配管工は増える…NVIDIAのCEOがAI時代の仕事について語ったこと
AIによって、私たちの働き方はこの数年で急速に変化しました。
「消える仕事」の代表格とされるライターである私自身も、その変化を肌で感じています。同業者と集まると、話題は自然と生存戦略に寄るようになりました。
心配なのは、自分の仕事だけではありません。
子ども世代の将来です。進学の先にどんな未来が待っているのか?
以前よりも具体的に描きにくくなり、進路の方針も決めづらくなっています。だからこそ、IT業界のトップたちがどんな社会を思い描いているのかが気になります。
「少なくとも配管工の仕事は増える」
そう語るのは、NVIDIA(エヌビディア)のCEOであるジェンスン・フアン氏です。
AIはブルーカラーの仕事を増やす
フアン氏は、AIブームによって、配管工や電気工、鉄鋼・建設作業員といった技能職の需要が押し上げられると語っています。
背景にあるのが、彼が「人類史上最大のインフラ整備」と呼ぶAI投資です。すでに数千億ドル規模に達しているこの流れは、データセンターや半導体工場、いわば「AI工場」を大量に必要とします。そしてそれらを実際に建てるのは人間です。
フアン氏は、こうした現場の仕事でも年収10万ドル超、いわゆる6桁年収が見込めるようになると話しています。
実際にアメリカではブルーカラーの報酬が上昇しているという報道も増えてきました。
配管工が必要な理由「5層のケーキ」
ダボスで開催された世界経済フォーラムにて、フアン氏はBlackRockのCEO ラリー・フィンク氏と対談を行ないました。その際に、AIを「5層のケーキ」という比喩で説明しています。
最上層にはアプリケーション、その下にAIモデル、クラウドサービス、チップ、そして最下層にエネルギーがある。医療や製造、金融といった分野でAIが本当の価値を生むのは上の層ですが、そこに到達するには、まずチップ工場や電力設備といった物理的な基盤を整えなければなりません。
この「下の層」を作り、支える役割を担うのが技能職の人たちだ…フアン氏はそう主張しています。
「半導体工場やコンピュータ工場、AI工場を建てる人たちは、6桁の年収を得ることになるでしょう。誰もがちゃんと生活できる収入を得られるべきで、そのためにコンピュータサイエンスの博士号は必要ありません」
ホワイトカラーは消えるのか?
では、ホワイトカラーの仕事はどうなるのでしょうか?
この問いに対して、フアン氏が例に挙げたのが放射線診断の分野です。画像解析が得意なAIは、放射線科医の仕事を奪うといわれてきました。しかし、現実にはAIは医師の生産性を高め、より多くの患者を診られるようにし、結果として放射線科医の数を増やしてきたと説明します。
この考え方は途上国にも当てはまるとフアン氏は言います。AIインフラを道路や電力と同じ公共基盤として扱うべきだというのです。
「言語や文化という天然資源を活かし、自国のAIを作るべきです。それを磨き続け、国家の知性としてエコシステムに組み込むべきなのです」
この発想は、同じく世界経済フォーラムで発言したPalantir Technologies(パランティア・テクノロジーズ)のCEO アレックス・カープ氏の見解とも重なります。
同氏は、AIは人文系の仕事を破壊する一方で、職業訓練を受けた人には十分な仕事が残るとした上で、 「職業訓練があれば、大規模な移民がなぜ必要なのか分からなくなる」と語りました。
これは労働力不足を移民で補うのではなく、国内で人を育てるという考え方です。 AIがもたらす変化は、仕事のあり方だけでなく、国家の選択そのものにも影響を及ぼし始めているのかもしれません。
フアン氏は最終的に、さらなるAI投資の必要性を訴えて対談を締めくくりました。
もっともAIという「ケーキ」の最下層…チップを支える企業のトップであり、その成長が自身の資産と直結している人物からの発言だと考えると、少し都合のいい話に聞こえるのも事実です。
さらにいえば、多くの人がAIやロボットに期待しているのは、肉体労働や家事労働からの解放であって、ホワイトカラーの仕事が破壊されることではなかったはずです。「仕事は増える」と大きく括られても、素直に喜べない現実がある。その違和感も確かに存在しているように思います。

