土岐麻子(撮影:野原誠治)
 2004年1月に惜しまれつつCymbalsを解散した後、翌2月にアルバム「STANDARDS〜土岐麻子ジャズを歌う〜」でソロデビューを果たした土岐麻子。Cymbalsでのデビューから10年目を迎えた2008年は、豊川悦司と檀れいが出演する日産「ティアナ」CMでジャズの名曲「Waltz For Debby」を日本語カヴァーし、ユニクロCMでは本人自らが出演して「How Beautiful」を歌唱。また、くるりや真心ブラザーズの作品にゲスト参加するなど、CM業界のみならずアーティストからの支持も厚い。

――今回のアルバム「TOUCH」には、ユニクロCM ソングの「How Beautiful」や、日産ティアナCM曲の「Waltz for Debby」が収録されていますが、それ以前にも数多くのCM歌唱やナレーションのお仕事もやられてきて、ご自身ではなぜ自分にオファーが来るんだと思いますか?

土岐麻子(以降、土岐):最初は分からなかったですね。ナレーションに関しては多分、アナウンサーみたいに商品をクールに説明するようなものよりも、普通の感覚で伝えたかったり、語りかけるようなものだったり、お茶の間の人に隣に住んでる人が紹介してるような気持ちにさせてくれるCMでの起用が多かった気がしますね。ちょっとプライベートっぽい感じの声なのかな?

 5〜6年前にキユーピーのCMで、水菜をマヨネーズかドレッシングで和える映像の「水菜は鍋物だけの野菜だと思っていませんか?」「水菜サラダ」と言うナレーションをやったんですね。当時水菜って東京ではあまりメジャーじゃなくて、スーパーでもあまりスペースが割かれていなかったんですけど、私もナレーションしながら「へぇー、水菜サラダね」と思って、早速帰って作ったぐらいで(笑)。それで実際にその年に水菜の売り上げがすごく伸びて、前年に比べて3000倍も売れたらしいんですよ、本当に!鍋の季節に「春菊が無いから、このよく分からない野菜でいいよね」とか言って買われていたのが、積極的に「水菜サラダ」と言って作る人が増えたみたいで。キユーピーが水菜協会から表彰されたらしいんですよ(笑)。

 それはCM自体だったり、キャッチコピーだったりが大きいんですけど、もしかしたらナレーションをこういう普通の声で、ボソボソした抜けの悪い声で言ったからこそ、じゃないですけど(笑)。「これ知ってる?」みたいな感じで親しみやすいと言うか、だから私みたいな声の人が選ばれたのかな?という。

――ナレーション以外にもCM曲だったり、色んなアーティストの作品にゲスト参加されていますが、Cymbals時代から数えると2008年で10年自分の声と付き合ってきて、自分の個性を実感することはありますか?

土岐:どうなんでしょうね。声に関しては一番こだわっている所でありながら、自分ではどうしても客観的に聴くことができないので、分からないんですけどね。客観的に言葉でね「こういう声だと思います」と言うことはなかなか難しいんですが、あまりヴォーカリストっぽくないのかも知れないですね。いわゆる、今「ヴォーカリスト」と言われて思い浮かべるものの部類ではない感じというか(笑)。

――CMを制作する側からすれば、映像と音が合わさった時に、主張が激しすぎるとそっちに耳を奪われてしまうので、合わさることによって相乗効果が生まれるような、イメージを広げてくれるような音が好ましいと思いますね。

土岐:そうかも知れないですね。ずっとヴォーカリストで来たわけではなく、元々は楽器を弾いていて、Cymbalsで初めて歌ったんです。自分の中で、歌うことは例えばバンドの中でギターを弾くのとそんなに変わらないので。ヴォーカルだから「もっと自分の歌を聴いて!」というような主張を持っていい場面もあると思うんですけど、逆にそれが功を奏していることもあるかなって。特にCymbalsの時はもっと楽器的な関わり方をしていたので、実際にヴォーカルを2本とか3本とか同じラインで重ねて、ハモりも何本か重ねて。すごく焦点が定まらない感じの(笑)、ちょっと楽器に溶けたような声を作ったりすることもあったし、結構そういうアプローチをしていて。ソロになってからは、ちゃんと歌手として歌のあり方を考えてはいるものの、どこかで楽器的な所があるのかも知れないですね。