(※写真はイメージです/PIXTA)

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2023年に史上最高の黒字を達成した銀行協会。銀行は公共性が高いものの民間企業であるため、利益を追うのは当然でしょう。しかしその儲けは、ユーザー(特に高齢者)の犠牲のもとで増えているのかもしれません……12万部超えのベストセラー『節約の王道』の著者で、御年77歳になる林望氏の新著『節約を楽しむ あえて今、現金主義の理由』(朝日新聞出版)より、林氏の実体験を交えてみていきましょう。

定期預金の解約に2時間…筆者が抱いた銀行への不信感

私は銀行に対して「けしからん」と思っています。

先日、定期預金を解約するためある銀行へ行った際にこんなことがありました。

それはちょうど昼過ぎの繁忙時間でしたが、窓口が7つあるのに、開いているのはたった2つだけ。1つが普通預金、もう1つが定期預金に対応していたのですが、私が並んでいた定期預金のほうの列が、こまったことに、全く進まないのです。

じっと観察していると、一人のご高齢の婦人の対応に手間取っているようなのだけれど、さすがに1時間ほど経って「いくらなんでも待たせすぎだから、もう一つの窓口を開けて対応してもらえませんか?」と銀行の案内係のような人に伝えたのでした。

しかし、彼は「申し訳ありません。少々込み合っておりまして、順番にご案内しておりますので、いましばらくお待ちくださいますか」なんて決まり文句を繰り返すだけで、窓口のほうにはいっこうに伝達する様子もなく、待てど暮らせど誰も出てきはしない。

それで結局、定期の解約をするのに2時間近く待ちました。これはもう定期解約の客などはできるだけ嫌がらせて解約を諦(あきら)めさせようという腹なのではないか、と私は疑いました。

それで、こんなふうに、お客をいたずらに待たせて、待つのが嫌ならば「こちらの新しいカードになさいませ」というように誘導しようとしているのではないか……と思わず疑ったほどです。

この銀行では、現在、クレジットカード、デビットカード、ポイントカードといった機能をあわせ備えたナンバーレス・キャッシュカードをしきりと推奨しています。これは、その口座の情報を、すべて所定のアプリで管理する仕組みになっているといい、しかも、そのキャッシュレス決済でポイントも貯まれば、NISAなどの運用資産もこれでできます、というような「便利さ」をしきりにアピールしているのです。

「便利さ」の裏に潜む怖さ

そうして、「スマホを読み取り機にかざすだけで、支払いが完了するタッチ決済ができて便利です」「タッチ決済はお待たせしません」という点も強くアピールしています。

しかし、冷静に考えてみるとかなり怖いことです。

そういうことが他人に悪用される恐れが決してないと言えるのかどうか……いや、たしかに便利は便利かもしれないけれど、それ以前に、いちいちアプリなどを入れたりして、あれこれとやらなくてはならないというのは、私のように、そういう煩雑な手続きを苦手としている、とくに高齢者たちにとっては、非常にやりにくいところがあります。

だからといって、それを誰か他の人にやってもらったりすると、悪用する人が決してないとも言えない。だから、そういうシステムを「当然のこと」として、なんでもそちらへ誘導しようとしている、社会全体の風潮そのものが、もう私には親しみがもてません。

2023年、銀行協会は「史上最高の大黒字」

それにつけても、銀行内の窓口の様子を見ていても「どうしてお客の数に比して、こんなに銀行員が少ないのだ?」と感じるわけです。

ははーん分かった、要するに、銀行は人件費を節約したいし、待つのが嫌ならオンラインにしたらどうだと誘導しているのであろう! 結局のところ、よくよく考えてみれば、それもこれも、銀行が人件費をできるだけカットしたい、そしてお客にアプリ決済などを勧めて、要は銀行が儲けるためにしていることに相違ないのです。

2023年は銀行協会は史上最高の大黒字だったというニュースを見ました。

それも、しかしひどい話です。

よろしいか、なにしろ私どもユーザーから預かった貯金には事実上利子など付けず、それでいて、自分の金をATMで引き出すだけで、一年分の利子の何十倍もの手数料をとっているのですからそりゃ儲かったでしょう。

そのうえ、もっと儲けるためには銀行員を減らせばいい。で、支店も減らせば経費がかからないし、手続きなども全部オンラインにしていけば、それはもちろん銀行は儲かるでしょう。

なぜ信用できないかには理由がある

以前はもっと数多くの都市銀行がありました。しかし、平成時代に銀行の大合併が行われて、いくつかの大銀行に収束したのが現在の姿です。ただ、どうも以前のシステムがどこかに残っているらしく、銀行間の不整合が起きた結果、突然システムダウンするというようなことが現実にいくらも起こっています。

そしてそういう不手際で顧客に多大の迷惑をかけておいても、なんの補償もしないという、このあこぎなる体質には、はなはだあきれ果てるばかりです。

それゆえ、銀行の言いなりになって、すべての取引をオンラインだけにしていたとしたら、もしそのシステムがダウンしたり、あるいは外国の黒い組織からハッキングされたりしたら、当座に必要な現金を出すのも入れるのもできなくなってしまう。

キャッシュレスという現今の風潮の背後には、そういうのっぴきならないリスクが伏在しているのだということを、まずもってよく認識していなくてはなりますまい。

人間がやる以上、ミスの絶無ということはどうしたって保(ほ)しがたい。人間はあやまりを犯す存在なのです。あるいは、悪意で人の口座から金を盗みとったり、組織のシステムに入り込んで悪さをしたりする組織的犯罪だって、世界中にいくらも発生しているではありませんか。

林 望
作家・書誌学者