子どもの万引きが再び増加、動画拡散のリスクも 専門家が警告する進路への深刻な影響と「見逃せないSOS」
「犯罪の入り口」とも言われる少年の万引き。減少傾向が続いていましたが、2023年から再び増加に転じたことが注目されています。
昨年12月には、研修旅行先のインドネシアのバリ島で、日本の生徒らが万引きに及ぶ様子が映像としてSNSで拡散し、学校が謝罪する事態となりました。
子どもが万引きをしたと知れば、多くの大人は動揺するでしょう。進路への影響などが、真っ先に頭に浮かぶかもしれません。
家庭裁判所の調査官をつとめた文教大学教授の須藤明さんは、万引きは子どもが発する「SOSのサイン」の可能性があると指摘します。
すぐに「悪いこと」と決めつけるのではなく、いったん立ち止まって、子どもが抱えている課題を早期にケアする姿勢が大切だといいます。学業や人間関係、万引きが子どもの将来に与える影響についても低く見積もるべきではありません。
●映像拡散、海外で生徒の万引き…学校が謝罪
京都の私立校、大谷中学・高等学校は昨年12月8日、公式サイトで、研修旅行中の生徒が窃盗行為に及んだとして謝罪文を掲載しました。
インドネシアのバリ島で、日本の少年らが集団で万引きをする様子を撮影した動画がSNS上で拡散していたことを受けた対応です。動画の拡散とともに、個人を特定しようとする動きも加速していたことから、学校側が事態の沈静化を図ろうとしたことがうかがえます。
●その万引きは日常的なものか?
子どもの万引きにくわしい須藤教授は、2015年にも、ある私立高校の運動部が遠征先の韓国で、空港の免税店で万引きをおこない、大きな問題となった事案で、学校側から助言を求められた経験があります。
その際、聞き取りの中でとくに注意したのが、「その万引きが日常的なものではなく、魔が差してやったものであるか」という点だったといいます。
「単純に『物が欲しかったから』と考えがちですが、万引きの動機は決して一つではありません」
●問題の根っこはどこに?
須藤教授によると、子どもの万引きは、仲間に誘われる「同調型」や、保護者の関心を引こうとする「関心喚起型」など、大きく5つに分類できるといいます。そのタイプごとに問題の根っこがどこにあるかを見極める必要があると指摘します。
たとえば、「お金を払うのがもったいない」「仲間はずれにされたくなくて、誘いを断れなかった」といった動機にとどまらず、「愛情が足りず親や先生に注目してほしい」「言葉にできない強いストレスや不満といった感情を発散させる」といった背景がある場合、「万引きはダメだ」と叱るだけの表面的な対応では不十分です。
その子の家族環境など、抱えている課題に丁寧に向き合う必要があるケースは少なくありません。
「根本的な問題が未解決のまま残ると、思春期に万引き以外の非行や犯罪など、より深刻な問題行動に発展する危険性があります。初期対応は極めて重要です。
家裁調査官時代、思春期以降の非行に接してきましたが、児童期にさまざまな問題を抱えていた子どもが多くいました。子どもが小さければ小さいほど、丁寧に手を差し伸べてほしいと思います」
●万引きで「停学」になることは十分ありえる
万引きが子どもの将来に与える影響は、法的な罰則にとどまりません。進学や、SNS社会ならではのリスクも存在します。
「14歳以上の場合、万引きは少年事件として家庭裁判所で扱われることがありますが、少年事件なので前科にはなりません。そのため、記録が高校進学や将来の就職に直接影響することは、基本的にはありません」
一方で、学校生活への影響を完全に避けることは難しいといいます。
「高校生であれば、校則に基づき停学などの処分を受ける可能性があります。その結果、内申点に影響し、大学進学などの進路選択に響くケースも考えられます。
家庭裁判所が学校に照会をかけることもありますが、高校生の場合、私立校では一発退学に至らなくても、停学になることがあります。家裁の調査官であっても、高校生については学校への照会に慎重になります」
●デジタルタトゥーの恐怖
さらに警戒すべきなのは、SNS時代の「デジタルタトゥー」のリスクです。
万引きの様子が防犯カメラに記録され、その映像がSNSなどで公開されるケースがあります。またたく間に拡散されてしまう危険性があります。
「子どものプライバシーを保護し、更生を促すため、少年の実名報道は原則として禁止されています。しかし、動画が出回ってしまえば、そうした法的保護は意味をなさなくなってしまいます。
何年後、何十年後であっても、本人の名前を検索すると表示される『デジタルタトゥー』として残り続ける可能性があります。将来の就職や進学に、長期的な不利益をもたらしかねない深刻な問題です」
保護者や教育者には、万引きを「SOSのサイン」と受け止めて対応する姿勢が求められます。同時に、子どもたち自身にも、デジタルタトゥーなどのリスクについて丁寧に伝えていく必要があるでしょう。
【プロフィール】 須藤明(すどう・あきら) 1982年4月から2010年3月まで家庭裁判所調査官。 その後、大学で教鞭をふるい、2022年4月から現在は文教大学人間科学部教授。著書に「学校関係者のための非行心理学入門」(金子書房)など。
