大気のCO2を直接吸うより、再エネの方がコスパ良い
大気から炭素を除去する前に、まずは排出量を削減しないと…。
気候変動による最悪のシナリオを避けたければ、国際社会は二つの作業を同時に進める必要があります。ひとつは、再生可能エネルギーへの急速な移行。もうひとつは、大気からの二酸化炭素除去です。どちらの対策も膨大な費用が必要です。
しかし、新たな研究によると、アメリカは高コストで大量のエネルギーが必要な直接空気回収(DAC)よりも、再生可能エネルギーへの投資を優先すべきだそうです。
その1億ドル、何に使いますか?
科学誌Communications Sustainabilityに掲載された研究結果は、大気中の二酸化炭素を削減するうえで、拡大しつつある炭素除去戦略であるDACよりも、再生可能エネルギーのほうが、費用対効果が高いことを示しています。
研究論文によると、2050年までに、アメリカのほぼすべての地域において、風力発電や太陽光発電の導入に費やした資金は、DACに費やされた場合と比較して、気候と公衆衛生の両面でより複合的な利益をもたらすといいます。
研究論文の主執筆者で、ボストン大学環境保健学准教授のJonathan J. Buonocore氏は、米ギズモードの取材にこう語ります。
私たちの研究は、基本的に「大気中のCO2削減に1億ドルを投資する意思がある場合、その資金を何に使うのが最も効果的か」という問いを投げかけています。
同氏は続けます。
その1億ドルを風力や太陽光に投資した場合、特に石炭依存度が高いアメリカの電力網においては、DACに投資するよりもはるかに多くのCO2を削減できることがわかりました。また、再生可能エネルギーへの投資は大気汚染の低減にもつながりますが、DACではそれができません。
炭素除去と排出量削減
炭素除去と再生可能エネルギーは、気候危機に対して真逆のアプローチをとります。化石燃料からクリーンな電源への移行は、大気中に炭素が排出されるのを防ぎます。一方、炭素除去は、すでに大気中に存在する炭素を減らします。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、CO2による世界平均気温の上昇を安定させるには、どちらも欠かせないと結論づけています。
大気から炭素を除去する方法はいくつかあります。地球の生態系はこれを自然に行なっており、大気から取り込んだ炭素を土壌、森林、海洋に貯蔵しています。人間はさまざまな介入を通じてこうした自然の炭素吸収源を強化できますが、気候危機が急速に深刻化するなかで、DACのような技術が、大気中の炭素を削減するためのより積極的な手段として登場しました。
問題は、DACのコストが法外なレベルで、エネルギー需要が大きく、製造規模の拡大が必要であることから、依然として十分に展開していない点にあります。それでも、この技術は排出量の段階的削減を補完する短期的な手段として、その必要性が認識されつつあります。
また、気候変動の緩和策に使えるリソースは限られているため、どのように投資を最適に配分するかを見極めることがとても重要です。
DACにはまだ競争力がない
DACが再生可能エネルギー(特に風力と太陽光)とコスト面で競争できるかどうかを見極めるために、研究チームは同額の資金を投じた場合に各戦略がもたらす気候と公衆衛生上の損益をモデル化しました。
気候による損失は、「炭素の社会コスト」を用いて金銭に換算しました。これは、ある年に排出される1トンのCO2が引き起こす長期的な損失に相当する金額です。
公衆衛生に関しては、大気汚染への曝露の回避と死亡リスクの低減を推定するモデルを用い、その利益を「統計的生命価値」を用いて金銭に換算しました。これは、アメリカ環境保護庁(EPA)で採用されている指標です(トランプ政権のEPAは人間の健康や命を計算に入れないことにしたようですが)。
DACはまだ発展途上なので、研究チームは現在の商業実績(CO2の回収1トンあたり5,500kW時の電力と1,000ドルのコスト)から、公表されている予測のなかで極めて低い水準にあたる「ブレークスルー」シナリオ(CO2の回収1トンあたり800kW時の電力と100ドルのコスト)まで、4つの異なる効率改善シナリオに基づいて損益をモデル化しました。
Buonocoreは、「効率が約7倍向上し、コストが現在の10%にまで低下する『ブレークスルー』シナリオ下でのみ、DACは再生可能エネルギーを上回る成果を示しました」と語っています。
DACを切り捨てる必要はない(切り捨てられない)
問題の一端は、DACが大気からCO2を除去するだけという点にあります。再生可能エネルギーは、化石燃料に取って代わることで、PM2.5などの微粒子物質や、窒素酸化物、二酸化硫黄、その他の有害な大気汚染物質を削減します。何も燃やさないので公害物質を排出しないってことです。
なので、DACがもたらす公衆衛生上の利益は小さいです。実際のところ、現在の商業実績シナリオにおいて、電力網に接続されたDACは、2050年までに削減効果を上回る温室効果ガスの排出と大気汚染の被害をもたらすことになるそうです。これはもうDACを再生可能エネルギー100%で稼働させるしかないですね。
念のためにハッキリさせておくと、研究チームはDACを放棄すべきだと主張しているわけではありません。あくまでも、今回の研究は、短期的な対策として再生可能エネルギーへの投資を優先する重要性を訴えているということです。
Buonocore氏は最後にこう締めくくります。
私たちの研究は、再生可能エネルギーの導入と、その他の脱炭素対策をあわせて、大気中へのCO2の「流入を止める」ほうが、費用対効果が高く、他の主要なCO2排出源の大半が止まった後に、余剰分のCO2を除去するためにDACが必要になることを示唆しています。
2024年時点で、DACは1年かけて、年間排出量の約30秒分しか炭素を回収できていませんでしたが、せめて毎年1週間〜2週間分ずつくらい回収量を増やしてほしいところです。1.5度目標達成(オーバーシュートしてから戻すにしても)に絶対不可欠な技術なので。

