粗品

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販売・視聴期間が延長

 霜降り明星の粗品が企画した「粗品VS漫才劇場〜アンチコメントの変〜」というライブの配信チケット販売枚数が3万7000枚を突破し、吉本所属芸人の主催公演としては過去最高記録となった。大好評を受けて、配信チケットの販売・視聴期間が延長されることになり、まだまだ売上が伸びる可能性がある。なぜここまでライブ自体が大きな話題になり、配信チケットが売れたのだろうか。【ラリー遠田/お笑い評論家】

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 このライブが行われるまでの経緯を簡単に整理しておこう。粗品は2月11日に「吉本の社員に粗品アンチがおる事件について」と題した動画をYouTubeに投稿した。渋谷よしもと漫才劇場・神保町よしもと漫才劇場のYouTubeチャンネルの動画コメント欄に書き込まれていた粗品へのアンチコメントに対して、劇場の公式アカウントが賛同を意味するハートマークを付けていることを明らかにしたのだ。

粗品

 さらに調査が進むにつれて、粗品だけでなく、エバース、エルフ、ヨネダ2000といった芸人たちへのアンチコメントに対しても、同様のハートマークが付いていることが発覚した。芸人の味方であるはずの劇場の公式アカウントが、そのようなコメントに対して好意的な反応をしているのは明らかに問題がある。

 その後、粗品は2月25日に「犯人が見つかりました」と題した動画をアップして、一連の顛末を明かすためのオールナイトライブ開催を宣言した。先行販売期間のわずか2日弱で、214席に対して約7500件の応募が殺到し、約35倍という驚異的な倍率でチケットは即時完売となった。

 ライブが話題になった最大の理由は、そこに至るまでの導線が完璧だったからだ。事の発端はちょっとした社内トラブルである。吉本の社員が芸人のアンチコメントにこっそりハートを付けていたというのは、マスコミがニュースで取り上げる価値はない程度の些末な話題に過ぎない。

一連の物語構造

 ところが、粗品はこれを単なる小さなトラブルで終わらせなかった。「問題提起→調査→犯人特定→ライブでの全容解明」という一連の物語構造に仕立て上げて、視聴者を続きが気になる状態に引き込んだのだ。彼の動画を見ているうちに、人々はいつの間にか事件の真相を知りたくなっている。そして、何かに導かれるようにチケットを購入してしまう。事件を盛り上げてライブに観客を引き寄せる粗品の手際は見事なものだった。

 ライブの内容も良かった。ドンデコルテ、エバース、エルフなど今が旬の芸人も多数出演していたし、オールナイトイベントということで通常のライブより時間も長かった。まだ配信期間中ということもあって具体的な内容のネタバレは控えるが、確実にチケット代のもとは取れるだけの充実した内容だった。ライブの出来が良かったからこそ、口コミで話題が広がって配信も売れているという面もあるのだろう。

 音楽のライブなどに比べると、お笑いライブはややマイナーな存在である。テレビやYouTubeでお笑い系のコンテンツを見る習慣がある人でも、実際にチケットを買ってライブに足を運んだことがある人は少ない。

 だからこそ、影響力の強い芸人である粗品が、ここで配信チケットを大量に売ったことの意義は大きい。彼が本格的に仕掛けたことで、配信チケットの売上が過去最高のぶっちぎりの記録になった。こうなることでお笑いライブそのものにも世間の注目が集まるし、これをきっかけに別のライブの配信チケットをまた買おうと思う人も出てくるかもしれない。

 大げさに言うなら、それはNetflixが手がけたWBC独占配信という試みに近い。WBCという圧倒的な人気コンテンツがNetflix独占配信になったことで、Netflixに新たに加入する人が一気に増えた。彼らの中には、WBCだけを見てすぐに解約してしまう人もいるかもしれないが、これをきっかけに、Netflixのほかのコンテンツをチェックする人もいるかもしれない。WBCが呼び水となって、Netflixや配信というものに新たな客層が取り込まれたのは間違いない。

 粗品のライブでもこれと同じことが起こった。お笑い界のメジャー級のスターである粗品が、お笑いライブを主催して話題を振りまいたことで、お笑いライブという文化が普段そこに触れていない層にまで広まった。それがお笑いそのものを盛り上げて、業界を活性化することにつながっている。

 粗品はただの芸人ではない。芸人としての実力、プロデューサーとしてのセンスを武器にして、お笑い界を盛り上げる興行主であり、天才的なプロデューサーなのだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部