小倉美恵子さんという作家が、3・11(東日本大震災)の福島の原発事故の後に、素晴らしい映画を作られました。東北地方の陸前高田を中心に取り上げて、長野県の諏訪湖あたりで風土を尊重して生きてきた人間の物語を描いた映画です。この映画は日本の多様性を象徴しています。

 日本はもともと根付いていた多様性についてもう一度見直さなければ、日本の次の活性化はできないと思います。


 メディアの在り方は

 ─ 生成AIが記事を書く時代になってきていて、改めてメディアの役割が問われています。先生はどのように考えていますか。

 カセム 例えばNHKはメディアとしてはしっかりしていると思いますが、みんながテレビを見なくなっている時代ですから、NHK ONEのような配信で、いかにSNSの客層を取り込んでいけるかということが課題だと思います。

 YOUTUBEなどの番組も、テレビ番組にいずれ入れるようにすればいいと思います。

 政治報道に対してNHKはコメントもしっかりしていますし、声無き声を取り上げています。個人的にはイギリスのBBCを超えたと感じています。

 ─ メディアで報道するということは社会にとって必要なものだと。

 カセム とても大事なインフラだと思いますね。実はわれわれ研究者も同じような悩みにさらされています。

 SNSでいろいろなフェイクニュースや、特に若い研究者は情報の区別が甘いときに、わたしは知性の高いサイトに行きなさいとよく指導しています。例えば米国の国立科学アカデミーのサイトにあるような情報や、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の健康法が信頼できます。

 信頼できないところが記事を非常にセンセーショナルにまとめて、真実か真実ではないかとわからないように、まともな記事の顔をして出すサイトがたくさんあるのです。

 ですからそこを皆さんが用心深く見抜かないと、良い研究者にはなれないという指導をしています。それと似ていることだと思いますね。

 ─ そうすると、今後既存メディア側はどう変化していくべきだと考えますか。

 カセム そうですね。例えば自動車産業と比べると、電気自動車を開発し始めた時には、ホンダもトヨタ自動車もみんな一緒になって開発していたんです。お互いに技術を共有したりしながらやったわけですね。そうすることで結果として、みんなが儲かることになるわけです。

 ホンダのCVT技術が、トヨタのハイブリッド車に不可欠ですからホンダも儲かるしトヨタも儲かる。スバルとトヨタが共同開発したことによって、スバルの繊細な足回りの良さをトヨタの自動車に入れることができて、トヨタはよりたくさん自動車を売れるようになった。

 その一部の利益がスバルにいくわけです。自分で販売しなくてもお互いが儲かってくる。これと同じような形でメディア版のようなものを作れないかということは、考えるべきだと思います。


 「信頼」が重要な世界線へ…

 ─ 今後の世界における日本の役割、使命について、聞かせてくれませんか。

 カセム わたしは2023年が重要な起点だったと思います。

 この年に、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなるBRICS諸国の総GDPが、G7の総GDPを上回ったんです。今、BRICSの周りにアルゼンチン、東の国々、インドネシアなど新興国や発展途上国がくっつき始めています。今後この集合体はもっと大きな力になるでしょう。

 先進諸国とBRICSどちらとも信頼関係が深いのが日本です。G7とも付き合えるし、新興国とも付き合える。