トランプ大統領の責任感はゼロと判明…「自由世界の暴君」は世界をどこまで苦しめ続けるか
イラン戦争最大の誤算
トランプ大統領は昨日の演説でこれまでの戦果を強調した後、今後数週間で米軍をイランから撤退させる計画を明らかにした。
しかし大統領の発言は「石油価格の上昇」や「株価の急落」など周辺状況の悪化に対応した「口から出まかせ」的な面も強く、信頼性に足るものではない。現時点で確かなことは戦争が今も続いていること、そして世界中の人たちがそれによって苦しめられていることだ。
先日ウォールストリート・ジャーナルのイラン戦争に関する報道を読んでいたら、「(市街地の上空から落下してきた)迎撃ミサイルの破片によってUAE(アラブ首長国連邦)の一般人が二人殺された」とする記載に出くわした。
以前から、こういう事は起き得るのではないか、と思っていたが、「本当にあるんだな」と(遥か遠い地域における戦争ながらも)改めて恐怖を感じた。つまり迎撃ミサイルがたとえ相手方のミサイルを打ち落としたとしても、その国で暮らす住民にとって必ずしも安全とは言えないのだ。
日本では今、ガソリンをはじめ各種のエネルギー代が高騰し、インフレが進んで株価が急落するなど、この戦争の影響でみんな困っているが、中東、特にペルシャ湾岸諸国の人たちはその何倍もの苦しみや恐怖に晒されているのだな、と(普段は薄情な)筆者もさすがに同情を禁じ得ない。
恐らく、この戦争を始めたトランプ大統領やネタニヤフ首相にとって最大の誤算となったのは、ハメネイ師ら指導部の相次ぐ殺害を受けて、イラン革命防衛隊(IRGC)が同国の実権をほぼ完全に握ってしまったことではなかろうか。
トランプ政権とイスラエルによる「エピック・フューリー(叙事詩のように壮大な怒り)作戦」は、イラン指導部の壊滅という戦術的成功を収めた一方で、当初期待されていた「体制の崩壊」や「民衆の蜂起」には至っていない。イラン国内では国民に対する厳しい統制が続いており、体制転覆を引き起こすような組織的革命は起きようがない。
イスラエル軍がイラン指導部の穏健派や交渉支持派も同時に排除してしまった結果、イランの意思決定はほぼ完全にイスラム革命防衛隊の強硬派に委ねられた。これにより外交的な出口戦略が極めて困難になっている。
武装組織IRGCによる事実上のクーデター
専門家の多くは、IRGCが(最高指導者の権限を含む)国家の主要な機能を事実上掌握した「ソフト・クーデター」の状態にあると指摘している。新たな最高指導者に指名されたモジタバ・ハメネイ師についても「彼がIRGCに指示を出しているのではなく、IRGCが彼をコントロールしているのが実情」と見ている。
以前から半ば過激派集団との評判があるイラン革命防衛隊は、アメリカにとってまともな交渉相手とはなりそうもない。両国の当事者間における深い不信感が、即時停戦はおろか長期的な停戦に向けた期待さえ打ち砕いてしまった。
イラン指導部の相次ぐ殺害を経て、イラン軍は中央政府の政治判断を待たずして、各地域の司令官が独自の計画に従って武力攻撃を継続する「モザイク国防」ドクトリンに移行しており、IRGCの現場指揮官の権限がかつてない程に肥大化している。
よく知られているように、トランプ大統領は「イランは交渉を望んでいる」と主張するが、トランプ政権が提示した15項目(核開発プログラムやミサイル開発の撤廃など)の和平条件はイラン側にとって受け入れ難い内容だ。
一方、イラン側が提示した和平条件は「アメリカ、イスラエル側の攻撃の完全停止」や「再攻撃しない保証」「損害賠償の全額支払い」など主要5項目に加え、「ペルシャ湾岸地域を含む西アジア全域からの米軍の完全撤退、並びに米軍基地の閉鎖」を求めている。
こんな条件をトランプ大統領、いや(大統領が誰になっても)アメリカ政府が呑むはずがない。トランプ政権とイランの交渉は難航しているというより、最初から交渉になっていない。その点ではイラン側の「アメリカとは交渉していない」とする主張が皮肉にも当たっている。
アメリカ地上軍のカーグ島上陸が迫る
今やイラン情勢は極めて緊迫した局面を迎えている。
トランプ大統領は、イランがホルムズ海峡の封鎖を解かない限り、同国内の発電所などエネルギー施設を「壊滅させる」と警告した。大統領は当初、3月27日を攻撃開始の期限と定めていたが、「イラン政府からの要請」に基づき、その起源を米国東部時間の4月6日夜(日本時間の4月7日午前9時)まで10日間延長すると表明した。
一方、(トランプ政権が「戦争省」と呼ぶ)アメリカ国防総省は、イランのカーグ島やホルムズ海峡沿岸部への地上部隊派遣を含む数週間に渡る軍事計画を準備中である、と各国メディアが報じている。
カーグ島はイランの原油輸出の約9割を担う同国経済の生命線だ。3月13日に米軍は同島にあるイランの軍事拠点を空爆したが、石油関連施設への直接攻撃は慎重に避けていた。しかし今やカーグ島の周辺地域には、数千人の海兵隊や陸軍部隊が到着しており、いよいよ「上陸」が現実味を帯びて語られ始めた。
トランプ大統領は「地上軍の派遣には正当な理由が必要だ」などと柄にもなく合法的な姿勢を覗かせているが、イランとの交渉が決裂した場合(今のままでは決裂にするに決まっている)、「最終攻撃」の選択肢としてカーグ島の奪取・占領が検討されているのは事実のようだ。
もしも本当にイラン電力施設への攻撃やカーグ島上陸が実行されれば、イランの原油輸出拠点が閉鎖ないしは破壊される危険性が高まり、世界的なエネルギー危機が訪れて、原油価格はあっという間に1バレル120ドルを突破し、いずれ200ドルに達するとの予測もある。
またイラン国内では「水道」「食料供給」「医療」など、市民生活のライフラインに壊滅的な打撃を与えると危惧されている。
これに対しイラン革命防衛隊は「永遠に続く報復」を警告しており、イスラエルそしてUAEやバーレーンなど湾岸諸国に対するさらなるミサイル攻撃、ドローンによる米軍基地・イスラエルへの新たな反撃、あるいはホルムズ海峡に続く別の海峡の封鎖といった戦域の拡大が懸念される。
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