アメリカとイランの緊張関係が続くが…

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 15日、サッカーW杯に出場する日本代表メンバーが発表され、いよいよ本番に向けて臨戦態勢に入った。

 ヨーロッパの各チームで主力として活躍する選手が多数を占める今回の日本代表が、過去最強だという説に異論を唱える人は少ないだろう。これまでの最高成績であるベスト16を上回ることは「もはや目標ではない」という意識が選手間では当然のように共有されている。国際的にはまだ「ダークホース」的な評価かもしれないが、かなり「危ない存在」だという認識は深まっているだろう。何しろ、優勝候補の一角にも挙げられているイングランドを4月1日の親善試合で破った(1対0)。しかも敵地での快挙だ。もはや、日本代表が世界のどの国に勝っても驚く者はいないだろう。前回カタール大会の一次リーグでは、ドイツを2対1、スペインを2対1でいずれも破っているのだから。【小林信也(作家・スポーツライター)】

【出場なるか】イラン代表が合宿するトルコ屈指のリゾート地・アンタルヤの風景

一時は「辞退」報道も、現時点では「出場」が前提

 残念なのは、前回「三苫の1ミリ」で世界を驚かせ、4月のイングランド戦でも値千金のゴールを決めた三苫薫がケガのためメンバーを外れたこと。ずっと攻撃陣の中心にいた南野拓実も出場は叶わず。さらには、選ばれたものの、冨安健洋のコンディションも心配。しかし、それでもチーム力が大幅に落ちる懸念がないほど、いまの日本サッカー界には全体的なレベルの高さ、選手層の厚さがある。まずは6月15日の初戦、対オランダ戦が楽しみだ。

アメリカとイランの緊張関係が続くが…

 そして、サッカーW杯に関して私が強い関心を抱いているのは、イランが参加するか、辞退するかの成り行きだ。

 現地時間6月11日に開幕するサッカーW杯2026。会場はカナダ、アメリカ、メキシコの16都市16スタジアム。W杯が3カ国で開催されるのは史上初めてだ。

 イラン代表はアジア3次予選をA組1位で突破し、4大会連続7回目の出場を決めた。一次リーグでは、ニュージーランド、ベルギー、エジプトと同じグループGで戦うことが決まっている。

 初戦は現地時間6月15日(日本時間で16日の深夜2時から)のニュージーランド戦、場所はロサンゼルス・スタジアム。2戦目は21日のベルギー戦、同じくロサンゼルス・スタジアム。3戦目は26日のエジプト戦、シアトル・スタジアムだ。3戦とも“敵国”アメリカで予定される試合にイランが出場するのか。様々な憶測や情報が飛び交っている。一時はイランの「辞退」が報じられ、「イランに代わる出場国はどこになるのか」といった推測記事が話題になった。しかし、イランは辞退を発表せず、現時点では「出場」が前提とされている。

 もし開幕まで1ヵ月を切った直前に辞退すれば、イランはFIFAから最低でも50万スイスフラン(約1億円)の罰則金が科せられるほか、今後の国際大会への出場停止処分も検討されると見られている。

サッカーW杯は戦争や政争と無関係に開催されてきた

 サッカーW杯は過去の歴史において、政治的な対立や戦争とは関わりなく実施されてきた。

 イギリス留学経験を持ち、ヨーロッパのサッカー文化に造詣の深い神戸大学大学院・小笠原博毅教授はこう話す。

「私は、本当はイランに出場してもらいたい。出たら大量の亡命者が出るとか、衝突が起こるとか、懸念もあるでしょうけど。かつて冷戦の時代には、世界の政治状況とは関わりなくサッカーの国際大会が行われていた。対立している国もほぼすべて参加していました」

 例えば1986年のメキシコ大会。82年に南大西洋で勃発したフォークランド紛争の当事国アルゼンチンとイングランドが準々決勝で対戦した。まさにサッカーによる代理戦争の様相を呈したこの試合は2対1でアルゼンチンが勝利した。そして、歴史的に永く語られ続ける伝説の試合ともなった。

 それはマラドーナが決めた2つのゴールのためだ。1点目は「神の手」によるゴール。2点目は「5人抜き」のドリブルによるゴール。そういう表現だけで多くの人がそのシーンを思い浮かべるほどの劇的プレーが生まれたのは、両国が戦いから逃げず、真向から立ち向かったからだ。

 政治的に対立し合う国同士が当然のように戦うサッカー界の常識・伝統。それは、W杯が政治的中立を貫き、そして「平和の祭典」という「理想を掲げていないから」でもある。

 私には印象的な経験がある。2002年の日韓共催大会に向けた取材で、日本の大会事務局を訪ねた時のこと。事務局の担当者が私の顔を見るなり、直前に発表した原稿に関して、厳しく釘を刺したのだ。

「小林さん、サッカーのW杯は『平和の祭典』ではありません。FIFAはあくまでW杯を『サッカーの世界一決定戦』と位置づけています。今後は『平和の祭典』と書かないよう、くれぐれもお願いします」

 虚をつかれた思いがした。直前の原稿で確かに『平和の祭典』と形容した。しかし間違いだった。サッカーのW杯は平和の希求のために開催するのではない。ちょっと大胆に言えば、「戦争なんて関係ねえ」「オレたちはサッカーの勝負をするんだ」というサッカー魂。

 それゆえ結果的に戦争当事国同士の試合も行われるという不思議な“快挙”が実現してきたのだ。平和や政治に関与しない姿勢がもたらす幸運な現実。平和を謳わないことで実現する“平和な”対戦。この“皮肉”はとても示唆に富み、興味深い。

トランプ大統領も「容認」に態度を変えた?

 アメリカのトランプ大統領は、3月の時点ではイランの参加に否定的だった。イランの参加は、「生命や安全にとって適切ではない」と語り、4月22日には特使を通じて「イラン代表に代わってイタリア代表を出場させるようFIFAに要請した」と英国紙『FINANCIAL TIMES』が報じるなど、イラン代表を受け入れない姿勢を見せていた。

 こうした発言に反発したイランは、FIFAに対して試合会場をアメリカからメキシコに変更するよう求めたが、FIFAは認めなかった。

 こうした中、5月1日、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長が「アメリカでのW杯にイランは出場する」と明言したことを記者に問われて、トランプはこれまでと違う反応をしたとのニュースも伝わってきた。TBS NEWS DIGによればトランプ大統領は、

「(FIFA会長の)ジョニーがそう言ったのなら、私はOKだよ」

 と答えたというのだ。しかしまだ予断を許さない。12日の読売新聞はこう報じている。

「ルビオ国務長官は4月23日、『代表団のメンバーがイランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」と関係があれば、入国を拒否する可能性がある』と警告した。(中略)FIFAはイランの出場を保証する姿勢を崩していないが、トランプ政権の発言に対して目に見える措置も取っていない。5月20日にスイスで行うイラン側との協議で、出場に向けた調整を進める予定だ」

 イラン代表はトルコのアンタルヤで合宿するなど、出場に向けて調整を続けている。「出場」が決まったとしても、イラン革命防衛隊(IRGC)で兵役を終えた選手やチーム・スタッフに問題なくビザが発給されるかどうかなど、様々な懸念が予想される。

 イラン代表がロサンゼルスのフィールドに立てるかどうか。アメリカの観客はイラン代表をどんな態度で迎えるのか。目が離せない。

スポーツライター・小林信也

デイリー新潮編集部