井上尚弥はなぜ“最強”なのか? 異例の亀戦法で批判された元世界王者が語った衝撃の記憶「ほとんど足の感覚がなくなっていた」

いよいよ中谷との運命の大一番に挑む井上(C)Lemino/SECOND CAREER/NAOKI FUKUDA
「彼に殴られたら列車に轢かれたような衝撃を受けるだろうと覚悟していた」
現代ボクシングで「最強」と評されて久しい井上尚弥(大橋)。「モンスター」という異名を世界規模で広める彼は一体なぜ「最も強い」とされるのか。
2012年12月にミニマム級でスタートさせたプロキャリアは32戦無敗(27KO)。まさしく敵なしの強さを誇りながら、世界でもテレンス・クロフォード(米国)と並んで2人だけの2階級での4団体統一も達成。さらに男子歴代最多となる世界戦27連勝という金字塔も打ち立てた。この功績の数々だけを見ても、井上が「史上最高傑作」とも語られるワケは明白と言えよう。
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ただ、モンスターの強さをよりリアルに物語るのは、彼と拳を交わし、そして敗れてきた者たちの“言葉”だ。井上と世界のベルトを懸けてきたファイターたちはいずれも猛者ばかり。だからこそ、その証言は価値を持つ。
「正式に契約をし、試合まで12週間という時から俺は彼に殴られたら列車に轢かれたような衝撃を受けるだろうと覚悟していた」
そう試合前から抱いていた畏怖の念を、母国の公共放送『BBC』で赤裸々に語るのは、22年12月に井上とバンタム級4団体統一戦に挑み、防戦一方のまま崩れ落ちたポール・バトラー(英国)だ。
当時、WBO世界同級王者だった37歳は、公式計量を終えた直後のフェイスオフで向かい合った際に「どうやって彼が闘志を削ぐというんだ? 正直、『小さいじゃないか』と思った」という。それでもリングで実際に対峙した井上は前日とは様変わりしていた。無論、実際に体格が増大したわけではない。しかし、バトラーにはそう見えていた。
「リングに上がったイノウエは、とんでもなく巨大だった。私に背を向けた彼のふくらはぎを見て、『おいおい……なんて太い脚なんだ』と思わされた」
ゴングを前に戦意は喪失しかけていた。その事実だけでも井上の凄まじい強さは十分に物語っているわけだが、興味深いのはここからだ。

井上に打ちのめされ、衝撃的なダメージを負ったバトラー。彼の目に映ったモンスターは、「ボスのようだった」という(C)産経新聞社
「亀戦法」によってあらゆるパンチを浴びた男
この試合は意外にも11回までもつれ込む。なぜなら守戦を選択したバトラーが粘りに粘ったからだった。
当時、英国人王者の戦いぶりは、井上本人が「勝つ気があるのか」と苛立ちを露わにし、母国内でも「気分が悪くなる」(IBF世界フライ級王者のサニー・エドワーズ)と批判を受ける異例の事態となったが、劣勢にあったバトラーからすれば、「それしかない」選択だった。
自ら選んだ「亀戦法」によって、ありとあらゆるパンチを浴びたバトラーは、井上のパンチ力が「いわゆる一撃必殺のKOアーティストが繰り出すようなタイプとは違う」と証言。リングで負ったダメージの大きさをリアルに描写している。
「8ラウンド目の残り2秒のところで、俺はイノウエのバックハンドを食らった。顎に真っ直ぐ当たったんだ。それでラウンドが終わるゴングが鳴ったことは覚えているんだが、自分のコーナーでジョー(トレーナーのジョー・ギャラガー氏)が何と言っていたのかを、一言も覚えていないんだ。そして9ラウンド目に出るために立ち上がった時、『まだ足が震えている』と思ったのを覚えている。もう、ほとんど足の感覚がなくなっていたんだ」
力任せな一撃ではなかった。それでも足が震えるほどの状態に陥ったというバトラーは、「デオンテイ・ワイルダー(元世界ヘビー級王者)のような一発の重みというわけじゃない。タイミング、スピード、そして正確さがある」と力説。そして、こう続けている。
「リング上での彼はまるでボスみたいだった。彼は小柄な男だが、技術、パワー、存在感、能力……文字通り全てを兼ね備えている」
5月2日、井上は東京ドームの大舞台で、自身と同じく32戦無敗のキャリアを送ってきた中谷潤人(M.T)と対峙する。リーチや体躯では挑戦者が上だが、はたして、怪物はどう闘うか。最強と呼ばれる王者のファイトに楽しみは尽きない。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
