イチゴの苗に止まったヒロズキンバエ(2日、千葉県八千代市大和田新田の「京成バラ園」で)

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 千葉県内各地のイチゴ園で、授粉にハエを活用する動きが広まっている。

 ミツバチと比べて育てやすく、人を刺さないうえに、クリーンな環境で育てているため衛生的だ。ミツバチは近年、病気や農薬の影響とみられる大量死が問題となっており、関係者は「ハチに代わる新たな栽培の担い手になってほしい」と期待する。(大治有人)

蜜しか食べない『リトルファーマー』

 「いい香り!」「この実は真っ赤だよ!」

 甘い香りが漂う京成バラ園(八千代市)の栽培ハウスで2日、イチゴ狩りの参加者たちが真っ赤に熟れたイチゴを摘み、カップに入れていた。

 目をこらすと、花や葉っぱに、つややかな緑色をしたハエがいる。体長1センチに満たない「ヒロズキンバエ」だ。ハウス内に植えられた約5000株のイチゴの授粉を担っている。

 成田市の小学2年男児(8)は「甘いイチゴをたくさん食べられて楽しかった。ハエもかわいい」と声を弾ませ、東京都葛飾区の医療事務女性(24)は「虫は苦手だが、甘いイチゴを作ってくれたハエたちに感謝したい」と笑顔で話した。

 同園では2021年12月にイチゴ園が開園した当初から、ヒロズキンバエを活用してきた。一般的にハエには不潔なイメージがあるが、ハウス内では蜜しか食べないため、清潔だ。常時約1200匹がハウス内を飛び、授粉に貢献している。

 「オズの魔法使い」をテーマとしたイチゴ園の世界観に合わせ、参加者には「蜜しか食べない『リトルファーマー』が働いているよ。仲良くしてね」と紹介している。

 京成バラ園芸ローズ事業部の佐藤克己課長(52)は「ハエに忌避感がある人もおり、マイナスイメージをどう和らげられるかが課題だが、『リトルファーマー』も私たちと同じスタッフ。おいしいイチゴを作れるよう、一緒に頑張りたい」と話している。

ハエ導入で奇形果減少

 ヒロズキンバエは、ミツバチと比べて優れた点があるという。

 ミツバチより低温や高温の環境下で活動できる。また、ミツバチは紫外線で花の蜜や花粉を見分けるため、紫外線が出ていない日は活動が鈍るが、ハエは天候に関係なく動く。ミツバチに比べて小さいため、授粉時に花を傷つけて、奇形果を生じさせることも少ないとされる。さなぎをハウス内に置くだけで羽化する手軽さも魅力という。

 こうしたメリットを踏まえ、ハチからハエに切り替えたのがサンベリー農園(千葉市若葉区)だ。イチゴ4種類約800株の授粉を数百匹のハエが担っている。

 当初はクロマルハナバチを利用していたが、巣箱に水をかけて湿気を保つなど手間がかかった。さらに、巣箱単位で飼育することから花の数に対してハチが多くなり、花が傷つけられるなどして奇形果が生じていた。

 昨年、ヒロズキンバエを導入すると奇形果が減少。ハチに刺されることを怖がるイチゴ狩りの客に安心して楽しんでもらうことにもつながっているという。

 責任者を務める松原太陽さん(39)は「ハチより扱いやすく、人を刺す危険もない。おいしいイチゴができるよう働いてもらいたい」と話している。

ミツバチは「大量死」が世界的問題

 ミツバチは近年、病気や農薬の影響とみられる大量死が世界的に問題となっており、ヒロズキンバエはその「代替昆虫」としても注目を集めている。帰巣本能がないため露地栽培には向かないが、ハウス栽培には有効だ。

 医療用のハエの幼虫を生産する「ジャパンマゴットカンパニー」(岡山市)は、ミツバチ不足を受けて11年に授粉用のハエの販売を開始した。佐藤卓也社長は「北海道から沖縄まで、全国で活用されている。ミツバチの供給が不安定な時代の新たなスタンダードになってほしい」と期待している。