破裂すると死の危険も…別名「サイレントキラー」、『腹部大動脈瘤』のリスクを高める原因は?

腹部大動脈は、心臓から全身へ血液を届ける最も太い血管で、健康な成人では直径20~25mm程度です。この血管が何らかの原因で弱くなり、直径30mm以上に膨らんでしまった状態が「腹部大動脈瘤」です。自覚症状に乏しく「サイレントキラー」とも呼ばれるこの病気は、動脈硬化や喫煙、高血圧といった生活習慣が複合的に関与しており、高齢男性に多く見られます。大動脈の構造や発症のメカニズムから、病気の本質を理解していきましょう。

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

腹部大動脈瘤とはどのような病気か

腹部大動脈瘤という病態を正確に理解するためには、まず生命の根幹を支える「大動脈」そのものの役割と構造を把握することが不可欠です。大動脈は、心臓の左心室から送り出された新鮮な血液を、脳から足の先まで全身のあらゆる組織へ届けるための、いわば身体の幹線道路です。この大動脈のうち、横隔膜を越えて腹部を下降する部分が「腹部大動脈」と呼ばれ、さまざまな内臓へ枝分かれしながら骨盤のあたりまで血液を供給しています。

大動脈の構造と腹部大動脈瘤の定義

大動脈は、心臓を起点として上向きにカーブを描き(大動脈弓)、背骨に沿って胸部、腹部を縦に貫き、最終的に骨盤の高さで左右の総腸骨動脈(そうちょうこつどうみゃく)に分岐する、人体で最も太く強靭な血管です。その壁は内膜、中膜、外膜の三層構造になっており、特に中膜は弾性線維が豊富で、心臓が収縮する際の高い圧力にも耐えうるしなやかさを持っています。健康な成人の腹部大動脈の直径は、個人差はありますが、およそ20~25mm程度です。この腹部大動脈が、何らかの原因で壁が弱くなり、正常径の1.5倍以上、具体的な目安として直径30mm以上に局所的に膨らんでしまった状態を「腹部大動脈瘤」と定義します。「瘤(こぶ)」という漢字が示すとおり、血管の壁が風船のように、あるいはタイヤの一部が膨らむように拡張した状態をイメージすると分かりやすいでしょう。

発症のメカニズムと原因

腹部大動脈瘤が形成される最も主要な原因は「動脈硬化」です。動脈硬化とは、加齢や不適切な生活習慣(高血圧、脂質異常症、喫煙、糖尿病など)を背景に、血管の壁が厚く、硬くなり、本来の弾力性を失っていく進行性の変化を指します。特に、血管壁の中膜にある弾性線維やコラーゲンが変性・破壊されると、心臓が血液を送り出すたびに繰り返される血圧の衝撃に耐えきれなくなります。その結果、壁の構造が特に弱くなった部分が、内側からの圧力に抗しきれず、徐々に外側へ向かって膨らんでいくのです。その他、稀ではありますが、細菌感染によって血管壁が炎症を起こして脆くなる感染性大動脈瘤や、膠原病などの炎症性疾患、さらにはマルファン症候群のような遺伝的な結合組織の脆弱性が関与することもあります。疫学的には、腹部大動脈瘤は高齢の男性に圧倒的に多く見られ、特に長年の喫煙歴、高血圧、高コレステロール血症(脂質異常症)といった生活習慣上のリスク因子が複数重なることで、発症の危険性が著しく高まることが指摘されています。

まとめ

腹部大動脈瘤は、その多くが自覚症状に乏しいまま進行するという点で、まさに「見えにくい病気」であり、だからこそ怖いのです。しかし、本記事で解説したように、お腹の拍動感や原因不明の腹痛・腰痛、下肢の血流障害など、身体は時に重要なサインを発してくれます。これらのサインに早期に気づき、病気の可能性を疑うことができれば、破裂という最悪の事態を回避し、適切な診断と治療につながる可能性が大きく広がります。特に、喫煙歴のある高齢男性など、リスク因子を持つ方は、症状がなくても定期的に腹部エコー検査などのスクリーニングを受けることを強くお勧めします。もし気になる症状がある場合は、決して放置せず、かかりつけ医、あるいは循環器内科や血管外科といった専門の診療科に相談してください。あなたの大切な命を守るために、まずは正しい知識を持ち、勇気を出して専門家への相談という一歩を踏み出してみてください。

参考文献

日本循環器学会「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年改訂版)」

国立循環器病研究センター「腹部大動脈瘤」

厚生労働省 e-ヘルスネット 「脳血管障害・脳卒中」