラーリのトップ3チーム6台は、他チームにとって手の届かない存在だ。僕らは"Best of the rest"だった。そういう意味では、望みうる最大限の結果を手に入れたし、今週の僕らはコンペティティブだったと思う」(アロンソ)
3強にリタイアがあれば過去最高位の更新もできたかもしれないが、それは結果論でしかない。重要なのは、実力で中団グループのトップに立ったこと。それも、全セッションでそのポジションを堅持し続けたことだ。
ホンダの長谷川祐介総責任者も、レース週末を通して高い実力を発揮できたと語る。
「ドライコンディションできちんと実力を発揮して7位ですから、本来であれば素直に喜べる結果だと思います。想定どおりのペースで、ロングランもよかったですし、クルマの進化も十分に感じられたレースでした。もちろん、パワーの影響が少ないコース特性という要素もあるとは思いますが、少なくともこのサーキットでは、実力でトップ3チームの次まで来てポイントが獲れたと思います」
ホンダがカナダGPでターボチャージャー、イギリスGPでICE(内燃機関エンジン)の吸気系を改良し、ICE本体の変更前に現状でき得るかぎりの性能を引き出してきたのに対し、マクラーレンもこの数戦は次々に空力パーツを投入してきた。中にはうまく使いこなせないものもあったが、レースごとに微調整を加えて最終的に最適な解(かい)を見つけ始めたようだ。たとえば、ディフューザーなどはオーストリアGPから3戦連続で細かなアップデートが繰り返されてきたし、ハンガリーGPには新型フロントウイングも持ち込まれた。
曲がりくねったハンガロリンクのコース特性が非力なホンダのパワーユニットのハンディキャップを小さくした面はあるものの、マシンパッケージとしてようやく成熟の域に達してきたことも、この好走の大きな要因になっていると長谷川総責任者は見る。
「ここはパワーハングリー(出力がラップタイムに与える影響が大きい)なサーキットではありませんし、それによるところもあったと思いますが、それだけでもなかった。今回もまた、たくさん空力面のアップデートが入っていましたし、クルマの総合力として進化したからこそ、よい結果が出せたと思います。最近のアップデートの数はすごいですし、そこはマクラーレン側の努力もすごいと思いますね」
しかしレース後、マクラーレン・ホンダのモーターホームでそう語りながら、長谷川総責任者の表情は曇りがちだった。
もちろん、これまで目標としてきた中団グループのトップに立てたことは喜ばしいことだ。トロロッソのカルロス・サインツやウイリアムズのバルテリ・ボッタスを寄せつけず、むしろ引き離して単独走行でフィニッシュしたほどだったのだから。
長谷川総責任者の心に重くのしかかったのは、バトン車にブレーキセンサーとオイル漏れのトラブルが発生して、最終的にはリタイアとなってダブル入賞を逃したこと。それに加え、トップ3チームとの間にある大きな差だ。
首位ルイス・ハミルトンから1周遅れ、6位のキミ・ライコネンからも51周目に抜かれてから20周弱で43秒の大差をつけられた。誰にも邪魔されることなく実力を出し切ったからこそ、3強との差が歴然と目の前に突きつけられたのだ。
「それもちょっと元気がない理由のひとつです。トップ3チームの次といっても、キミ・ライコネンから40秒差ですからね。その差は大きいです。今日はこういうレースだったからこそ、逆にトップ3との差が大きいなというのをはっきり見せつけられた感じがしました」
3強チームとの間に横たわる大きな差――。シーズン後半戦にその大差を埋めることは可能なのだろうか?
後半戦には、残る10トークン(※)を使ってパワーユニットにアップデートを施すべく開発が進められている。いよいよ出力向上の本丸であるICEの燃焼室に手が入り、ライバルメーカーと同じようなHCCI(予混合圧縮着火)技術が導入され、出力差は縮まるはずだ。
※パワーユニットの信頼性に問題があった場合、FIAに認められれば改良が許されるが、性能が向上するような改良・開発は認められていない。ただし、「トークン」と呼ばれるポイント制による特例開発だけが認められている。各メーカーは与えられた「トークン」の範囲内で開発箇所を選ぶことができる。
出力差が縮まれば、それを機にチームは"正のスパイラル"に入っていけるはずだと、長谷川総責任者は見ている。
「エンジンがよくなってパワーが出れば、その分ダウンフォースがつけられるようになる。そうすれば、タイヤの保ちもよくなるという"プラスのスパイラル"に入っていけるはずなんです。それに、今回も(決勝では)けっこう燃費セーブをしていましたけど、出力が上がれば燃費の問題もよくなります。ですから、今の見た目ほどのギャップがあるわけではないと思っています。ひとつがよい方向に転べば、そのギャップはどんどん縮まっていくのではないかと思っています」
パワーユニットの改良を契機としたそのプラスの連鎖は、車体のコンセプトそのものがきちんと理解でき、次のステップへと進む準備ができていなければ果たされないだろう。レース運営をはじめとしたチームの不手際が続くようでもダメだ。しかし、マクラーレン・ホンダは数々の失敗をもとに成長しつつある。
今年中に3強チームを食えるかどうかと言われれば、現実的に考えてそれは容易なことではないと長谷川総責任者も認める。しかし、シーズン後半戦の逆襲に向けて、その土台は固まりつつある。
米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki