先日、医師の高須克弥氏が、Xに「胃ろうは無駄な延命ではない」と投稿し、大きな反響を呼んだ。「胃ろう」とは、病気などで口から食事ができなくなった場合、胃に小さな穴をあけ、チューブを通し、直接栄養剤を注入するという方法。

【映像】“胃ろう”を始める様子(実際の映像)

 医療費、終末期のケア、尊厳など、さまざまな問題をはらむ、胃ろう。その現実と、メリット、デメリットについて、現場の医師、看護師とともに『ABEMA Prime』で考えた。

■ 胃ろうは「第2の口」か「悪の延命」か

 永寿総合病院がん診療支援緩和ケアセンター長の廣橋猛氏は、胃ろうについて「第2の口を作るようなイメージだ」と説明する。

 対象となるのは、脳梗塞で嚥下(えんげ)機能が低下した人や、癌、老衰に近い状態で寝たきりになった人など多岐にわたる。「胃ろう=延命治療、延命治療=悪というイメージが持たれやすい。ただ寝たきりで生かされているという代名詞のように思われているからではないか」と分析する。

 一方で、胃ろうは一度始めたら一生続けなければならないわけではない。「リハビリによって再び口から食べられるようになり、胃ろうを卒業する人も普通にいる」と一時的な回復手段としての側面を強調した。

■ 20年前に「つけない」決断をした家族の葛藤

 20年前に祖母(享年92)の胃ろうの判断を迫られた、ベネケア訪問看護センター代表の足立拓也氏は、「つけない」決断をした。祖母はアルツハイマー型認知症を患い、食事を飲み込むことができなくなっていたという。

 「胃ろうをしないということは、栄養が入らないため命が絶たれることを意味する。看護師として知識はあったが、本人の意思がわからない中で決断するのは非常に悩んだ」(足立氏)

 事前に話し合えるタイミングはなかったのか。「当時はなかった。今でも事前に話せている患者さんはほぼおらず、家族が本人の思いを推定して悩み抜くしかないのが現状だ」と答えた。

■医療現場に潜む「訴訟リスク」と「制度の歪み」

 フリーランス麻酔科医の筒井冨美氏は、日本で胃ろうが選択されやすい背景に、施設側の防衛策があると指摘する。「高齢者が食べ物を喉に詰まらせて亡くなった際、施設側が責任を問われ、2000万円を超える賠償を命じられる判決が出ている。現場としては、安全な胃ろうを勧めざるを得ないインセンティブが働いている」。

 また、制度上の問題も挙げ、「自宅での介護が難しく入院を希望しても、特別な医療処置がないと入院できない場合がある。家族を休ませるために、あえて胃ろうという『処置』を作って入院の理由にするという、微妙な理由で選ばれるケースもある」と語った。

■「寝たきり大黒柱」と社会保障費の現実

 議論は、胃ろうによる延命と公費負担の問題にも及んだ。筒井氏は「意思疎通ができない寝たきりの状態を胃ろうで3年延ばすことに、本人の人生の意義がどれだけあるのか。その間に月40万円から50万円の公費が投入され続ける現状を直視すべきだ」と主張する。

 住民税非課税世帯の場合、高額療養費制度により自己負担が月1万5000円程度に抑えられることがある。「本人の年金が月10万円あれば、延命した方が家計が潤う『寝たきり大黒柱』という現象が起き、金銭的なインセンティブが働いてしまうこともある」。

 これに対し、中道改革連合の衆院議員で、元厚労副大臣の伊佐進一氏は「現役世代の負担を減らす改革は必要だが、患者一人ひとりの生活をリアルに見る丁寧な議論が必要だ。単に医療費削減のメッセージだけが先行してはいけない」と返した。

■ 最後までどう「生きる」かを話し合う

 今後、さらに多死社会へと突き進む日本で、どう向き合うべきか。廣橋氏は「どう死ぬかではなく、最後までどう生きるかを話し合う『人生会議』が大切だ」と語る。

 家族が判断を迫られた際のヒントとして、筒井氏は「『できるだけのことをしてくれ』と言うと、医療現場では胃ろうになってしまう。本人のために『一番辛くない最後にしてほしい』と伝えてほしい。そうすれば、緩和ケアを含めた選択肢を提案できる」とアドバイスした。

 足立氏は、「テレビを見ていてポロッと出た一言など、日常の些細な会話が、いざという時の家族の判断を支えるヒントになる。普段からお互いの考えを共有しておくことが何より大事だ」と述べた。

(『ABEMA Prime』より)